フォルクスヴァーゲン社(以下 VWと略)は60年前に株式会社 AG へと会社の形態を変えた。
その記念日に販売開始されたのが、ドイツの車メーカーで初めてとなる大衆向け電気自動車 ID.3 だ。(*1)
VWは、「2021年にはテスラと同じ数の電気自動車を販売する。」と豪語しており、自他共に認める
「追いつき、追い越せテスラー!」
の筆頭メーカーだ。果たしてVWの野望は成就するだろうか。
この記事の目次
ID.3 とは?
短いのに覚えにくい車の名前は、”die dritte Idee”(第三のアイデア)から派生してる。
第一のアイデアがVWをドイツ有数の自動車メーカーにしたカブトムシ(ドイツ語ではKäfer)。第二のアイデアがVWを世界の車メーカーにしたゴルフ。
そしてID.3が、VW の覇権を確固たるものにする第三のアイデアというわけだ。この野望を実現するために、同社は排ガススキャンダルで払った賠償金とほぼ同額の330億ユーロ(4超円)を大衆電気自動車の開発に投入した。
VW 大衆向け電気自動車 ID.3 販売開始!
BMWの高価な大衆電気自動車と異なり、VW の電気自動車は一番安いモデルは2万6500ユーロで買える。(*2)
これが故にドイツメーカーで最初の大衆向け電気自動車という称号だ。トップモデルでも4万1000ユーロ未満 (*3)
大衆電気自動車のスペックだが、最高速度は160kmhまでしか出ないように設定されている。元々電気自動車は環境保護に関心のある方向けなので、高速で200Kmhで走りたい方は、ID.3の販売客の対象に入っていない。
肝心のモーター、すなわち蓄電池容量だが58Kwhと77Kwhの2タイプが用意されている。
58Kwhでの通常走行距離は420Kmだが、トランクは空、一人だけ乗車、ラジオもクーラーも使用しない状態での最高到達距離。
通常走行では300km少々しか走れない。
77Kwhでの通常走行距離は550Kmだが、同様の理由で通常走行では440km少々しか走れない。家族で使用するなら、77Kwhにすべきだろう。
後から45kwhというさらに小さな蓄電池容量を搭載したモデルも出るが、市内でのお買い物、通勤にしか使わない人向き。週末の遠出は難しい。
充電は11kwの充電応力を搭載、空から満タンになるまで6時間。ID.3は100Kwの速攻充電にも対応しており、ここなら30分で80%まで充電できる。
Honda eとの比較
8月末、ホンダが Honda e を発表した。
参照 : 本田
販売は10月になるので、VW よりも少し遅れての販売開始だ。搭載されている蓄電池容量は35,5Kwhとかなりの小型。これでは市内通勤とお買い物にしか使えない。
しかし価格は立派で451~495万円。搭載能力、走行距離、価格、どの点を比較しても、ID3 には及ばない。ホンダ自身も、
「あまり売れないだろう。」
と予想しており販売台数は1000台/年に限定されている。大衆電気自動車ではなく、あくまでもマニア向けの電気自動車のようだ。
本来なら日本政府も基幹産業である自動車業界を助けるため、税金を導入、
1. 電気自動車購入奨励金
2. 充電インフラの装備
すべきなのだが、コロナの血迷った対策で手一杯。
一方、ドイツ政府はコロナ禍の真っただ中に、
「コロナ後の世界戦略」
を建て、コロナ経済復興計画に組み入れた。政治家の視野、能力が違い過ぎる。
販売 & 生産目標
VW は7月から販売をスタートしたかったが、ソフトウエアの問題で8月末まで延期された。
大衆電気自動車ID.3は東ドイツのザクセン州で製造されているが、2020年度の製造台数目標は3万台。この3万台はすでに予約で一杯なので、今、購入しても、届くのは2021年になってから。
2021年は「テスラーに追いつく年」なので、10万台を計画していた。が、上述の問題で製造目標は半分の5万台に減らされている。
2024年にはVWはテスラーを追い越し、
「世界で最大の電気自動車販売数」
を誇る電気自動車の大手になる計画で、2025年には毎年、150万台の電気自動車がVWの工場で生産される計画だ。
次は大衆SUV電気自動車 ID.4.
この壮大な目標を実現するため、VW は他社に先駆けてすべての電気自動車に共通するシャーシーを製造した。
自動車の下部に蓄電池を配置するデザインなので、バランスがよく、スペースを有効に使える。
一方、電気自動車で一番出遅れているメルセデスは、内燃エンジンがあった場所に蓄電池を入れただけ。スペースが無駄になっている。
VW はこのシャーシーを使って、2021年には大衆SUV電気自動車 ID.4.を投入する。理想走行距離は500Kmというから、ID.3で投入されている77Kwh の蓄電池が投入される可能性が高い。
参照 : Volkswagen
借金王
VW を筆頭にドイツ車はこれまで内燃エンジンに拘ってきただけに、電気自動車の開発でテスラに大きな差をつけられていた。
ドイツの自動車メーカーはこれまで通り内燃エンジン車を製造しながら、電気自動車を開発するという金のかかる事業を迫られて借金が膨らんでいる。
電気自動車開発を最も推し進めたVWの借金は実に1950億ユーロ(24超円)に昇っている。トヨタの借金はその1/4。これを見るだけでも、VW がどれだけ電気自動車開発に社運を賭けているか、何故、ID.3という名前になったのか、理解できる。
VW の大株氏で取締役員のポルシェ氏は、
「今度は成功しなきゃならん。」
と発言、社長のデイース氏の命運もこの事業にかかっている。
参照 – VW 大衆向け電気自動車 ID.3
*1
オペルが大衆向けの電気自動車を開発、販売しているが、フランスのPSAグループなので、敢えて除外。
参照 : Opel Ampera e
*2
ドイツ政府がコロナ対策で実施した電気自動車購入奨励金の9000ユーロ+消費税15%への減額を適応後の価格
*3
ドイツ政府がコロナ対策で実施した電気自動車購入奨励金の7500ユーロ+消費税15%への減額を適応後の価格