まだ覚えている方がいるだろうか。ドイツ政府は3年前、電気自動車の分野で「世界のリーダーになる。」と宣言、これを可能にするために電気自動車購入奨励金を導入した。
「奨励金が空になったらおしまいですよ。」と、消費者を電気自動車購入に動機づけようとしたが、3年足っても空にならなかった。
電源を充電するインフラがないのに、電気自動車なんど買っても、宝の持ち腐れ。国民は、自宅や仕事先に充電のインフラがある場合を除き、関心を見せなかった。
この記事の目次
電気自動車購入奨励金 第二弾 – 今度はヒット?
ところが2019年11月になってドイツ政府は、電気自動車購入奨励金 第二弾を導入すると決定した。
参照 : bundesregierung.de
一回恥をかいただけでは済まず、二度も恥をかく覚悟で導入する奨励金。その裏には一体何があるのだろう。
環境保護
その目的は改めて言うまでもない、環境保護対策だ。ここで何度も紹介しているように、大都市ではデイーゼル自動車の進入禁止令が相次いで発令されている。
中古のデイーゼル車は売れないので、買う人がめっきり減った。売れないデイーゼル車は、人気が衰えない日本にでも輸出するしかない。結果、多くの市民がガソリン車を購入した為、燃費の悪いガソリン車は大量の二酸化炭素を放出している。
二酸化炭素の削減に消極的な日本なら、それでも構わないだろう。しかしドイツではそうはいかない。政府が決めた排出量を守れないと、国民の反発を買い支持率を落とす。なんとかして交通分野で増大する二酸化炭素を削減する必要がある。
しかし少しでも多くの市民が電気自動車に乗り換えてくれれば、空気の汚染度が下がる(かもしれない)上、二酸化炭素の排出量削減にも役にたつ。まさに一石二鳥だ。そこでこれまで人気のなかった電気自動車購入奨励金の第二弾を導入することにした。
奨励金導入の真の理由
ここまでは表向きの理由。裏のもっと大切な理由もある。
30年先のことはわからないが、この先10~20年は電気自動車の時代になる。ドイツ人が発明して、ドイツ人が世界一のレベルまで完成度を高めた内燃エンジンやミッションは、不要のものとなる。電気自動車で物を言うのは、バッテリーの製造能力だ。
ところがこの分野で世界をリードするのは、よりによって20年前までは発展途上国だった中国で、これに韓国勢、日本勢が続く(順不同)。欧州(ドイツ)にもバッテリーを製造している会社はあるが、その規模では中国、日本企業には遠く及ばない。
バッテリー研究工場 made in Germany
ドイツでは、「今更バッテリーの製造を始めても、中国や日本企業には遠く及ばない。」と、久しく言われてきた。しかし指を咥えてこのまま何もしないと、中国企業が一人勝ちしてしまう!
さらにはアジアで製造されたバッテリーを船で欧州に運んでいると、コストがかさむ。自国で生産されたバッテリーを搭載している中国、日本車に対して、競争力が劣る。
そこで政府はこれまで遅れを取り戻すべく、政府主導のバッテリー研究工場 / “Batterieforschungsfabrik”をミュンスターに設置すると決定した。
参照 : faz
ここで安価で高性能のバッテリーの製造技術の開発を目指す。将来はこの技術を使って、ドイツ(欧州内)でバッテリーを製造、中国、韓国、日本企業からの依存度を減らすのが目的だ。
それがどうして電気自動車購入奨励金の真の理由なの?
電気自動車事業に完全に出遅れたメルセデスは、自社のバッテリー工場を建設すると発表した。
参照 : daimler.com
排ガス操作で非難の的になったフォロクスヴァーゲン社は、真っ先に電気自動車の生産に力を入れたので、すでにバッテリー工場は稼働を開始している。
参照 : manager-magazin.de
これには金がかかる。ドイツの自動車業界が生産する電気自動車が売れないと、大赤字になる。基幹産業が振るわないと、ドイツの景気が落ち込んでしまう。そこで政府は基幹産業を助けるために、今の時点で電気自動車の購入奨励金 第二弾を発動することにした。
電気自動車購入奨励金 第二弾 中身
電気自動車購入奨励金制度は、ふたつの柱からなる。
- 充電インフラ整備の補助金
- 購入奨励金
以下にそれぞれの中身を紹介していきます。
充電インフラ整備への補助金
先回の購入奨励金が失敗した最大の理由は、電気自動車の充電設備のインフラが整っていなかった事。自宅の車庫に電源がある人は稀で、充電できない人が、電気自動車を買おうとするわけなかった。
そこで今回は充電のインフラ、厳密には高速で充電ができるインフラの整備に力をいれることにした。その詳細を政府はホームページでも告知している。
参照 : bundesregierung.de
100万個の充電施設整備!
