2020年になって世界中に蔓延した新型コロナウイルスは、これまで利用乗客数を毎年更新していた旅行業界を震撼させた。
これまで事業拡大コースとっていたのに、いきなり急ブレーキを迫られた。欧州最大の航空界会社ルフトハンザは当初、
「国に財政支援を頼まなくても、十分な資金源がある。」
と言っていたが、世界中で入国制限が導入されると、3月には同社のフライトの実に98%がキャンセルになった。
流石にルフトハンザもこの時点で、同社の余剰金では到底、コロナ危機を乗り切る資金が足らない事がわかってきた。
そこで経済省、交通省と経済支援について協議を続けてきた。この度、ルフトハンザへのコロナ財政支援が決まった(ような)ので、紹介したい。
この記事の目次
倒産説
多くの方が、「ルフトハンザ 倒産」と検索して、こちらのサイトに辿り着いています。
SNS でフェイクニュースを拡散するため?とも思われるので、はっきり言っておきます。ドイツ政府がルフトハンザを倒産させることはありません。
ルフトハンザは日本航空と異なり、かっての国営企業の「親方日の丸」から脱皮して、厳しい競争に勝ち残ったばかりか、欧州で最大の航空会社にまで成長した優良会社です。
さらには数万人の雇用を生み出す大事な雇用主。みすみす倒産させて国中に失業者をあふれさせ、その屍をライアンエアーに食わせるなど、もってのほか。
必要となればドイツ政府はルフトハンザを再度国営化して、救います。ドイツ政府は、
「経営を自粛してください。」
と要求して、びた一文出さない政府とは違います。
100兆円のコロナ経済対策
ドイツ政府は2月の時点で、大規模なコロナ経済対策が必要になると判断。
以来、経済省と財務省はコロナ経済対策を協議してきました。日本がまだ呑気に一般会計を国会で協議していた3月、100兆円のコロナ対策を国会で決議しました。
戦時を除けば、これほどまでに大きな救済案が組まれたことはない。この案を発表した(ケチで有名な)財務大臣の言葉は、印象的だった。
財務大臣は大規模な経済対策を”Wir können uns das leisten.”(我々にはこれを実行できる十分な金がある。)と、誇らしげに語った。
ドイツ政府はまさにこのような危機に財政出動できるように、赤字税制から脱却、毎年、税金を積み立ててきた。
この対策には、個人事業者から中小企業への救済案はもとより、ルフトハンザなどの大企業を(一時)国営化する資金も含まれていた。このコロナ対策の成立から、ルフトハンザは経済省と財務省と、同社の救済案について協議を進めてきた。
ルフトハンザ コロナ財政支援
当初のコロナ財政支援では、ルフトハンザが増資(新規の株主を発行)して、国がこれを買い取る方法だった。
この方法自体にはルフトハンザも政界も文句をつける側面はなかったが、その実行方法に連立政権内で意見が異なった。
自民党のような経済優先の CDU /CSU は「穏やかな経営参加」 /”stille Beteiligung”で同社を救済しようと考えた。
これはルフトハンザが特定の人物、組織に対して株式を発行する仕組みだ。取締役員会には参加せず、会社の経営はこれまでの経営陣に一任する。その見返りに投資するお金に対して、配当金を要求する。
これまで自由経済市場にて成功裡に活躍して企業に、
「経営かくあるべし。」
などと、政治が口をはさむべきではないとうのが、 CDU /CSU の案だった。
一方 SPD 、バリバリの左派の党首、は
「国が救援するからには、相応の決議 & 発言権を要求する。」
と発言した。具体的には取締役員会に政府のメンバーを2名送り込み、ルフトハンザの経営に「物を言う。」支援だ。
倒産したほうがマシ!
