次々に残虐非道な戦争犯罪を繰り返すロシアは、
「かってのナチスドイツ」
と同じ。
憎しみの対象でしかない。
そのロシア軍に対して、長く待たれていたウクライナ軍の反転攻勢が始まった。
が、戦況は
「贔屓目」
で見ても、
「ぼちぼち」
だ。
なんでそうなのか、そしてこれから戦況はどうなるのか、解説してみたい。
この記事の目次
ウクライナ軍の反転攻勢 何故この時期?
「ウクライナ軍の反抗は4月に始まる!」
と
「テレビ軍事専門家」
は主張していたが、ことごとく外れた。
何故だか、ご存じだろか。
そもそもスペインが提供したレオパルト戦車の
「発送」
が4月上旬だった。
これがウクライナに到着するのは4月末。
「武器が到着したらすぐに攻撃」
と考えるのは軍事経験のないアマチュア。
自衛隊の演習だって、数週間前かけてその準備をする。
演習中の食事の手配でさえ、どれだけ手間と時間がかかるか、素人にはわからない。
これが軍事作戦になれば、数週間で準備できるものではない。
実戦になると兵士が負傷等により、戦線から離脱する。
これに備えてレオパルト戦車の
「替えの乗員」
を訓練しなければならない。
どんなに急いでもこれに1ヶ月はかかる。
その後、兵士と武器弾薬などの
「装備本と補給品」
を前線に集めるのに数週間かかる。
が、ロシア軍も馬鹿ではない。
ロシア軍は、ウクライナ軍が苦労して後方に集めた補給庫を破壊することに成功。
加えて4月始めには大雨で各地で洪水。
5月に攻勢を始めるのは、天候的にも無理だった。
だから6月になってからウクライナ軍の反抗が始まった。
もっともウクライナ軍はその反攻に備えて5月以降、次々に敵の補給庫を攻撃、破壊した。
その意味では反抗(準備)は5月から始まっていた。
ウクライナ軍独自の戦法
このような事情があり、攻勢の準備が整ったのは6月だった。
しかし日本軍特有の、
「突撃ラッパ」
を鳴らしての、
「一斉攻撃」
を期待していたら、大いにがっかりした事だろう。
ウクライナ軍の攻撃は、
「戦争教本」
に載っている戦い方と異なる
「ウクライナ軍独自の戦法」
だ。
まずは分隊規模で、敵の陣地を武力偵察する。
その結果、
「防御の弱い箇所」
を発見すると、分隊に小隊が応援に駆けつけて防衛ラインを突破する。
これを前線のあちらこちらで繰り返し、突破口を拡大、気が付けば敵は圧倒的な不利な立場にあり、
「包囲を避けるための撤退」
を強いられる。
この為、映画で見るような
「大規模攻勢」
ではないので、
「ウクライナ軍の攻勢は始まったの?」
と誰にも(すぐには)わからない。
これがまた味噌。
お陰でロシア軍はどこを補強すればいいのか、わからない。
遅すぎたレオパルト2型戦車の提供
しかしである。
ウクライナ軍の前進は贔屓目に見ても、
「ぼちぼち」
で、
「華々しい戦果」
を期待していたお茶の間の皆さんは、ガッカリっしたかもしれない。
とりわけ何も知らないメデイアが、
“Wunderwaffe”(奇跡の兵器)
と褒めちぎっていたドイツのレオパルト2型戦車が、
「あっ!」
という間に破壊された光景を見て、
「超~がっかり」
したに違いない。
ちなみに第二次大戦中に初めて
「タイガー戦車」
が投入されたときも、
「がっかりな結果」
に終わった事を忘れてはならない。
どんなに堅強な戦車でも、キャタピラを壊されたら
「鉄の棺桶」
でしかない。
戦車が動かなければ120mm滑空砲も
「ただの飾り物」
になる。
そして案の定、レオパルト2型戦車は地雷で進撃を止められ、敵の火砲の餌食となった。
「ドイツの戦車で戦況はすぐに好転する。」
と語っていた
「テレビ軍事専門家」