見出しに書かれている通り、政府の目標は2030年までに100万個の充電施設を整備すると目標を掲げている。政府は税金を使用して半分の50万個を整備する。残りの50万個は自動車業界、電力会社が政府の補助金を使い整備する。
もっとも100万個といっても、「多いの、少ないの?」と、ぱっとしない方がほとんどだろう。そこで比較を出してみたい。日本の某新聞社が、「日本のEV充電インフラは世界トップレベル」と絶賛している日本の充電施設の数は、たったの3万2000個。
参照 : 東洋新聞
「電気自動車のインフラ設備がない!」と言われるドイツでは2万個。一見すると日本の方が断然、進んでいると思える。しかしドイツと日本では人口がけた違い。人口10万人あたりで計算すると、25個/10万人と全くおなじ数値になる。
参照 : emobilitaet.online
しかるに日本のメデイアに手にかかると、「日本は世界トップのインフラ」となる。愛国主義もここまでくると、事実の歪曲だ。「井の中の蛙」と言えばかわいいのかもしれないが、日本のメデイアの自画自賛には、ほとほとあきれ果てる。
EV充電インフラ 世界トップ
電気自動車充電施設の充実度で世界のトップは、日本ではなくノルウエーである。日本の7倍以上もの充電設備が整備されている。
しかしドイツ政府が本当に100万個のEV充電インフラを整備すれば、そのノルウエーの6倍強の充電施設網になり、押しても押されぬ世界でトップの電気自動車(充電設備)大国になる。
まさにこれがドイツ政府の目標で、出遅れた電気自動車競走を、政府の補助金で一気に解消してしまう狙いだ。
その一方で電気自動車でドイツの10年先を行っていた日本は、今回もそのチャンスをみすみす逃してしまいそうだ。自画自賛するあまり、リードをさらに拡大する努力を怠っている。折角、日本車にとって千載一遇のチャンスだったのに。
購入奨励金
次は肝心の購入奨励金制度を見てみよう。この制度は期限付き。これまでの制度は2020年に終わる予定だったが、2025年までに延長される。
奨励金の対象となるのは、カタログ価格が6万5000ユーロまでの電気自動車の他に、ハイブリット車、さらには水素自動車に拡大されている。
で、なんぼもらえるの?
電気自動車
カタログ価格が4万ユーロまでの電気自動車であれば、なんと6000ユーロの奨励金!
カタログ価格が4万ユーロを超える電気自動車であれば、それでも5000ユーロの奨励金
ハイブリット車
カタログ価格が4万ユーロまでのハイブリット車であれば、なんと4500ユーロの奨励金!
カタログ価格が4万ユーロを超える電気自動車であれば、それでも4000ユーロの奨励金
水素自動車
水素自動車は車両価格が高いので、奨励金は4000ユーロになります。
奨励金の申請
奨励金は車メーカーが半額、政府が半額出します。政府がからんでいるということは、面倒な手続きが必要で、奨励金をもらいたい人は申請する必要があります。
何処に申請するの?
経済相のホームページで申請できます。
参照 : fms.bafa.de
言う間でもなく、ドイツ語です。
必要書類
そして以下の書類が必要です。
- 購入契約書
- 請求書
- 自動車登録証
奨励金の申請時点では、自動車の購入契約書と請求書だけでOK。大事なのは、この請求書にてすでに販売元(車メーカー)が出す奨励金が、すでに引かれてることが明記されている事。自動車の登録が終わったら、登録証明書もアップロード。奨励金が数か月で支払われます。
「すでに電気自動車を買ってしまった!待ってればよかった~。」という方に朗報。2016年5月18日以降に購入された方には、この新しい電気自動車購入奨励金が採用されます。ですからすでに電気自動車を買った人も、経済省のホームページで申請しておきましょう。