ベストセラー ルノーの電気自動車 ZOE
ドイツ政府はこれまで度々、電気自動車を普及させるいろんな試みを行ってきた。
一番最初は2013年にメルケル首相が掲げた
「2020年までに100万台の電気自動車登録台数達成」
だった。
参照 : www.tagesspiegel.de
国民に電気自動車を買ってもらうべく、4000ユーロの購買奨励金を用意して、
「早い者勝ちですよ。」
とやったが、4年経っても奨励金は空にならなかった。何が悪かったのだろう?
この記事の目次
電気自動車 が普及しない理由
などと聞くまでもない。
自宅(アパート)の駐車場に充電できる施設がなく(*1)、ドイツの現行の法律では、
「金を払うから、充電設備を備えさせてくれ。」
と大家に頼んでも、
「駄目。」
と拒否されるのがオチ。というのもこれまでの法律では、アパートの所有者が全員、
「いいよ。」
と言うことが必要だった。だが、ドイツのような「十人十色」の国で、皆が同じ意見であることは、まずない。だからアパートを借りてるあなたの大家が、
「俺は構わんけどね。アパートの価値が上がるし~。」
と言っても、他の所有者が賛同しないので、ほとんどのケースで不可能だった。
この事実、
「自宅で充電できないから、奨励金が出ても電気自動車の購入を控える。」
を政府はやっと理解して、2020年11月に法を改正した。
これによりあなたがアパートを借りている大家さえ、
「いいよ。」
と言えば、他のアパートの所有者の賛同は必要なくなった。他の所有者が口出しできるのは、充電設備の仕様についてだけ。
参照 : www.adac.de
充電スタンドの増設攻勢
これに加えて、電気自動車の充電スタンドの数が圧倒的に少なかった。
政府もこの点に気が付き、官民一体となって電気自動車の充電スタンドの増設攻勢を実施した。
2020年、ドイツ全土の充電施設の数は1万台以上増えて、2万7700台まで上昇した。その内14%が高速充電スタンドだ。
参照 : www.zeit.de
この数は奇遇にも日本の充電スタンドの数と、ほぼ同じ。人口で考えれば、ドイツの方がかなりいい環境が整っている。
にもかかわらずドイツ政府は、
「2021年末までには5万台、2030年までに数百万台に増やす。」
と目標を上げているのに対して、日本の専門家は、
「世界でも有数のEVインフラを誇る日本。」
と自画自賛、
「もう増やす必要はない。」
と、誤った結論を導き出している。
参照 : toyokeizai.net
井の中の蛙とはこの事だろう。状況を分析して飯を食ってる専門家がこの有様だから、日本企業が電気自動車競走に出遅れているのも、無理もない。
ここでもすでに4年前に、
「この先は電気自動車が勝敗の行方を決める。」
と日本の車業界と政界に期待したが、無駄に終わった。
海外で自動車を販売しているのに、どうして日本人は国内ばかり見るのだろう?(*2)
電気自動車 販売台数大幅アップ!- 三度目の正直?
