コロナ危機 でトイレットペーパーの買いだめをするのは、日本人くらい。と思ってたら、ドイツでも同じ現象が、、。
トイレットペーパーを買いだめする消費者のその姿は、学校の教科書で習った70年代のオイルショックの再現だった。人は何故、危機が起こると人種に関係なく、トイレットペーパーの買いだめに走るのか?
ちなみにドイツではトイレットペーパーに加えて、スパゲッテイー(とソース)が大人気で、商品棚から消えた。お陰で「危機になるとドイツ人はスパゲッテイーを食って、トイレで1日〇〇してる。」というジョークが流行った。
冗談はそのくらにしておきます。
今回のコロナ危機では、業績を伸ばした数少ない勝者と、その他大勢の敗者がいた。日本国内のことはみなさんよくご存じですが、ドイツのことはさっぱりわからないと思います。そこでドイツのコロナ危機の勝者と敗者を紹介したいと思います。
この記事の目次
コロナ危機 勝者
まずは圧倒的に少ない、コロナ危機の勝者から紹介します。コロナウイルス蔓延による外出制限で特をしているのは、実店舗を持たずにサービスを提供している会社です。典型的な所では米国の大企業、アマゾンや Neflix 。
これからの会社はコロナ危機の代表的な勝者ですが、ドイツでは同じ分野で勝負ができるプレイヤーがいません。そこで他の分野で株価が上昇している会社を紹介します。
ビオンテック / Biontech
ビオンテックは、バイオテクノロジーの技術を使用したワクチンを製造する会社です。会社の所在地はマインツ。ドイツでも新型コロナウイルスのワクチン開発競争が始まっていますが、最初の競争で勝利したのがビオンテックです。
4月22日、ワクチンの監督機関が、この会社が開発したワクチンを人体でテストする許可を出しました。
参照 : sueddeutsche.de
ドイツでは最初のコロナウイルス ワクチンの治験ということで、大きな話題になりました。当然、株価も上昇中で、コロナショックにもかかわらず株価が上昇している稀な会社のひとつです。
皆まで言えば、コロナウイルスの DNA を採取して作ったコロナウイルス ワクチンです。従来のような毒性を弱めたウイルスをワクチンとして使用するものではないので、リスクが少ないです。
全部で4種類のワクチンがあり、20歳~50歳までの健康な「志願者」にて試されます。その結果をみて、さらに大型の治験を実施して、汎用ワクチンの製造へ。
おっし!これでコロナ終焉!と思われるかもしれないですが、臨床実験がうまく行っても、一般用のワクチンができるのは早くても年末。大量のワクチン生産は来年の春、、。
おっし!来年の春にはコロナ終焉!東京オリンピックも開催!と思われるかもしれないですが、日本政府は、「日本人で治験していないと許可を出さない。」という鎖国政策を取っています。
ドイツのワクチンが日本で使用される可能性は薄し。
ドレーガーヴェルク / Drägerwerk
次は人工呼吸器を製造しているドレーガーヴェルク / Drägerwerk という会社です。会社はかってのハンザ都市、リューベックにあります。なんでこの会社の株が上昇しているか、説明する必要もないほど、コロナ危機の勝者です。
人口呼吸器の注文は去年の倍+のペースで、会社の業績予想を上方修正。このドサクサに紛れて増資するも、翌日には株式は上昇に転じる、イケイケドンドンの会社。
よし、俺も株買うぞ!と思われた方、配当金が19セントと雀の涙。株価に対して0.25%ですから、配当金でお金を稼くのは無理。
キアゲン / Qiagen
次は日本ではなかなか受けれない貴重な PCR テストキットを製造している会社、キアゲン / Qiagen です。日本政府にもPCR テストキットを販売しています。会社はデユッセルドルフ郊外のヒルデン。
勿論、株価は順風漫歩。
よし、俺も買うぞ!と思われた方、辞めたほうがいいです。配当金ゼロ。すでに他社から会社の買収オファーも出ており、株価はコロナ危機の前から高飛行。これ以上、株価が上がる可能性は薄いです。
サナトリウス / Sanatorius
最後は薬品会社などの研究施設にさまざまな装置を提供している会社、サナトリウス / Sanatorius です。会社の所在地はゲッティンゲン。各社、コロナウイルスの特効薬、ワクチン製造でしのぎを削っているので、同社の製品は大人気。
コロナショックで株価が一時がっくりいきましたが、あのときに買った人は一財産稼ぎましたね。
