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ドイツの介護保険 – 介護士が足らないっ!

投稿日:2014年11月16日 更新日:


ドイツでも介護士は大きく不足しています。

認知症大国

日本は認知症大国と言われて久しい。実際にはどのくらいの患者数が居るのだろう。ネットなどで、「厚生省の調査によると、2014年の患者の数は460万人です。」と主張されている。ドイツで生活すると、”Vertrauen ist gut, aber Kontrolle ist besser.”(信用するのは良いことだが、チェックするのはもっとよい。)ということを身をもって体験させられる。

そこで厚生省の資料で確認すると、この数字は「推計」で、実際に取った統計の数字ではない事がわかる。その推計を見て、「患者の数は460万人です。」とやるのはいさかか問題がある。

ドイツでは厚生省がちゃんと統計と取っており、2012年の時点で患者の数は140万人となっている。大雑把に計算すると人口の1,7%に相当する。ドイツでも認知症患者数は上昇しており、2030年には220万人に昇ると推測されている。他に数字がないので推計で計算すると、日本では人口の3.7%に相当、ドイツの倍以上の比率になる。この推計が信用できる数字なら、確かに日本は認知症大国と言っても差し支えないだろう。

ドイツの介護保険

認知症患者の数は多いが、その対策が後手に回っているのが日本。その日本の現状をある福祉関係の専門家が討論会で批判、「ドイツでは患者の面倒を家族で見ると、国が1000ユーロ払う。こうして自宅で介護する人の労をねぎらっている。」と主張した。他の出席者は異議を唱えず、皆、この主張に納得した様子だった。果たしてこの福祉関係の専門家の意見は正しいのだろうか。

ドイツでは1995年に”Pflegeversicherung”(介護保険)が導入されたが、高齢化が進む日本では2000年から。これだけ見ても日本の政策が後手に回っていることがよくわかる。ドイツで介護保険が導入されたのは、認知症に限らず介護が必要な老人の数が増えて、その財源が必要になったのがきっかけだ。ドイツらしく介護保険料は、収入の0.25%とされた。その後、介護費用が爆発的に上昇したため、現在では2.05%に上昇している。

ドイツでは労働者と会社が保険料を折半するのが慣わしなので、自営業者でなければ個人(被雇用者)の負担は1.025%となる。これだと高所得者への負担が不均衡に高くなるので、現在は40.36ユーロが上限となっている。

税込みのお給料が4000ユーロ近い人はこの最高額を払っている。日本の介護保険の平均は5000円程度なので、一見するとドイツとほぼ同じに見えるが、実際には大きく異なる。日本では被雇用者が保険料を全額負担するので、5000円が保険の掛け金の全額となるのが、ドイツでは80.72ユーロが保険の掛け金の全額となる。

すなわち、ドイツの介護保険の掛け金は、日本のほぼ倍に相当する。さらにドイツでは認知症患者の数が日本の半分以下なので、ドイツの介護保険機構は患者一人頭、4倍の財源を持っている計算になる。

ドイツの介護保険 の内訳

次に介護度の内訳を見てみよう。日本では介護が必要な度合いが1~5に分けられていて、5が最重度のケアが必要な患者の介護度になる。ドイツでは介護度は1~3に別れており、3が最重度のケアが必要な患者の介護度になる。その分け方はドイツらしく明確に規定されている。毎日、最低90分の補助が必要で、かつ、基本活動である食事、入浴(トイレを含む)、歩行(移動)の3種目の補助に46分以上費やされる場合、介護度1と認定される。

ところが中には障害を持っているのに、「あなたは電動車椅子で移動できから。」とか、「あなたは一人で食事が取れるから。」と、わずか数分の差でこのカテゴリーから外れることが多々あった。そこで介護度0という概念が導入されて、介護度1の条件を満たさない障害者に適用されることになった。「決められた介護度に達していませんから。」と日本のように「法律至上主義」で介護度に達しない人を見捨てることをせず、法律を現状に適合させている。

介護度2は重度の障害を持っている人に認定される。毎日、最低3時間の補助が必要で、かつ、基本活動である食事、入浴(トイレを含む)、歩行(移動)の3種目の補助に2時間以上費やされる場合だ。具体的には、一口大に切っている食材は自分で口に運んで食事を取ることができるが、着替え、シャワー、歯磨きなどに補佐が必要なケースがこれに相当する。

このさらに上の介護度3では、毎日、最低5時間の補助が必要で、かつ、基本活動である食事、入浴(トイレを含む)、歩行(移動)の3種目の補助に4時間分以上費やされる場合だ。具体的には食事の摂取も一人ではできず、着替え、シャワー、歯磨きなども誰かがこれを代わって行う事が必要だ。

介護費用

ではドイツでは介護の費用はどのくらいかかるのだろう。自宅に介護士の方が来てくれる介護を”ambulante Pflege”(自宅介護)と言うが、ここでも費用はびっしり決まっている。例えばトイレの補助は、5,74ユーロ(804円)だ。朝ベットから起きて、服を着替えたり、顔を洗ったり、歯磨きの補助は12,91ユーロ(1807円)。補助ではなく、すべて介護士のお世話似なると、18,16ユーロ(2542円)だ。食事の摂取補助は12,91ユーロ、おやつの補助は別に4.78ユーロ(669円)と、その他もろもろの細部まで値段が決まっている。

ではドイツの介護保険はどの程度、その費用をもってくれるのだろうか。介護保険が払ってくれる保険料は、介護度0で225ユーロ、介護度1で468ユーロ、介護度2で1144ユーロ、介護度3で1612ユーロ(2015年から。認知症の場合)だ。大雑把にいって介護度1の認知症の親の自宅介護を頼むと、1500ユーロ程度かかる。ここから保険料の支払いを差し引くと、介護度1の場合の1000ユーロ程度は自己(家族)負担になるが、年金が出ていれば払えない金額ではないだろう。