は、厳しい現実を知らされることになった。
そもそもロシア軍は2月に
「大攻勢」
は失敗に帰してから
「ウクライナ軍の反転攻勢」
の準備に余念がなかった。
防御陣地を何十にもめぐらした挙句、戦車が通るであろう箇所は
「突破不可能な地雷原」
を設置した。
そして
「動きの止まった戦車」
に息の根を止めるべく、火砲と攻撃ドローンを配置。
そしてロシア軍が準備していた通り、レオパルト2型戦車を擁するウクライナ軍の攻撃部隊は、その防御網の最初の餌食になった。
ドイツ政府は去年、
「戦車は提供しない。」
と1年間ゴネつづけた。
そのツケがこれだ。
すでに去年、ウクライナに戦車を提供していれば、ウクライナ軍の損害ははるかに少なく、もっと大きな成果を上げていただろう。
制空権なくして勝利無し
さらにウクライナ軍に圧倒的に不利な状況がある。
それは制空権がない事。
第二次大戦初期、ドイツ軍は
“Unternehmen Seelöwe”(アシカ作戦)
でイギリスを占領しようとした。
これには制空権が欠かせない。
ところがドイツ空軍の優れた戦闘機Bf-109は、
ドイツの上空での戦闘を考えて設計された戦闘機。
燃料タンクが小さ過ぎた。
イギリス本土まで飛ぶと、
「作戦時間は15分」
に限られた。
これではイギリス空軍に勝てず、
“Battle of Britain”
で、最初の敗北を味わった。
この例が示す通り、現代戦では制空権なくして戦争に勝った試しがない。
唯一、ベトナム戦争が例外だが、正確には
「アメリカが勝てなかった。」
だけ。
北ベトナム軍が攻勢で米軍を負かしたわけではない。
又、ウクライナには北ベトナム軍を助けたジャングルもない。
お陰でロシア空軍は進撃するウクライナ軍を、
「射撃練習」
のように狙い撃ちできる。
これで快進撃できるわけがない。
ウクライナ軍の反転攻勢が、
「思うように進まない」
のはこうした理由があっての事。
期待だけでは戦争には勝てない。
ウクライナ軍の反転攻勢 成功する しない?
「じゃウクライナ軍の反抗は失敗するの?」
かと言えば、そうとも限らない。
ウクライナ軍は
「反抗初期段階での失敗」
から教訓を学び、
「ウクライナ軍独自の戦法」
に戦術を変更した。
ウクライナ軍独自の戦法
ウクライナ軍は戦力で負けており、制空権もないのに、徐々に戦果を拡大している。
かって連合軍の圧倒的な制空権に悩まされたドイツ軍は1944年12月、
「ドイツ特有の悪天候」
を利用してドイツ軍最後の攻勢となる
「アルデンヌ攻勢」
に出た。
雲が低く立ち込めて連合軍の空軍が飛べない中、ドイツの戦車部隊が(最後の)大活躍。
あのパットン将軍が手紙に、
「戦争はこの段階でもまだ負けることはある。」
と書いたほどの大攻勢だった。
もっとも悪天候が回復すると、ドイツの戦車は
「もぐら叩き」
にあって最後の攻勢は失敗したが。
ウクライナ軍もまさにこの
「ドイツ軍の手口」
を採用している。
ウクライナ軍は西側から提供された
「暗視スコープ」
で夜間に地雷原を清掃して、夜が明ける数時間前に攻勢をしかけている。
夜が明けるとロシア軍の空軍が出てくるが、その頃には両軍が接近戦中。
これでは空軍は制空権を利用して、ウクライナ軍を叩けない。
こうした理由があって、ウクライナ軍の反抗は
「スローテンポ」
になっている。
本格化する西側の武器提供
日本なら攻撃が思ったように進まないと、
「精神力がたるんどる!」
と必ず精神論になる。
その結果、敵の機関銃が装備された陣地に万歳突撃をして玉砕する。
が、ウクライナ軍は
「ボーク」
のように失敗から学んで適応している。
これが素晴らしい。
さらに!