よし、俺も買うぞ!と思われた方、時遅しです。配当金61セント。株価でみれば、0.03%。口座にお金を置いておくのと変わりません。
コロナ危機 敗者
圧倒的に多いのが、コロナ危機による敗者です。米国や英国と頃なり、ドイツには製造業が多いです。結果、コロナショックがドイツに与えた衝撃は、米国や日本よりも大きかったです。日経が30%+の下落で済んだのに、DAXは40%+も下落しました。
コロナショックで経営難に陥っている会社が多いので、有名企業からあげていきます。
トゥイ / Tui
まず最初は世界最大の旅行主催者、トゥイ / Tui です。何故、コロナ危機の敗者なの?なんて聞く人は居ません。世界中で入国が禁止されているので、旅行が売れるわけもありません。問題はすでに買い上げているホテルの部屋と飛行機の席。
フライトがキャンセルされているので、航空会社から返金があるかもしれませんが、ホテルからの返金はなさそう。世界最大の旅行主催者なので、その額は膨大な損失です。
コロナ危機の最長期には、株価が1日で35%も下落。それも連続で。私は株をもっていませんでしたが、心配になりました。
結局、ドイツ政府が用意した「上限なし & 担保なしのクレジット」を利用、180億ユーロの融資を受けました。
参照 : n-tv.de
ルフトハンザ / Lufthansa
実に同社のフライトの98%がキャンセルされています。欧州最大の航空会社、規模がデカイだけに苦しんでいます。損益は日本の全日空、日本航空の比ではないです。
アナリストによる試算では、飛行機が地上待機していることによるルフトハンザの損益は1時間で100万ユーロ。
参照 : faz.net
当然株価は急降下中。
よし、今買えば大儲け!と思われた方、辞めたほうがいいです。ご覧の通り株価は未だに下落中。ドイツ銀行は同社の株価予想を5.80ユーロまで下げました。
いや、俺は3年待てる!言われる方、やめた方がいいです。ドイツ政府がルフトハンザの(再)国有化に備えて、十分な資金を準備しているで、倒産することはありません。でも、国の資金援助を受けている限り、あるいは国有化されると配当金はゼロです。
3年経てば、株価が倍になっている可能性はありますけどね~。英国の有名な投資家は、「航空会社は社会に必要だ。でも誰か他の人が投資してくれれば嬉しい。」って言ってます。私も同感です。
エアバス A380お払い箱
ルフトハンザはこの危機に際して、同社が所有する世界最大の航空機、エアバス A380 を同社のフライトオファーから外す決定をしました。運用費用が高く、ペイしなかったんです。全日空はこの高いA380を去年、3機も導入した。
コロナ危機でどこかでパーキングしており、宝の持ち腐れになっています。きっと今頃、こんな馬鹿でかい航空機を3機も購入した事を後悔している筈。
だから(ここで)1年以上前に「辞めた方がいい!」って言ったのに。自業自得。
ジャーマンウイングス お払い箱
ルフトハンザはこの危機に際して、同社の格安航空事業、ジャーマン ウイングスの運行を(将来も)回復しないと発表しました。同社の自殺パイロットにより大量の死者を出し、その後もストばかりして、親会社の頭痛の種でした。
「今ならストできないだろう。」とばかりにルフトハンザはこの危機にジャーマン ウイングスをお払い箱に。労働組合は地団駄を踏みましたが、時すでに遅し。今後、ルフトハンザの格安航空会社はオイロ ウイングスに集約されます。
ホテル業界を代表しておフランス大手のアコーア / Accor
新型コロナウイルスの被害を航空、旅行業界よりもひどく受けているのは、ホテル業界だ。ホテルはとても大きな施設を有しており、従業員の数が半端ない。固定資産税も馬鹿にならない。
例えば車業界も減産を強いられているが、外出制限が解除されれば、じき、お客は戻ってくる。すぐに客が戻ってこなくても、買い控えをした分は、ほぼ確実に取り返しできる。車は毎年古くなっていくからだ。
しかし休暇や出張を控えてキャンセルした宿泊は、あとから取り返せない。失われた売り上げは、永遠に失われたままだ。このため、コロナ危機後、ホテル業界の大量死が危惧されている。
メルキュール、ノボテル、イビスなど、フランス大手のアコーア / Accor の株価がなかなか戻ってこないのも無理はない。
カオフホーフ カールシュタット倒産
何故、日本にはあんあに多くの百貨店が未だにあるの?