介護が必要な両親をかかえる人は、自身の家庭もあるので、自宅で介護ができるケースは少ない。そこで介護施設に入れるのがドイツでは一般的だ。ただしこれはとても高くつく。介護施設の費用は介護度1で2500ユーロ、介護度2で3000ユーロ、介護度3で3500ユーロ(平均/月)だ。勿論、介護保険も保険料を払ってはくれるが介護度1で1023ユーロ、2で1279ユーロ、そして3で1550ユーロだ。すると介護度1の場合では、自己負担は1500ユーロ程度。年金が出ていれば、残金を家族でも払えない額ではない。

しかし介護度3になると、自己負担はほぼ2000ユーロにもなる。これを毎月、十数年にも渡って払える人は多くない。結果として費用の支払いが滞る。ドイツでも介護施設は地方自治体の経営である場合が多く、そのようなケースでは市が子供に請求書を送りつけてくる。ところが請求書をもらった子供は、「両親の為に俺の人生を棒に振る気はない。」と支払いを拒否して、裁判沙汰になるケースも少なくない。

介護費用裁判

いい判例があるので紹介しよう。介護施設に入っていた男性が死去したが、費用の一部、9000ユーロが未払い金となっていた。そこで市は息子に請求書を送ったが、「親父は離婚してから、一度もコンタクトを取らなかった。そんな親の請求書は払わない。」と支払いを拒否した。そこで市はこの息子に9000ユーロの介護費用の支払いを求めて訴えをおこした。

高等裁判所は息子の主張を認めたが、最高裁では子供が成人(満18歳)になるまで父親はちゃんと面倒を見ているので、「両親の最低限度の義務は果たしている。」として、息子に離婚離れした父親の介護費用の支払いを命じた。この判決により、両親が介護施設に入ってその費用を払えない場合、子供が負担を負わされることになった。

現代版姨捨山?

この判決が出て、「たまったもんじゃない。」と介護が必要な両親を抱えるドイツ人は真っ青になった。このままいけば最後のシャツをはぎとられるまで親の入院費を支払わされる事になる。そこで介護が必要な親をチェコやポーランドの介護施設に連れていくドイツ人が増えて、社会問題になった。チェコなら24時間対応の介護施設の費用は2000~2500ユーロで済む。幸い、ドイツの介護保険はEU内の外国でも利くので、家族の負担は1000ユーロ近く減る。

勿論、チェコの介護士はほとんどドイツ語を話さないが、介護度3にもなると言葉はそれほど重要ではなくなる。ところがドイツの司法がこれに介入して、「姥捨て山」に捨てられた老人を家族の意志を無視してドイツ国内に連れ帰ってくるケースも発生、「じゃ、誰がその介護費用を払うのだ。」という問題になっているが、ドイツでもまだ解決策では出ていない。

ドイツ国内の高価な介護施設の費用を払えず、チェコ案も駄目だとすると、最後は日本の介護の専門家が言うように、自宅にひきとって面倒をみるしかない。何しろ介護度3では、日本の専門家が言う額よりもはるかに高額な1612ユーロも支払われる。ところがである。この介護費用は、介護士を雇った場合に支払われる額である。家族が面倒を見ると全額支払われない。ある家族が親の面倒を最後まで自宅で看たが、介護保険は家族に支払ったのは665ユーロ/月だった。

これを不服として家族が、介護保険全額の支払いを要求して裁判所に訴えた。しかし最高裁は、「家族はお互いに助け合う義務があり、介護士による介護と家族による介護を同一にみなすことはできない。」として家族の訴えを退けた。すなわち家族が面倒を看た場合、介護度3であっでも月に665ユーロ(9万3千円)しか保険は支払われない。日本の専門家の主張する「国が1000ユーロ払う。」という規定はない。誰かが、「ドイツでは、、。」と主張している場合は、要注意。「誰も本当かどうか調べたりしない。」と高をくくって根拠のない事実を主張しているからだ。

介護士が足りないっ!

折角、ここまで調べたので、もうひとつ介護士の事情も見てみよう。ドイツでも介護の仕事は人気がなく、介護士が足りない。仕事に魅力が少なく、お給料も決してよくはないのが原因だ。ちゃんと訓練をを受けて試験に合格した看護士であれば、初任給は1800~1900ユーロ(税込み)程度で、平均月給は勤続年数や勤務する場所(介護士が不足している町ほど収入がいい。)で大きな差が有る。

一方、ドイツで認知された資格をもっていない介護士の初任給は1300ユーロとかなり低く、かろうじて生活保護の上のレベルだ。しかしドイツは日本と違って、この問題を国内で解決する必要はない。ポーランド、チェコ、あるいはルーマニアの介護士なら、1300ユーロのお給料でも故国よりはずっといい。そこで介護士には外国人が多くなっているが、それでも現時点で3万人の介護士が不足している。

外国人介護士

そこで政府はEU内だけで介護士を募集する事を諦め、アジアで介護士を募集している。現地で面談、これに合格するとドイツまで連れてきて、3年間言葉の勉強、そして介護の訓練を受ける。そして3年後には”examinierte Pflegekraefte”(試験を受けた介護士)として働くことになる。それまでの3年間の費用は地方自治体がもつ。そのくらい介護士の数が少なく、地方自治体にとって介護士は「喉から手が出る」ほど欲しい羨望の的になっている。「私もドイツで介護士として働きたい!」と言う方は、現地の労働局、あるいは地方自治体までお問い合わせください。

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執筆者:

nishi

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