「夏まで」
にドイツがレオパルト1型戦車を30台供給する。
日本のメディアは、
「100台」
と報道しているが、これはロシアの公営放送並みの誤報。
ドイツ政府はちゃんと、
「夏までに30両、年末までに100両」
とホームページで明記している。
加えて来年には米国からアブラムス戦車が30両。
さらに!
戦況を変える可能性を秘めるF-16が、ウクライナに提供される(筈)!
これらの兵器が揃えばウクライナ軍はやっと
「全面攻勢」
に出れる。
独ソ戦に学べ!
逆に言えば、今は
「戦力を温存しつつ、ロシア軍を弱体させる。」
のが至上課題。
わかりやすい例を紹介しよう。
1941年6月22日、ドイツ軍はソビエトに侵攻。
「イケイケドンドン」
でモスクワ前面まで進撃したが、力尽きた。
ソビエト軍の反抗に遭い、最初の敗北を味わった。
が、
「ナポレオンの二の舞」
だけは避けることに成功した。
ところがである。
ソビエト軍の上層部は、
「1942年に片を付ける。」
と現在のウクライナ領東部でドイツ軍に対して大攻勢をかけた。
これが大失敗。
大攻勢に出たソビエト軍は大敗を喫し、再び
「敗北の淵」
まで追い込められた。
これで懲りたのか、ソビエト軍はドイツ軍の
「スターリングラードでの大敗北」
の後、大攻勢に出ることはなかった。
まるで、
「夏にドイツ軍に攻撃をしかけるのは自殺行為。」
と学んだようだった。
これをヒトラーは、
「ソビエト軍は崩壊寸前だ!」
と誤解、1943年7月に城塞作戦を開始した。
しかし
「クルスクの大戦車戦」
でドイツ軍はまたしても敗北。
その後、ドイツ軍には、もう東部戦線で攻勢に出るだけの武器と兵力は残っていなかった。
以降、ドイツ軍は敗北まで
「何処の町を(まだ)防御して、何処の町から撤退するか。」
を選択するだけ。
ウクライナ軍も
「2023年は戦力温存の年」
で大規模攻勢は避けるべき。
今すべきは、
「クルスクの大戦車戦」
にようにロシア軍を罠にかけ、敵が大規模攻勢に出ることができる戦力を奪う事。
これに成功すれば、2024年は西側から新たに提供された兵器で
「局地的な制空権」
を奪還、本当の大規模攻勢に出れる。
なのに、
「来年まで待てない!」
と今、無謀な攻勢に出ると、1942年のロシア軍の二の舞。
が、今のウクライナ軍を見る限り、
「わざわざアドバイスをする必要がない?」
と思えるほど、思慮のある動きをしている。
是非、
「功績を焦らず」
慎重に作戦を進めてもらいたい。
私設軍隊ワーグナーの創設者 プリゴーシン
ウクライナ軍がどんなに果敢に、そして効果的に戦っているか、これは
「バハムートの肉引き戦」
で2万人の死者を出しながら
「バハムートの覇者」
になった私設軍隊ワーグナーの創設者プリゴーシン氏の発言を聞けばいい。
氏はワーグナーを
「世界一の優れた軍隊」
と自己宣伝をした後、
「本来なら次はロシア軍というべきだが、ウクライナ軍だ。」
と敵を褒めた。
氏は言葉の選び方が乱暴な為、日本のメデイアは
「狂犬」
と呼んでいるが、素晴らしい解析頭脳を持っている。
これに氏の並々ならぬ実行力が加わり、ロシア軍に優る私設軍隊を作り上げた。
300年前に生まれていたら、一国の主になっていただろう。
そのプリゴーシン氏は、
「ロシアはウクライナを非武装化するために侵攻したが、ウクライナに世界最強の軍隊を作ってしまった。」
と、戦争目的が反対の結果になった事を冷静に分析している。
日本のメデイアは都合がいいように、氏の発言を
「切り取って」
報道しているが、その発言内容は辻褄があっている上、起承転結を付けた見事な文章構成。
これを事前の練習も草案もなく、毎回、即興でやるのだから凄い。
言葉の選び方を変えれば、政治家でも成功しそうだ。
これに氏の
「非道冷酷さ」
が加わり、
「稀に見る人材」
となっている。
そのプリゴーシン氏がバハムートから撤退後、
「ウクライナの大規模攻勢が始まれば、えらい事になりかねない。」
と警鐘を鳴らしていた。
だからこそ、氏は軍の上層部をこき下ろしている。
幸い、プーチンを含むロシアの上層部はプリゴーシン氏の警告を無視している。
願わくば、氏の予言が実現せん事を!
