ドイツ銀行、コメルツ銀行と合併なるか?
悪い話題の尽きることのないドイツ銀行。リーマンショックから10年以上経っているのに、業績の悪化と株価の落下が止まらない。金融危機の前は120ユーロもした株が去年、7ユーロまで落下した。言うまでもなく過去最安値更新である。
この株価に不満なのは株主だけではない。ドイツ政府もドイツ銀行のこのていたらくを心配な面持ちで見守っている。脱税、利率操作、マネーロンダリングなど、ありとあらゆる違法行為に手をだしてきた銀行の行く末を、何故、政治が心配の面持ちで見ているのだろう。
ドイツ唯一のグローバル銀行 ドイツ銀行
世界中で活躍するドイツ企業。卓越した技術力で作り上げた製品を欧米は言うに及ばず、アジア、アフリカに進出して販売するには、銀行の支援が欠かせない。しかしドイツにはグローバルに活躍する銀行は、いい意味でも悪い意味でも、ドイツ銀行しかない。
日本は言うに及ばず、タイからベトナム、台湾、フィリピン、マレーシア、スリランカにまで支店を置いて、ドイツ企業の進出を支援している。お陰でドイツ銀行の従業員の数が多くなり、大量解雇をした後でも10万人近い社員がいる。
日本を代表するグローバル銀行の三菱UFJの従業員は10万人+。世界中で活躍するには、この程度の従業員数になってしまう。しかし両銀行には大きな違いがある。三菱UFJは1兆円近い利益を出しているのに、ドイツ銀行は2014年から4年連続で赤字を出している点だ。
もしドイツ銀行が展開している支店網を維持できなくなると、それはドイツ企業にもダメージを与える。日本の企業が好んで三菱UFJをパートナーにして海外進出するように、ドイツの銀行はドイツ企業の考え方、慣習を一番良く理解しているので、「じゃ、Citi Bankでいいじゃん。」というわけにはいかないのだ。
政府はドイツ銀行が規模の縮小を迫られて、海外での活動拠点を減らすことを心配している。これはそのままドイツ企業の海外事業にも影響を及ぼすことになる。もうひとつの心配事は、株価の低迷を狙って外国の銀行、とりわけ中国の銀行がドイツ銀行を買収する事だ。
そうなればドイツ銀行の海外拠点は真っ先に清算され、ドイツ企業の海外事業の機密が中国側に筒抜けになる。かってドイツで第三の規模の銀行、ドレスナー銀行が売りに出された際、中国の大手銀行ICBCが買収の意向を示した。しかしドイツ政府がこれに反対してドイツ第二の銀行、コメルツ銀行が買収した経緯がある。
コメルツ銀行
支店を持つ銀行でみれば、コメルツ銀行は未だにドイツ第二の規模をもつ銀行だ。その凋落はドレスナー銀行買収に端を発す。ドレスナー銀行、米国のサプライム関連の紙屑債権を多く持っていた。
コメルツ銀行がドレスナー銀行買収後、サプライム危機が本格化、コメルツ銀行は債務を払えなくなり国に支援を求めた。あれから10年以上経ってもコメルツ銀行は、国から借りたお金を返す余力がない。同社の株価は20ユーロから6ユーロまで回復したように見えるが、危機が最高潮に達した際、「10株をまとめて一株にする。」と株を減らしたので、実際には未だに60セント。これでは債務を返せるわけがない。
以来、ドイツ政府はコメルツ銀行の最大の株主だ。政府はできれば持ち株を売り、売却益で5Gに必要になるグラスファイバー網を整備したいが、今株を売ると大赤字。税金を投入して私企業/銀行を救った以上、あまりにあからさまな赤字投資は避けたい。
アナリストによると、コメルツ銀行の株価が18ユーロまで復活すれば、政府はほぼ損益なしでコメルツ銀行と縁が切れるという。しかし6ユーロ前後を徘徊している同銀行の株が、近年中(2~3年)に300%も上昇するとは考えられず、縁を切る場合は損益は避けられない状況だ。
永遠の買収候補
このような背景があり、コメルツ銀行はアナリストの間で「永遠の買収候補」と呼ばれており、ほぼ毎年、「○○銀行が買収を計画中」と報道されて、株価が数日上昇する。1ヶ月もすると噂は絶ち消えて、株価は元に戻ってくる。
最後に買収の噂があがったのは2年前。イタリアの銀行”Unicredit“、それにフランスの銀行”BNB Paribas“まで、コメルツ銀行に興味のあると報道された。この噂が本当だった場合、買収する前に最大株主の国の許可を取る必要がある。国がコメルツ銀行の株を赤字で手放す用意があるかどうかにかかっているのだが、どうもあまり乗り気ではなさそうだ。
政府にしてみれば、ドイツを代表する銀行が買収されてなくなるのは、あまりよろしくない。外国企業に買収されると、フランクフルトにある本社、あるいは今の従業員数は必要なくなり、解雇は避けられない。解雇された従業員に失業保険を払うのは、買収を認めた政府なのだ。
ドイツ銀行、コメルツ銀行と合併なるか?
