1889年、ドイツが再統一された。統一のお祝いをよそに、ボロボロの東ドイツのインフラを西ドイツ並に整備しないと、東ドイツの将来はないことは政治家にもわかった。そこで”Solidaritätszuschlag”(日本でいう復興税)を導入すると、税金を湯水のように注入してインフラの整備を始めた。しかしそこは官僚の考えること、船が来ない場所に巨大な内陸の港を建設したが、寄ってくれのるは閑古鳥。
数億ユーロの金をどぶに捨てた。そして新たに建設された高速道路網には、海から集めた砂利を使用したために道路の表面が酸でひび割れ、10年も持たずに新しい舗装が必要になった。
参照元 : NTV
私企業がそんな間抜けな計画をすると会社が倒産するが、官僚はミスをしても責任を問われない。官僚の間違いを補正するために、ドイツの納税者はまたしても数億ユーロを払わせされることになった。
この記事の目次
東ドイツ復興計画
このドイツ政府の東ドイツの復興プランのひとつに、東と西を鉄道で結ぶプランがあった。日本でも東京、名古屋、大阪に人口が集中しているように、ドイツでもベルリン、ハンブルク、ミュンヘンに人口が集中している。これらの都市を高速鉄道で結ぶプランが計画された。最初に開通したのがハンブルク-ベルリン線で、両都市を2時間未満で移動することができるようになった。
ベルリンーミュンヘン直行便開通!
同時に着手されたミュンヘン-ベルリン線は難航した。バイエルン州の最大都市ミュンヘンと第二の都市ニュルンベルクを結ぶ高速路線はあるのだが、ニュルンベクからその先が平坦なハンブルクやベルリンと異なり山地になっており、22ものトンネルと29もの橋が必要になった。この大事業にふんだんな資金源(共同税)を贅沢に使用して、26年もの長きに渡って建設してきた。そして2017年12月、ミュンヘン-ベルリンの高速路線がいよいよ開通した。
これまでは6時間以上かかったために利用客の少なかったミュンヘン-ベルリン線だが、新路線の開通により乗車時間が4時間15分に短縮された。ドイツ鉄道にしては珍しく、この路線に「超特急」のスプリンターという電車を投入した。この電車は途中で停車せず、新幹線並みの300km/hで走るので両都市を3時間55分、かろうじて4時間未満で結ぶ。このスプリンター導入の目的は、「3時時間55分」という見栄ばかりではなく、航空業界への宣戦布告でもあった。
飛ぶより早い?
飛行機を使用すると、まずミュンヘン市内からミュンヘン空港まで1時間近くかかる。これに空港での待ち時間、飛行時間を計算に入れると、ミュンヘン市内に住んでいてもベルリンまで4時間かかる。郊外に住んでいるなら5時間以上も必要だ。
飛行機でベルリンに到着して、荷物を受け取るまでさらに1時間、市内に移動するのに30分かかることを考えれば、市内にあるベルリン中央駅に到着する鉄道のほうが利点がある。さらに荷物の制限もなく、電車内でインターネットを利用できる利点がある。
日本の東海道新幹線のように、この区間はドイツ鉄道のドル箱路線になる筈だった。路線の開通日には、ドイツ鉄道の社長がバイエルン州の交通大臣と一緒に電車に乗り込んだ。途中の停車駅では東ドイツの州の州知事が相乗りして、皆で仲良く揃ってベルリンに行く。その電車にはテレビ局や記者を招待して、ドイツ鉄道のお宝をドイツ中に無償で宣伝してくれる筈だった。
ところがこの宣伝は全くの逆効果になった。最初の駅では5分程度の遅延だったが、途中で電車が何度も途中で止まってしまい、ベルリンに着くとなんと150分もの遅延を達成、
参照元 : Spiegel Online
「ドイツ鉄道は26年もかけてたのに、まともに電車を走らせることもできない。」とドイツ中で嘲笑されてしまった。そして遅延は記念すべき開通日だけに限らなかった。途中で電車が機能しなくなり乗客を乗せた電車が立ち往生、ドイツ鉄道は代わりの電車を派遣する羽目になり、数時間の遅れが日常化した。ドイツ鉄道は乗客にチケット代を全額返却、電車のレストランからは無償で飲み物、食べ物を提供したが、ドイツ鉄道の評判の回復にはつながらなかった。
笑いの対象
ドイツ中の”Witzfigur”(笑いの対象)になったことは、それでもドイツ鉄道の威厳を損ねたようだ。ドイツ鉄道は電車を納入したフランスのアルストームから技師を呼び寄せると、検査機器を満載した電車を何度も走らせて、電車の停止する原因の究明にあたった。そして誰も期待していなかった事態が起きた。2ヵ月後にはベルリン-ミュンヘン路線は、新幹線には及ばないがそれでも90%+の定刻到着を達成、ドイツ中の路線の中でももっとも遅延の少ない路線になった。(途中で数回しか止まらないのに、それでも未だに遅延するのがドイツなので、旅行時間は余裕を見て計画ください。)
低価格は最初だけ?
ドイツ鉄道は日々、この路線に35台ものICEを投入しており、ミュンヘン-ベルリンは1時間おきに出ている。電車はなにもミュンヘンだけではなくベルリンからバイエルン州の大都市、ニュルンベルク、バンベルク、アウグスブルクを直行便で繋いでおり、アウグスブルクからベルリンまで乗り変えなしで5時間未満でベルリンにいける。さらに値段が安い。開通したばかりで大安売りしているかもしれないが、電車のチケットを1ヶ月前に買えばなんと66ユーロ(往復)だ。この区間を荷物を持ってルフトハンザで飛ぶと300ユーロ、英国の格安航空、Easyjetならその半額だが、鉄道ならこの格安航空会社の半額でベルリンまでいける。
このドイツ鉄道の攻勢が効いた。エアベルリン倒産後、ルフトハンザは大幅にチケット価格とあげたことも加わって、旅行者はドイツ鉄道に乗り換えた。まだ故障に見舞われていた12月、この路線を利用する乗客の数が2倍になったという。遅延、欠航がほぼ解消された今、今後も乗客数が上昇を続けるのは間違いない。ここしばらくはまだ安い値段で旅行できるので、ベルリンに留学されている方はこの機会にバイエルン州まで、バイエルン州に滞在している人はベルリンまで旅行してはどうだろう。