SPD のコロナ財政支援案がメデイアで報道されると、ルフトハンザの社長シュポーア氏は、
「国が経営に口出しするなら、倒産したほうがマシ!」
と言い出した。
参照 : tagesspiegel.de
社長は、ドイツの百貨店、カールスシュタット カオフホーフのように会社更生法の適用を申請して、余剰社員の大量解雇、高価な企業年金などの重しを取り除き、独自の采配で再出発を目指す方法を模索し始めた。
これに驚いたのが、ストで悪名高いルフトハンザのパイロットが作る労働組合、コックピットだった。同組合は、
「倒産宣告しないなら、2022年までお給料を放棄してもいい。」
と、妥協してきた。
参照 : spiegel.de
これまで破廉恥な賃金要求で同社の運航を数週間も混乱に陥いれてきたパイロットが、自主的にに給料を放棄する?シュポーア氏の発言が余程応えたに違いない。
ルフトハンザ コロナ財政支援 固まる
こうした経緯があって、ルフトハンザのコロナ財政支援の成立が大いに遅れた。
厳密に言えばこの記事を書いている5月2日の時点でも、まだ正式には何も決まっていない。しかし政府筋とルフトハンザが財政支援で大幅合意に達したと報じられた。
参照 : tagesschau.de
その中身はこうだ。
- 国は55億ユーロでルフトハンザへの「穏やかな経営参加」 /”stille Beteiligung”を行う
- 国は既存の株、25.1%を取得する
- 政府の経済復興銀行 / KFW が35億ユーロの融資を行う
政府は穏やかな経営参加の代償として、9%もの配当金を要求する。
又、同社の安くなって市場にあふれている既存の株を1/4以上も取得するので、取締役員の議席を2つ要求する。その代わり、国が KFW の融資の保証人になる。
そう、この経済支援計画では、社長のシュポーア氏は SPD の経営参加にも歯ぎしりをしながら、同意する形となっている。
ルフトハンザと政府の代表者がこの経済支援に正式に同意するまで、まだ変更があるかもしれないが。
激化する航空業界の競争 三軸の戦い
航空業界はヨーロッパ、中東、それに米国の航空会社による3軸の争いになっている。
数年前まで安い原油調達で勢力を広げてきた中東の航空会社、エミレーツ、エチアド、カターだが、原油安で経営難に陥っている。
よほど経営が厳しいのか、商売敵のルフトハンザに共同運航便の運航を求めている。その一方で、広大な国内市場を背景に強力な米国の航空会社がある。
中東の航空会社はどのみち国営みたいなもの。国は幾らでも支援する。そして米国政府はすでに250億ドルにも上る経済支援を決めている。しかもその1/5 は、返済の必要がない給付金だ。
しかるにルフトハンザに対しては、二酸化炭素税のチケット税が4月から増税されており、ただでも厳しい競争に足かせが課せられている。
投資するのなら今?
ルフトハンザへの投資を考えている方は、慎重に。
政府の融資が濃厚になってから株価は回復傾向にありますが、三密の状態であるフライトへの需要は、ワクチンができるまで回復しそうにない。
又、かって国が経営に参加してうまくいった例がほとんどない。2008年の金融危機で政府が株式を取得したコメルツ銀行、12年経っても業績が回復せず、国は株式を取得したままで塩漬け。
ルフトハンザの場合も長く、株価が低迷する可能性があります。おまけに国が株主の間は配当金なし。長く株を保有しても、利益は望めません。
ルフトハンザ コロナ財政支援 成立!
ルフトハンザの抵抗があった為、財政支援の成立まで長い時間がかかりましたが、5月25日、成立しました。
その内容は、簡単に言えば以下の通り。
- 国が3億ユーロでルフトハンザの株式を20%保有する
- 国が57億ユーロの資金援助を行う
- 国の銀行 KFWが30億ユーロ援助する
総額90億ユーロの財政支援になります。
ルフトハンザの株価、現在は8ユーロほどだが、国はバーゲン価格の2.56ユーロ/株で20%もの株を取得する。
同時に外国企業の買収に備え、国は株式の所有率を25%に上昇させる権利を持つ。これにより会社の決定を覆す権利を有することになる。(これがルフトハンザ救済でもめた原因。)
又、ルフトハンザは国からの資金援助に対して当初、4%、その後、9.5%の金利を払う。
こうしてルフトハンザは民営化から23年経って、また(一部)国営に戻ることになりました。
財政支援が実行されるまで
株価は急上昇して9ユーロの壁を突破!
が、喜ぶのはまだ早いっ!
ルフトハンザは今後、
- 取り締まり役員会議でこれを採択
- 同意されれば、株主総会で提案
- 同意されれば国が保有する株を新規に発行する
- EU 委員会の承認
を経て、初めてお金が流れます。EU 委員会が文句をつけてお金が流れないと、ルフトハンザは必殺技
「破産 & 会社更生法の適用申請」
も有り得ます。