ここで新たな噂として登場したのが、ドイツ銀行とコメルツ銀行の合併だ。フランスの大手の銀行がコメルツ銀行を買収すると、ドイツ国内に新たな大バンクが登場することにより、タダでも少ないドイツ銀行の儲けと客がさらに減少する。コメルツ銀行買収により、ドイツ銀行は巨大なライバルの出現を妨げることができる。
買収、もとい合併するコメルツ銀行にも利点がある。ドイツ銀行株は今、底値(とりあえず)。今、合併すれば、コメルツ銀行とドイツ銀行株の交換レートが有利なのだ。
一見するとこの買収は「ウイン ウイン」のように見えたので、勝手に一人歩きを始めた。去年、ドイツ銀行の頭取に就任したゼービング頭取は取締り役員会議でこの噂の信憑性を聞かれ、”Bullshit”(翻訳: 愚にも付かない)と回答したと外部に漏れた。
実際、銀行業界のアナリストも、「一人でまともに歩けないふたつの銀行が一緒になると、ひとつの立派な銀行になるというのは空想だ。」と冷たく見ている。
ドイツ銀行のアキレス腱(のひとつ)は、社内のIT。同社のITは、「80年代の古いITと、21世紀のITが複雑に混在するバベルの塔。」と言われている。この欠点を補うには合併ではなく、社内への投資だ。
買収なんぞしてしまった日には、多額の金と労力が必要になり、ITの健全化は先送り。いつバベルの塔が崩壊するか、わかったものではない。そんな危険を冒すよりも、安定したITシステムの構築、業務のIT化により収益率を改善しないとドイツ銀行は深い穴から抜け出せない。
だからゼービング頭取は、「2018年は事業と人員の整理、これが済めば『他の事』を考えてもよい。」と言ってる。
コメルツ銀行も、ドイツ銀行との合併には否定的だ。コメルツ銀行は2年前にほぼ1万人もの従業員を解雇して、IT化を薦めてきた。合併するとまた人員削減が避けられず、社員はドイツ銀行との合併には反対だ。どうせ買収されるなら、これではドイツ銀行に買収されるために、わざわざ大金を払って銀行を魅力的にしたことになる。こうした背景があって、ドイツ銀行とコメルツ銀行の合併の噂がは次第に下火になり、消えてしまった。
Deutsche-Commerzbank
ところがこの古い買収話が、2018年末になって復活してきた。理由は2つ。まず最初の理由は財務大臣のショルツ氏が、「アメリカの銀行に対抗できる大きな銀行が、ドイツにも欲しい。」と口述、ドイツ銀行とコメルツ銀行の合併の噂に一気に花が咲いた。
参照元 : Reuters
次の理由は両銀行の収益の悪化だ。コメルツ銀行は収益予測の下方修正を余儀なくされ、株価はまた6ユーロまで落ちた。一方、ドイツ銀行はまたしても検察の強制捜査が行なわれ、ネズミが沈む船から逃げ出すように、客はドイツ銀行を避けるようになった。
両銀行、「このままではいけない。」と一種の「相互理解」に達し、双方の頭取が会合して意見を交換している。去年はまだ “Bullshit”だった合併の話が、すくなくとも意見交換されているから、大きな進歩だ。
推測が好きなアナリストは合併後、銀行の名前は “Deutsche-Commezbank” と書いている。これが意外としっかりくるから不思議だ。実際のところ、合併の確立はどの程度なのだろう。
合併の可能性
去年だったら可能性は50%未満だったが、上述の理由により可能性は50%+まで上昇した。確率がもっと高くならないのは、合併には大株主の承認が欠かせないからだ。コメルツ銀行の大株主であるドイツ政府は、合併に賛成だ。ドイツには米国のメガバンクに抵抗できるだけの大きさがなく、収支の面で桁違いだ。合併すれば、規模の上では三菱UFJ並みの大銀行の誕生になる。
その他の株主は合併にあまり乗り気でない。合併になると、まずは金がかかる。合併の年は赤字になり、配当金が出ない。そして大企業の合併は、1年やそこらで完成するものではない。赤字を出している銀行と、未だに国に借金を返せない銀行が合併しても業績の早期の改善は望めず、金ばかりかかる。今後、数年は配当金が出ないかもしれない。慈善事業をやっているなら問題ないが、投資家は利益を出すのが目的だ。そんな気の長い話には乗り気ではない。
「ドイツ コメルツ銀行」が現実化しない場合、ドイツ政府が保有しているコメルツ銀行株を売却する可能性が高くなる。売却先としてはフランスの銀行が最有力候補だが、他の銀行が名乗りを上げるかもしれない。なにしろ欧州内で最大の人口とBIPを誇る国の銀行だ、ドイツに進出するいい足場になる。
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