俗に言う、古い建造物 /”Altbau”は超高級物件に!
何度もここで紹介してきたので皆さん、ご存じの事と思いますが、ドイツでは未だに空前の不動産ブームです。
その最先端を行くのが、ミュンヘン、ケルン、シュトットガルト、ベルリンなどの大都市。
ハンブルクもしんどいですが、州政府が早くからアパートを建設していたので、最悪な状況だけは避けることができています。
「ワーホリでドイツ行くけど、住む場所は着いてから探せばいいや。」
なんて安直に考えて出発したはいいが、住む場所が見つからず(契約できず)一か月もホテル暮らし。
お金がどんどん減っていき、
「助けてください!」
というメールをいただきます。
しかし、
「アパートを紹介してください!」
と言われても、御貸しできるアパートがありません。
結果、1年のワーホリビザを取ったのに、1か月ほどで帰国になるケースが多発しております。
「どうせ、誇張して書いてるだけでしょ。」
と思われている貴兄に、どれだけドイツ人がアパート探しで困っているか、その実情を紹介したいと思います。
この記事の目次
住む権利 – “Recht af Wohnen”
日本国民には勤労、納税、教育の義務が憲法に書かれていますが、ドイツの憲法にはないんです!
ドイツの憲法では、
「個々はその国(州)で相応の義務と権利を持つ。」
とだけ書かれています。ですからどんな義務があるのか、これはそれぞれの国(州)で決めるとなっているんです。
その一方で国民の権利 /”Grundrechte”は、かなり厳密に規定されています。そのひとつが住む権利 /”Recht af Wohnen” です。
住む権利とは?
住む権利は、
「第二世代の人権」
と呼ばれるもので、1966年の国会の決議、”International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights”がきっかけです。
国連での議決を受けて、ドイツでもこの決議が国会で批准されました(1973年)。
以来、ドイツでは住む権利が国民の権利となりました。
具体的にどんな場合に役に立つかと言えば、例えば失業により家賃を払えない場合、国民には住む権利を行使できます。
すなわち自治体には、失業者が今後も住めるようにその家賃を払うなり、居住空間を確保できる費用を払う義務があります。
家賃が20万円もするようなアパートではなく、もっとグレードの低いものにはなりますが。
その際の引っ越し代金は、自治体の負担になります。
ドイツと日本の違い
日本のように、
「市営住宅は一杯だから。」
と路上生活を強いると、法律違反で訴えられます。
市営住宅に空きがなければ(空きはありません)、市場に出ている空き物件を借り、自治体はその費用をもつ義務があります。
あまつさえドイツでは、
「訴える権利」
まで認めているので、お金がなくても国民は自治体を訴えて、憲法を守るように強いることができます。
自治体もそんなことは承知しているので、余程おかしな公務員に当たらない限り、「この書類に記入して提出して。」だけで済みます。
不思議なのは、日本もこの国連の決議を批准したのに、ドイツと同じ権利が国民に認められていない事。
大型台風がやってきて避難所を訪れた路上生活者を追い出すのが、日本の自治体。ドイツとは雲泥の差があります。
家賃が高くて住めない!
ところが近年の家賃の上昇で、仕事があっても
「家賃が高くて住めない!」
という状況が発生。さらには居住空間(アパート)の数が少なすぎて、
「住む場所が見つからない。」
という状況に。
日本なら、「東京は高いから仕方ない。」で済みますが、住む権利が認められているドイツでは、そうはいきません。
お陰で自治体は毎年、住宅給付金の上昇を迫られています。
それでも国民の怒りは収まるものではありません。
住宅給付金が出ない人も多く、「住む権利」が形骸化していく事に腹を立てます。
その怒りが選挙で示されて、選挙の度に政権にある政党は支持率を落としていきます。
「このままでは政権が危うい。」
と感じた中央政府が導入したのが、家賃ブレーキ法です。
家賃の上昇を止めろ! – 家賃ブレ-キ法
家賃ブレーキ法では、都市部の既存のアパートの値上げが制限されます。
しかし新築物件など、条例が効かない例外が多かった。
さらには大家さんが皆、この法律を守る事を期待していた(すなわち罰則がなかった)ので、効き目を発揮しなかった。
それどころが法令の導入後、かえって家賃が上昇するという正反対の結果になった。
家賃ブレーキ法 改 & 改②
さらに人気(支持率)を落とした政府は、家賃ブレーキ法を改定した。
しかし改定後も抜け穴が多く、又、大家さんが条例に従わないので、半年後にもう一度改定された。
これが「家賃ブレーキ法 改②」で、現行の法律だ。この法律では、
- 新契約の際、大家さんは前の契約の家賃を新しい賃貸人に書面で伝える義務
- 大目に請求した家賃は過去2年半に遡って請求できる
とされた。すると今度は法律が(やっと)効き始めた。
この法律の改正に新しい商売のチャンスを見出したスタートアップが、
「あなたに代わって、大目に払った家賃を取り戻します!」
と宣伝を始めたからだ。すると大家さんは、
「家賃ブレーキは、自由な経済活動を制限するものだ!」
と最高裁判所まで争ったが、負けた。
しかし、家賃ブレーキ法 改②で問題が解決したことにはならなかった。
家賃の上昇はある程度抑えられても、そもそもアパートの数が全然足らないという状況が、一向に改善されていないのだ。
ベルリン大人気! 人口の増加が止まらないっ!
