ドイツの達人になる 社会保障

リースター年金 ってお得なの?【ドイツ年金制度】

投稿日:2020年5月17日 更新日:

リースター年金 ってお得なの?【ドイツ年金制度】
今回はドイツの年金制度、それも リースター年金 を取り上げます。

ドイツで働く日本人は、

「言葉の壁」

のせいで、その名前も知らない方がとても多い。

そんな方を食い物にしてドイツで暗躍しているのが

「ファイナンシャル アドバイザー」

だ。

これ以上被害者を出さないために、保険業界が好んで用いる詐欺の手管を公開します。

ドイツの年金制度

21世紀初頭まで、ドイツの年金制度は日本と同じようなシステムでした。

すなわち!

国民は勤務している会社と折半して、国民年金に掛け金を払い込みます。

その掛け金はお給料の20.3%。

大企業で働いている人はこれにプラスして

“Betriebsrente”(企業年金)

に加入できました。

しかしながらこの手厚い社会保障制度は、雇用者側への大きな負担。

景気が良ければ、

「イケイケどんどん!」

で払えますよ。

でも好景気はいつまでも続くもんじゃない!

ドットコム バブル崩壊

ドイツ経済、正確には

「西ドイツ経済」

は20世紀の終わりにかけて、好景気に沸いてました。

その

「思わぬブースト効果」

になったのが、東ドイツの併合。

時のコール首相は、紙屑同然の東ドイツ通貨を

「ハードカレンシー」

の西ドイツマルクと同じレートで交換します。

大量のお金が市場に回り、景気をさらに後押し。

まさに

「イケイケどんどん!」

でした。

その好景気の

「息の根」

を止めたのが、21世紀初頭のドットコム バブル崩壊です。

景気後退

ドットコム バブル崩壊のショックは、

「あのリーマンショック」

よりも大きく、とりわけドイツ経済は虫の息に。

質問
何で?

 

ドイツは

「経済がイケイケどんどんだった頃の社会保障制度」

を維持していた為、企業の負担増。

そこで新しい雇用を控えます。

失業者が増えると、経済の酸素である

「お金の巡り」

が停滞。

さらに!

ドイツ政府が東ドイツの復興の為に導入した

「復興税」

のせいで

「お金の巡り」

はさらに停滞。

大不況に発展します。

まさに

「展望なし」

の泥沼状態でした。

第二期 シュレーダー政権誕生

同時、政権にあったのはSPDのシュレーダー政権です。

経済が坂道を加速しながら下っていくのを、指を咥えて見てるだけ。

それでも個人的な人気でなんとか総選挙に勝利。

二期目に突入します。

ここで

「もう後がない。」

と悟った首相は、思い切った社会保障システムの改革を断行します。

これが

“Agenda 2020”

というシュレーダー政権による

失業保険から生活保護まで包括する社会保障システムの大改革です。

 

参照 : Agenda 2020

年金改革

この改革により、年金システムも大きく変更されました。

まずは企業の負担を減らすため、払う掛け金を段階的に19.3%に下げることに。

掛け金が減ったのに、年金支給額が前と同じになる筈がありません。

こちらに

45年間働いて同じ年金額を払い込んだ場合の、年金表があります。

 

左側がお給料、右側が年金受給額です。

国民年金表

抜粋元 : www.gevestor.de

 

45年間、同じお給料をもらうということは現実にはないです。

が、大体の目安になると思います。

毎月、お給料を4000ユーロもらっていても、年金が1814ユーロです。

すでに支払いの終わったマンションでもあれば、なんとか年金だけで生活できるかもしれません。

しかし平均、あるいは平均以下のお給料をもらっている人に、支払いの終わっているマンションなどある筈もなし。

結果、

年金だけでは生きていけない

 

という状態になりました。

リースター年金 ってお得なの?【ドイツ年金制度】

そこで登場したのが

“Riester-Rente”(リースター年金)

です。

参照 : Riester-Rente

 

簡単に言うと、

「年金だけでは足らないので、足らない分は自分で補填しなさい。」

というわけです。

もっとも、

「言うだけ」

では、国民は何もしないのは火を見るよりも明らか。

そこで

「政府が補助金を出すから。」

とやったのが、諸悪の根源です。

質問
何で?

 

お陰で詐欺師、もとい、ファイナンシャル アドバイザーが、

「政府の補助金をみすみす逃すなんて、損ですよ!」

「ウマの鼻の先に垂らすニンジン」

を勧誘に使うことができます。

そして多くの人が見事に騙された。

個人年金とリースター年金との違い

そのリースター年金、分類上は個人年金です。

 

加入できる人は個人企業主を除く国民です。

質問
普通の個人年金と何処が違うの?

 

それは国がリースター年金の加入者には

“Zulage”

と呼ばれる補助金を出すことです。

その補助金の額は、個人が払い込む額により異なります。

払い込むお金が多いほど、多くなります。

最低でも175ユーロ/年。

もし子供がいる場合は

“Kinderzulage”(子供補助金)

が、300ユーロ/年/人上乗せして払われます。(*1)

そう!

もし子供が二人いれば600ユーロ。

4人いれば1200ユーロです。

基本掛け金

じゃ、毎月1ユーロこの年金に払えば、毎月175ユーロも補助金が出て、超~お得じゃん!

