いつも話題を提供してくれるエアバス社(旧EADS)。
今回はここで何度も取り上げているエアバスの軍事輸送機、A400Mの続編だ。この前、ここでこのテーマを取り上げたのが2年前。
参照 : 墜落炎上
「そろそろ問題を解決しただろう。」
と思いそうだが、そこはエアバス、未だに問題を抱えている。それも同じ問題を。
この記事の目次
A400M 問題の根源
60年代に導入された軍事輸送機Transall C-160。
参照 : wikipedia
独仏の共同事業で、エアバスではなく、独仏の航空機メーカーが生産した。
大きなトラブルもなく、信用性も高く、ルフトハンザは軍事用途に開発されたこの輸送機を民間用として注文したほど、よく出来た輸送機だった。
しかし導入から20年も経つと、
「近い将来、次世代の輸送機が必要になる。」
と軍需産業は会合、将来の入札に向けて共同で軍事輸送機を開発する協定を結んだのが1982年だ。その後、最初の試作機が製造されたたのが1994年。
ここでEADS社(現在はエアバスと社名を変更。)が、この飛行機の開発を引き継ぐことになった。
同社はまだ開発中なのに、新型の軍需輸送機のパンフレットを刷って、
「買ってくださいな。」
と欧州、トルコ、アジアでセールを開始した。これがA400M 問題の根源だった。
生産前に空約束で大量受注
2003年までに同社は180機の生産受注を受けた。
製造開始前に受注の約束を取り付けるため、エアバスは客の望みを、
「勿論、できますよ。」
と、二つ返事で受けた。
その条件をA400Mの開発チームに伝え、仕様を変更した。180機もの受注を受ける頃には、同機の仕様は計画時とは大きく異なり、
「なんでもできる軍事輸送機」
となっていた。これは夢物語で、積載能力を上げると、航続距離が落ちる。そこでエンジンの出力を上げて解決を図ったが、燃費が悪くなり、航続距離が減った。
これを永遠に繰り返す事になった。
当初、
「2008年には製造を開始できる。」
と豪語した。案の定生産開始は1年遅れ、2009年に組み立てが始まり、やっと試験飛行が始まった。エアバス社は、
「2010年には最初の機体をフランス空軍に納入できる。」
と豪語した。
ところが同機は大きな問題を抱えて、開発費がうなぎ登りとなった。
エアバスは注文をした各国を、
「値上げを受け入れてくれないと、生産をやめる。」
と脅した。大株主であるフランスとドイツはこれに応じたが、他の国はそう簡単にいかなかった。
国防大臣に賄賂を贈るなどの工作の結果、なんとか値段交渉を乗り切ったが、最初の機体は3年遅れで2013年にフランス空軍に納入された。
しかし生産をしながら欠陥を補正していくため遅延が生じ、ドイツ空軍に納入されるA400Mは毎年5機ではなく、2機に減らされた。
そして2015年にはここで紹介した通り、納入前の試験飛行で墜落、乗組員が死亡した。
A400Mは欠陥機?
A400Mの最大の問題は、そのエンジンにある。
「舗装された滑走路を必要としない。」
という売り文句のためプロペラエンジンを採用したが、プロペラ エンジンでは計画した出力が出なかった。
そこで同社は買い主に約束した最大積載用を減らすことで、なんとか輸送機を飛ばそうとした。
ところが、今度は出力をマックスまで上げたエンジン内部で亀裂が発見された。
参照 : welt
同社はエンジンの総合点検を最初の500Kmの飛行で行うようにマニュアルを変更、その後は250Kmごとに点検が必要とした。
250Kmで総点検が必要になる車なら、誰も買わないだろう。しかしこれは車ではなく、長距離飛行をする輸送機なのだ。
250Kmでエンジンの総合点検が必要になる輸送機に、どんな価値があるだろう。これでは軍事作戦に使えない。
エアバスは新しい航空機を開発する際の鉄則、
「せめてエンジンだけは、すでに機能が証明されている既存のものを使う。」
を無視したため、この有様だ。
国防大臣の販売促進パフォーマンス、逆効果に
「値段が上昇する一方で、その飛行機自体は飛び立つことがない。」
と散々の酷評をいただいたエアバスの宣伝に、ドイツの国防大臣は自ら一役買って出ることにした。
リトアニアで開催されるNato加盟国会議への出席にA400Mを使用して、
「この輸送機は実用できる。」
とわが身をもって示威した。
参照 : welt
ところがリトアニアに到着後、エンジンが(また)故障した。ドイツ空軍は国防大臣を連れ帰るため、導入から50年近くたつTransall C-160を派遣して、この機は大臣を無事連れ帰った。
故障のA400Mは、ドイツ空軍が現地に部品を運び込み修理中だ。
損害賠償請求
納入が遅れ、約束した機能も発揮できないA400Mに対して、
「契約違反だ。」
と購入国から損害賠償を要求する声が高くなった。同社は2016年の決算報告で、同機の修理のために22億ユーロもの大金を見積もっていると発表、同社の儲けは2015年と比較して10億ユーロも減額した。
参照 : handelsblatt
この修理(予想)額には、購入国への契約違反金は含まれていない。
購入国が契約で正当に認められている契約違反金の支払いを要求すると、エアバスはこれを払う義務があり、同社の2017年度の会計は赤字にさえなりかねない。
そこで、「契約違反金の要求は控えるべきだ。」と同社のロビイストを各国に派遣、賄賂を贈ってご機嫌を取る事に余念がない。
教訓
新しい飛行機を開発する際は、予期できない問題が必ず発生する。
これを最小限度に抑えるために、あらゆる努力がされなければならない。まだ設計も終わってないのに客の要望で仕様を何度も変更するなど、問題外。
「でもそれじゃ、飛行機が売れない。」
と言うならA400Mの醜態、それで足らなければ日の丸ジェット 三菱MRJの開発を見てみればいい。
三菱に至っては旅客機を完成させることができず、永遠に開発中となっている。
オイロファイター 贈賄問題
エアバスの問題はA400Mだけではない。
オーストリアへのオイロファイター納入でふんだんに賄賂を贈ったため、同社は収賄でオーストリアから訴えられてしまった。
エアバス社は払った賄賂の費用を回収するために、オーストリア政府に水増し請求書をしていたのだ。
その額が凄い。ナット一個がなんと3000ユーロ。オーストリア空軍には、
「純正部品を使用すること。」
という規定があり、このべらぼうに高い部品を使用せざるをえなかった。まるで暴力団だ。
オーストリア政府はエアバスをオイロファイターを回収するように訴えている。エアバスは賄賂を払った事を認め、罰金をオーストリア政府に払うことで、問題の解決を図っている。
参照 : derstandard.at
A380 高すぎる問題
エアバスの問題はそれだけでは問題は収まらない。
同社が開発した世界最大の旅客機、A380は値段が高すぎて注文のキャンセルばかりが入ってきている。
お陰でこれまで納入されたのは138機で、これでは開発コストさせも回収できておらず、この飛行機はデカイ赤字を生む結果になっている。
まだ318機の予約注文が残っているが、今後もキャンセルが続けば同社は生産を終了して、空いている組み立て工場を他の儲かる航空機の組み立てに使用せざるを得ない。
参照 : tagesanzeiger
民間の企業なら無能な経営陣は刷新されるが、国が経営に参加しているため、政治家への賄賂で急場をしのぎ、癌の巣窟が削除される事がない。これが国有企業の宿命だ。