と不思議でならなかったが、日本の百貨店も業績不振と戦っている。その日本の20年先の未来が、ドイツの百貨店だ。ドイツには百貨店はほとんど死に絶えた。最後に残っていたカールシュタットがカオフホーフを買収して、ドイツ百貨店連合が誕生した。
計画では2020年には同社は初めて黒字を出す予定だったが、コロナ危機で百貨店は閉店を余儀なくされた。閉店になる前から客足は大幅に落ちており、閉店命令がとどめを刺した。同社は4月2日、会社更生法の適用を申請した。
参照 : sueddeutsche.de
同社は政府が用意した無制限の融資を利用する事も考えていたが、「時間がかかりすぎる。」と判断、ただちに会社更生法が適用される倒産の道を選んだ。今後、政府に財政援助を申請して、会社を立て直していくことになる。
危機の中にこそ勝算あり!
毎日、「どうやって会社を存続させようか。」と頭を悩ましている方には、「時遅し」だが、実は危機の中にこそ勝算がある。いい例が米国の大手スーパー ウオルマートだ。経営モデルを同業者にコピーされ、似たような大手スーパーが林立。
平時には競争が激しくて、一人勝ちできるような状況ではない。ところが危機になると、事情が異なってくる。ライバル会社の経営者がちょうど事業の拡張を計画中だったりすると、銀行に融資を受けて免疫力が落ちている。
そんなときにリーマンショック、コロナショックが起きると、商売をコピーされて憎かった同業者が潰れていく。ウオルマートは経済危機が起こる度に市場占有率を上昇させて、米国大手にのしあがった。過去の幾つもの経済危機がなければ、不可能だったろう。
言うは易しだが、これを実行するのは難しい。会社の事業が好調な時に、危機に備えたプランを立てて、十分な資金源を確保している会社は数えるほどしかない。今の日本政府のコロナ危機への対策がそのいい例だ。
過去何度も疫病が発生しているのに、疫病 & 経済危機のマスタープランがない。毎回、出来事に追われて、手遅れの政策を連発。これこそ危機の際に倒産する会社の典型だ。その真逆がドイツ。
ドイツのマスタープラン – 短期労働 / Kurzarbeit
ドイツには疫病発生時だけでなく、経済危機発生時のマスタープランがある。それは短期労働 / Kurzarbeit だ。今回のような緊急事態で被雇用者が勤務できない場合、会社は労働局に短期労働の申請をする。
すると被雇用者は自宅待機の代わりにこれまで得ていた収入(手取り)の60%が支給される。
受給期間は12か月だが、今回のコロナ危機では21カ月に延期された。おまけに今回は受給額が通常の60%から、最高で87%まで増額された。
参照 : sueddeutsche.de
これにより解雇を避けることができるばかりか、ウイルスを蔓延させない自宅待機が可能になり、危機が過ぎると直ちに生産を開始することができる。
ドイツはまた勝ち組?
このマスタープランのお陰でドイツはリーマンショックの後、いちはやく生産を開始することができた。一方、そのようなマスタープランがない国では会社は倒産して、危機が回復しても生産を開始することができなかった。
仮に倒産をまぬかれても、熟練労働者を解雇したため、生産の立ち上げに時間がかかる。その間にドイツ企業が市場を席巻する。
こうしてドイツは危機が起きる(収まる)度に、市場をますます広げていった。まさにウオルマートの政府版だ。これがあるからドイツ政府は、100兆円を超えるコロナ経済対策を組んだ。今払う金は、本来払う筈の失業保険の代わりになり、いざ危機が終焉すると企業が払う税金や失業保険加入金で取り戻せる。
今回のコロナ危機の後、ドイツはまた勝ち組になりそうだ。一方、日本は自粛要請だけで、補助金なし。日本の雇用の中核を成す中小企業が、出血死するに任せている。これでいんだろうか?
いいとも思えないが、日本国民が選挙で圧倒的な支持で選んだ政府のすること、今更、文句も言えない。
真価は危機の際に試される
これに関して、(故)シュミット首相が遺した有名なセリフがある。”In der Krise zeigt sich der Charakter.”(真価は危機の際に試される。)というものだ。第二次大戦中、血なまぐさい東部戦線を生き延びて、政治家になってからも、さまざな危機に見舞われた。
ハンブルクの高波ではシュミット氏は当時の命令系統に従わず、駐留中の英国空軍、及びドイツ軍に口頭で出動要請をした。英国空軍、そしてドイツ軍は、「正式な命令系統と違う。」と文句を言わずに軍を出動、数千人を空から救出したが、340名がなくなった。
参照 : wikipedia.org
2019年に日本を襲った台風では、自治体が自衛隊の出動を要請すると、「所定の書類に記入してFAXしろ。」という能天気対応。出動命令が来る前に自衛隊が気を利かして給水車で出動すると部隊長から、「大馬鹿者!」と叱咤されて、何もせず引き返した。
これが日本の緊急時の対応の典型だ。まさにその真価が危機で試されて、その(無)能力を証明した。