 

って独特な思考過程をする人も居ます。

が、そう甘くはないです。

(基本)補助金をもらうには、

  • 年俸(税込み)の4%
  • あるいは最低60ユーロ/年

を掛け金として払い込む必要があります。

前者の場合、毎月2000ユーロのお給料で4%の年俸方式ととると、

2000 ユーロ x 12 =24.000 ユーロ x 4% = 960ユーロ

この掛け金から基本補助金の175ユーロを差し引いた額、785 ユーロ が自身で払う1年の掛け金になります。

 

「そんな金はないっ!」

と言いう場合は、後者です。

60ユーロ(年間)の掛け金を払い込めば、175ユーロ(年間)の補助金があなたのリースター年金口座に加算されます。

リースター年金の種類

ここまでがリースター年金のベーシックです。

ここからややこしくなります。

実はリースター年金には無数の製品があるんです。

質問
何で?

 

国が提供するシステムではなく、保険会社や銀行が提供する個人年金なので、いろんな製品を考案しています。

大きく分けると、

  • 積み立て型リースター
  • 投資型リースター
  • 住宅積立金型リースター

の3つに分かれます。

どんなシステムなのか、個々に解説していきます。

積み立て型 リースター年金

一番典型的なリースター年金が、この積立型です。

基本、49歳までの方なら(個人事業主を除き)、誰でも始められます。

内容を見る前に、まずは基本的な事を知っておきましょう。

ドイツの年金受給開始年齢は67歳です。

20歳でリースター年金を始めても、支給されるのは67歳になってから。(*2)

ですから67歳までに幾ら積み立てるか、目標額を決めて積み立てるのがこの積立型です。

そこでここでは、67歳までに5万ユーロ払い込んだとします。

その場合、毎月の年金はお幾らになるのでしょう。

積み立て型リースター表

上述の表のとおり、180ユーロです。

一見すると、ぼちぼちの額です。

欠点

しかし!

この額では払い込んだ5万ユーロの元金(補助込み)を取り戻すのに、

50.000 ユーロ ÷ 180 = 277.7777,,,

277,777ヶ月必要です。年に換算すると、

277,7777÷ 12 = 23,1481,,,

なんと23.1年です。

その頃にあなたはすでに

67歳+23,1年=90,1歳。

です。

「ウチの家系では100歳前に死んだ者は居ないっ!」

という方なら、元が取れます。

しかしドイツ人の平均寿命は80歳ですから、加入者の多くは払い損になります。

そう、

リースター年金は加入者が得をするのではなく、リースター年金を販売する会社が大儲けする事を目的に導入されたシステムです。

 

駄目押ししておくと、リースター年金の欠点はそれだけではありません。

リースター年金は補助金が出ているので、課税されます。

2020年では年金生活者の課税義務の境界線は、9408ユーロ/年収です。

この額を超えると、課税されます。

ですから上述の、

「毎月180ユーロ出る。」

という試算は建前(課税前の額)です。

投資型 リースター年金

次は

「投資型リースター」

です。

このケースでも、国から出る補助金の額などの諸条件は積み立て型と同じです。

違うのは払い込んだ積立金を(銀行、保険会社が)株式市場に投資する点です。

ファイナンシャル アドバイザーの

「積み立て型に比べて、より多くの年金が期待できます。」

という宣伝文句を信じた多くの市民が、投資型リースターを始めました。

しかし!

リーマンショック、コロナショックにより、投資したお金は減額。

払い込んだ元金さえも取り戻せないのが、この投資型リースターの特徴です。

 

質問
それじゃ、積み立て型と同じじゃないですか?

 

その通りです。

ただ、お金を失う可能性がもっと高いのが特徴です。

住宅積立金型 リースター年金

最後の住宅積立型リースターは特殊な形です。

こちらは老後の資金ではなく、将来、ドイツで不動産を購入、あるいは所有している不動産の改修工事のために、その費用を詰め建てる形のリースター年金です。

目的は異なりますが、国から出る補助金の額などの諸条件は積み立て型と同じです。

問題は不動産を買う(新築であることが条件)場合、補助金が出ているので、がっつり税金をひかれます。

この住宅積立金型リースターは、とりわけその構造が複雑で、私も100%理解できていません。

そこで消費者団体が計算した表を使います。

住宅積立金型リースター表

 

左端は、毎年2100ユーロ(払い込みできる最高額)を30年間払った場合です。

補助金、利子などを含めると、口座の残高は86.200ユーロあります。

実際に自分で払ったのは60.620ユーロですから、2万ユーロも増えているわけです。

「いいじゃん!」

って思うかもしれませんが、

「じゃ、家を買うので口座を解消すます。」

と一発解約をすると、24.252ユーロの納税義務が発生。

これを払って手元に残るのは、56.368ユーロ。

実際に自分で払ったのは6万3000ユーロですので、お金を失ってますよ!

この積み立て型リースターの意味がわからない、、

リースター年金 何故、毎回、損をするの?

国が補助金まで出して国民に推奨しているリースター年金。

なのに何故、毎回、国民が損をする仕組みになっているのでしょう?

それは

保険会社や銀行が契約成立手数料をたっぷり取るからです。

 

リースター年金の契約をすると、最初の半年~1年に払う掛け金はすっぽり、保険会社や銀行のポケットに入ります。

 

自分の積み立てが始まるのは、運が良くても半年後から。

ひどい場合は2年目からです。

ですから国が補助金を出しても、こんなに支給額が低いんです。

そもそも国が補助金をわざわざ出すなら、

「なんで国が国民年金にその金を積み立てない?」

って思いませんか?

* 注釈

1 2008年以降に生まれた子供に限ります。それ以前に生まれた子供の場合、185ユーロ。

2 これはあくまでも基本です。早めに受給を開始することも可能ですが、毎月の受給額はかなり目減りします。

-ドイツの達人になる, 社会保障

執筆者:

nishi

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