2025年5月6日、ドイツで新首相が選出された。
ようやくニ度目の選出投票で。
最初の投票で首相が過半数を獲得できなかったのは、ドイツ史上初めてだ。
あのヒトラーだって、一回で選出された。
一体、何がマズかったのだろう。
この記事の目次
新首相 選出投票
ドイツでは新首相就任の手続きが少し、日本とは異なる。
そもそも国会での首相選出投票に立候補できるのは、過半数を取れる見込みのある党首だけ。
日本のように
「鼻から見込みのない野党の党首」
が立候補することはない。
ドイツ人はそういう
「時間と労力の無駄」
はしない。
次いで過半数を獲得した候補に議長が、
“Nehmen Sie die Wahl an?”(指名を受けますか?)
と聞く。
日本だと聞きません。
その後、
“Ich nehme die Wahl an.”(指名を受けます。)
と回答して、晴れて首相となる。
ここからはお祝い。
その筆頭は
「選挙で負けた前任者」
だ。
前首相が新首相に
「おめでとう。」
と祝福しながら握手をするのは、(故)シュミット首相以来の慣例。
以降、与党ばかりか、共産党員まで首相就任の祝辞を述べるため、長い列を作る。
これが終わると、2Km離れた大統領府に移動する。
ここで
“Urkunde”(任命書)
を授かると、国会に戻り宣誓が行われる。
憲法書(1949年に書かれたオリジナル)に手を置き、
„So wahr mir Gott helfe“(天地神明に誓って)
と宣誓して、新しい首相が誕生する。
もっともこの
„So wahr mir Gott helfe“
は聖書から派生した言葉。
この為、イスラム教徒やプロテスタントはこの言葉を厭い、
“Ich schwöre es.”(誓います)
という大臣も居る。
ドイツらしいことに、その点はアバウト。
明確な決まりはない。
Kanzlermehrheit 達せず!
実は、
「メルツ新首相が誕生したら、すぐに記事を公開できるように!」
と、数日前から記事を準備していたんです。
なのに
「初回の投票で落選!」
となった為、書き直す羽目になりました。
冒頭で述べた通り、
“Kanzlermehrheit”(首相になるための過半数)
を取れなかった首相候補は、ドイツ史上メルツ候補だけ。
当然、国会は
「ハチの巣」
を蹴飛ばしたような大騒ぎとなった。
政府与党は合わせて328議席を持っている。
内、316人が賛成票を投じればよかった。
なのに賛成票は310票。
18人もの議員が反対票を投じたのだ!
このニュースにドイツ株式インデックス(DAX)は、2%も下落した。
新首相 過半数が取れない場合
初めてのことなので
「メルツが首相に就任できないと、、」
と、皆が心配した。
しかし!
ドイツの憲法はとてもよくできており、こんな事態も想定済み。
憲法では
- 最初の投票で過半数が取れない場合は、2週間以内に再投票を行う
- 2週間で過半数が取れない場合は、最大の得票数の候補が首相に就任する
と決められている。
すなわち!
今後、2週間以内に
「好きなだけ」
投票を繰り返せばいいわけだ。
100回でも、200回でも。
それでも過半数に達しなければ、2週間後に自動的にメルツ氏が新首相になる。
だから、あわてる必要は全くなかった!
左翼政党(共産主義者)新首相を助ける!
だからと言って、本当に100回も投票していたら、
「首相の地位」
は地に落ちる。
さらに!
新首相の候補が
「明日、もう一回。」
と、次回の投票時期を勝手に決めることができない。
憲法によると、次回投票の時期を決めるのは国会議員の賛成票、それも2/3の賛成票が必要だ。
しかし連立政権は
「簡単な過半数」
さえも確保できないていたらく。
これでどうやって、2/3の賛成票が得られるだろう?
もし次回の投票が
「1週間後」
になった際には、株式市場は大混乱になる。
可及的速やかに新首相信任投票をやり直し、Kanzlermehrheitを取る必要がある。
が、2/3の賛成票なんて絶対に無理!
ここで
「助け船」
を出したのは、よりによってCDUが
「いかなる共同作業も行わない。」
と宣言している左翼政党だった。
左翼政党は、
「国会の威厳を保つ為、すべての民主主義政党が一緒に働くべきだ。」
と新首相候補に働きかけた。
この左翼政党の呼びかけに、緑の党も賛成。
こうして
「極右政党を除くすべての政党」
が、同日の新首相選出投票のやり直しに同意した。
Kanzlermehrheit 達成!
失敗に終わった投票の後、CDUの幹事長とSPDの党首は議員を集め、
「危険な火遊び」
を辞めるようにお説教した。
これがかなり
「熱のこもったお説教」
だったと言われている。
こうして同日の15時15分から
「第二回目の新首相選出投票」
が行われた。
ドイツ中が注目する中、国会議長は
「賛成票は325票。」
と告知した。
この知らせをメルツ新首相は微動だにせず
「じっと」
前を見つめて聞いていた。
が、赤くなった顔がその感激を物語っていた。
„So wahr mir Gott helfe“(天地神明に誓って)
何はともあれ、これで正式にメルツ新首相が誕生。
この瞬間を
「長く味わいたい」
メルツ首相だったが、そこに
「首相は即刻、大統領官邸に出頭されたし!」
という通達が届いた。
そう、大統領は朝の9時から16時過ぎまで、
「じっと」
スタンバっていたんである。
そこでこの緊急通達となった。
メルツ新首相は早々に国会を後にして、大統領官邸にて
「任命書」
を受け取ると、
国会に帰ってきた。
ここでいよいよ最後の宣誓である。
新首相は
„So wahr mir Gott helfe“(天地神明に誓って)
で締めくくって、戦後10人目の首相が誕生した。
裏切者は誰だ!?
ここで(個人的に)気になるのが、
「裏切者は誰?」
という点。
2回目の投票では325票の賛成票があった。
すなわち!
初回で反対票を投じた18議員の内、15人は
「思い直して」
賛成票を投じた。
が、未だに3人の議員が反対票を投じている。
反対票を投じたのは、一体、誰だろう?
首相選出投票は秘密投票なので、正確なことはわからない。
が、
「反対票の多くはSPDから。」
と囁やかれている。
というのも党首に収まったクリンクバイル氏が、党員の功績や地位に関係なく、大臣の席を埋めてしまった。
これに古参党員が怒っていたと言われている。
全く同じことがメルツ党首にも言えるが、
「裏切者の大部分はSPD議員」
というのが一般的な見方だ。
次回は、、
本当はここで、新たに大臣に就任した顔ぶれを紹介する予定だったんです。
が、急遽、記事を書き替えました。
大臣の紹介は(多分)次回にします。