ワーグナー ロシア領内で反攻に出る?
プリゴーシン氏の辞書には、
「遠慮」
という言葉がない。
ロシア首脳部を
「けちょんけちょん」
に非難している。
「あの被害妄想家のプーチンが、よく我慢しているなあ。」
と不思議に思っていたが、案の定、我慢しなかった。
プリゴーシン氏によると、ロシア軍はプリゴーシン氏を逮捕(暗殺)するためにワーグナー軍を攻撃。
数名の死者が出た。
怒り狂ったプリゴーシン氏は反転攻勢に出て、
「ロストフに向けて進撃中」
だ。
「ワーグナー軍は最後の一兵まで戦う!」
と、
「同士討ち」
を思い留まるそぶりさえ見せていない。
こうしてロシア軍上層部とプリゴーシン氏の
「内輪揉め」
が遂に内紛に発展した。
これこそウクライナ軍が待っていた千載一遇のチャンス!
ワーグナー軍 ロストフを掌握
ドイツのメデイアによると、ワーグナー軍は
「反抗開始」
から10時間足らずでロストフを掌握した。
元々、ロストフにはワーグナー軍の
「駐屯地」
があり、兵士が駐留していた。
が、あまりにもあっけない大都市の陥落だ。
プリゴーシン氏は、
「モスクワに進撃する!」
と言っているが、真意は不明。
連戦琢磨、かつ頭の切れるプリゴーシン氏が、わざわざ敵に次の行動を教えるとも思えない。
援軍と合流するために、別の都市に向かっていることも十分にある。
もっとも
「敵」
に準備する十分な時間を与えずにモスクワを急襲するのも、戦術上はあり得る可能性ではある。
その
「プリゴーシン氏の援軍」
だが、ロシア軍内部に氏は多く敵と、少なからず友人持っている。
ロシア軍第二の地位にある将軍は、
「親友」
であるが、現時点では、
「武器を下すように。」
とプリゴーシン氏に警告しており、現時点ではまだプーチン派。
しかしロシア軍の内部である将軍が
「プーチンには懲り懲り!」
とワーグナー側につけば、プーチンの帝国は崩壊する。
加えてロシア国内には、数多くの傭兵部隊がある。
彼らがワーグナー側につけば、ロシア軍はウクライナ侵攻なんぞしている余裕はない。
ウクライナ戦争があっけなく終わる可能性もある。
反乱終了?
プリゴーシン氏が起こした反乱は、隆起から48時間ほどで終了した。
ロシア政府がプリゴーシン氏、それにワーグナー軍に
「お咎めなし」
を保証する代わりにプリゴーシン氏は
「モスクワ進軍」
を止めて、ベラルースに亡命する事で、
「一件落着」
となった。
プリゴーシン氏の
「モスクワ進軍」
は、この妥協を勝ち取るための
「ブラッフ」
だったのかもしれない。
もっともこれまで
「プーチン反対派」
を片っ端から暗殺してきたプーチンが、
「お咎めなし」
で済ますわけがない。
遅かれ、早かれ、プリゴーシン氏は暗殺される。
同時にロシア軍はワーグナー軍の上層部を一掃、軍自体は解体される。
仮にプリゴーシン氏が暗殺を生き延びて、
「モスクワへの進軍」
を再開しようにも、その頃には従う軍がないというわけだ
もっとも分析家のプリゴーシン氏に、これが見えないわけがない。
こままで終わるとは到底、思えない。