ベルリンでは今、13万5000戸のアパートが欠けている。毎年、増築されているのは1万6000戸。
参照 : bz-berlin
ベルリンの人口増加が1万人/年であることを考えると、アパート不足はあと10年待っても解決できるものではない。
しかしそこは、「リベラル」な事で知られるベルリン、日本ではあり得ない解決法を考案した。
家賃の上昇を止めろ!- ベルリン 家賃値上げ禁止令
ベルリンの評議会 /”Senat”は、ベルリンの慢性的な居住空間の欠如を解決する案として、以下の提案をした。
- 転入禁止令
- 家賃値上げ禁止令
折角、新しいアパートを作っても、ベルリンの魅力に惹かれて転入してくる市民が多く、幾ら建てても問題が解決に向かわない。
そこで、
「ベルリンに住むことが絶対に必要。」
というケースを除き、転入を許可しないというプランが真面目に議論されることになった。
もうひとつの案が、家賃値上げ禁止令だ。この法案では、
- 2014年前に建造された物件のアパートを5年間凍結する
- 新規の賃貸契約では家賃 9.80ユーロ/㎡ を上限とする
- 上限よりも安い家賃の場合、新規の契約では1ユーロ/㎡ 値上げを許される
- 家賃が平均家賃よりも 120% 以上高い場合は、120% まで下げるべし
- アパートの近代化を施すと、1ユーロ/㎡ まで家賃の値上げを許される
という実に厳しい内容だ。
どちらのプランがより効果を上げることができるか議論された上で、家賃値上げ禁止令 / Mietdeckel に決まった。
この法案は評議会で採決され、2020年4月から新条例が施行されることになる。
家賃値上げ禁止令は合法?
勿論、大手の不動産会社は言うに及ばず、個人の大家さんも団結して、この条例に反対している。
大家さんの陳情を受けた野党の CDU は、家賃値上げ禁止令を法律違反として、司法裁判所に訴えると言っている。
参照 : welt.de
何処まで最高裁判所がこの条例をどこまで基本法(ドイツの憲法のこと)と合致すると判断するか、あるいはベルリンがそのような政令を出す権限があるのか、最高裁の判断が期待されている。
最高裁判決 – 家賃値上げ禁止令は無効なり
4月15日、ドイツの最高裁でベルリンの家賃値上げ禁止令 / Mietdeckel の判決が出た。
最高裁はベルリンが導入した家賃値上げ禁止令を違法であると判断、法律を無効と宣言した。
面白いのはその判決理由。
てっきり、
「家賃の上限を決めることは、自由な経済活動を制限するものか否か。」
が争点になるかと思ったら、
「地方自治体 / Land には家賃に関して法律を設定する権限がない。」
という理由だった。もう少し先まで読むと、
「そもそもBund / 中央政府が家賃ブレーキ法を導入したのだから、権限はBund にある。」
との事。
言い換えれば、Bundが家賃値上げ禁止令を導入するなら、
「合法」
というわけだ。
判決の余波
家賃値上げ禁止令により家賃を下げる事を余儀なくされていた大家は、即日、家賃の値上げを宣告した。
賃貸人には、これを受け入れるしか選択肢はなし。
安い家賃に喜んだ方、ご愁傷様です。
そもそも法律の導入の時点で、
「最高裁では負ける(筈)。」
と言われていたので、仕方ないです。