コロナ蔓延で自動車の販売台数が、大幅に落ち込んだ。
このような大きな経済危機が発生すると、政府は自動車購入奨励金を出して基幹産業を支えてきた。当然、今回も自動車業界、それに自動車メーカーの本社があるバイエルン州知事、ニーダーザクセン州知事などが、
「自動車購入奨励金を導入すべきだ!」
と、中央政府に圧力をかけた。が中央政府は、未来のない内燃エンジンを税金を使って補助する気がなかった。この先10年の
「勝つか、負けるか」
を決めるのは電気自動車の技術だ。他の国がコロナ対策で手一杯、
「電気自動車なんて将来の話。」
と、スキを見せている間に、一気にこの分野で地場を固めることが必要だ。
そこで電気自動車の販売台数を促進するために、今度で三度目になる電気自動車(及びハイブリット車)購入奨励金を導入した。
今度は電気自動車を購入すると、最大で9000ユーロまで補助金が出る、超~お得な電気自動車購入奨励金だ。
参照 : www.adac.de
この奨励金は効いた。
2020年10月の自動車販売台数が発表されると、販売台数の8.4%が電気自動車だった。これはこれまでの最高記録で、トップ5は韓国の現代自動車を除けば、電気自動車攻勢をかけている欧州の自動車メーカーが独占した。
日本車は何処を探しても、その姿はない。
又、日本では電気自動車と言えばテスラが有名だが、テスラはトップ10にさえはいっていなかった。
参照 : www.auto-motor-und-sport.de
アナリストが上昇し続けているにも関わらず、テスラの株を売却リストに載せたのも、無理はない。
これまでテスラには、事実上競争相手がいなかった。今、一気にテスラに変わる選択肢が登場すると、消費者は高い金を払ってテスラを買わず、安い「国産車」を優先している。
ハイブリット スキャンダル
日本で人気のハイブリット車。
「環境汚染ガスの排出が少なく、燃費もいい。」
と、まるでクリーンデイーゼルのような宣伝文句で人気になった。
ドイツの著名な研究所、フラウエンホーファー研究所がハイブリット車を市街地で走らせて、実際の燃費と二酸化炭素の排出量を測定してみた。
すると燃費、それに二酸化炭素の排出量、共にメーカーが出している数値よりも2~4倍も高かった。
参照 : www.electrive.net
環境保護団体は一斉にハイブリット車を、「環境に優しい車」と宣伝しているメーカーを非難している。ドイツの有名な環境保護団体はこのデータを元に、訴訟の準備をしている。
かってはデイーゼル スキャンダルが自動車業界を震撼させたが、「次はハイブリット スキャンダルがやってくる。」と言われている。
日本の電気自動車攻勢 – ドイツの跌から学べ!
日本の自動車メーカー、そして政治も、
「すっかり日本車は出遅れてしまった。」
と遅ればせながら気が付いた。政府は、
「2030年以降の内燃エンジン車の新車販売を禁止する。」
という方法で、日本車の遅れを取り戻そうとしているが、全くの方向違い。
ドイツでは4000ユーロの報償金を出しても、電気自動車に見向きもしなかった。充電環境が整っていないからだ。
充電環境を整える努力もせず、奨励金も出さず、「内燃エンジン車の販売を禁じる。」とやる政府のやり方は、成功しないだろう。
金を出さず、「自粛」でコロナ危機を乗り切ろうとしてる日本政府らしいやり方ではあるが。数年後、ドイツのように、
「電気自動車の販売台数が一向に増えない。」
と気が付くことになるだろう。
注釈
*1
ドイツのアパートには地下室があります。その地下室の一部は住人に割り当てられた収納スペース、そして駐車場になっています。
*2
1年前、ANAは製造中止が決まった大型旅客機A380を3機も注文した。満席にすることが難しく、ランニングコストが高い大型機の導入は大きな冒険で、
「私だったら中型機のA350を注文する。」
と書いた。
1年後、A380は飛び立つことがなく、地上に待機したまま。時々、乗客を乗せて周回飛行をしているが、これではランニングコストさえカバーできない。
大赤字に陥ったANAは増資、「中型機を購入する。」という。
参照 : txbiz.tv-tokyo.co.jp
言っても無駄だが、
「だから言ったじゃない!」
と言わずにはおられない。
日本のメデイアが総じて、
「40年振りの国産ジェット!」」
とお祝いムードだった三菱MRJ。エアバスの苦労を見てきたので、
「航空機の開発は、そんなに簡単に行くもんじゃない。」
と、警笛を鳴らした。
案の定、国産ジェットはお蔵入り。
鈴木自動車のVWとの共同路線もしかりで、予言した通り、ことごとく失敗に終わった。
何故、日本の経営陣には先が見えないのだろう?