
今回のテーマはドイツの交通法規、それも ドライブレコーダー がテーマです。
もらい事故・当て逃げ対策で利用している方も、多いと思います。
が、ドイツでは公道でのドライブレコーダー使用は違法なんです。
何故なのか、以下に詳しく解説いたします。
この記事の目次
ドイツではドライブレコーダー違法なの?なんで?
日本でかなり普及したドライブレコーダー。
加えて店舗や高級住宅では監視カメラが当たり前。
この為、カメラ設置に際して何とも思わない人がほとんど。
でもドイツではドライブレコーダーによる動画の撮影は違法です。
理由は簡単。
ドライブレコーダーによる公共の場における動画撮影は、
違法の定義
でも、だからといって
「ドライブレコーダーを車に取り付けただけで罰金!」
というわけではありません。
違法になるのは、以下の条件を満たした場合です。
- 公共の場所で
- 許可なく
- 他人、他人の車両が写り込む動画を録画して
- 保管している
と違法になります。
ドライブレコーダー撮影に課せられる罰金刑
「そんな馬鹿な!」
と信じれない方に
「実例」
を紹介します。
高速道路を走行中、ドライブレコーダーで撮影をしていたドイツ人は警察に見つかり、200ユーロの罰金を言い渡されました。
それだけではありません。
ミュンヘン市内に車を停めたドイツ人女性は車が当てられることを心配して、駐車中も3時間以上に渡ってドライブレコーダーで撮影。
そして実際に当て逃げに遭遇!
警察に
「犯人を捜して!」
と動画を差し出すと、
「個人情報の侵害」
の廉で逆に書類送検されてしまった。
裁判所は150ユーロの罰金刑を言い渡しました。
ドライブレコーダーで撮影された動画に当て逃げ犯の他に、
「無関係な多数の車両」
が写っているのがまずかった。
合法なドライブレコーダーの撮影
ところが今年、これまでの常識を覆す判決が下された。
事の起こりは、東ドイツのマグデブルク市内の道路で起きた車の接触事故。
横に車がいるかどうか確認もしないで、車が車線を変更、
「ドカン!」
と横から追突した。
事故を起こした張本人は、
「相手がぶつかってきた。」
と主張した(ドイツではこれが当たり前)。
当然、裁判所で争われることになった。
しかし警察も事故の専門家も、誰が車線を変更したのか判定をすることができず、お互いに修理費を払う痛み分けの判決が出た。
追突された被害者は、
「撮影したドライブレコーダーの動画を見れば、誰が事故を起こしたのか一目瞭然だ。」
と主張した。
しかし裁判所は、
と、これを見ることさえも拒否した。
「俺は悪くない。」
と確信してた被害者は、地裁で負けても挫けずに控訴した。
そして最高裁判所が、この一件を判断することになった。
果たして事故の状況を撮影した動画は、証拠として有効なのだろうか?
最高裁判決
2018年5月、最高裁は
との判決を下した。
肝心の判決理由は、
1.他に事故の原因を突き止める証拠、手段がない
2.事故の当事者同士、個人情報を交換するのだから、個人情報はどのみち知れ渡る
3. ドライブレコーダーの撮影は公の道路だけであった。公の道路を使用するからには、他の人に見られのは避けられぬ。
という内容だった。
最高裁はこの一件を地方裁判所に戻し、そこの裁判官がドライブレコーダーの動画を見て判決を下すように命じた。
じゃ、撮影してもいいの?
となると、
「じゃ今後は堂々と撮影してもいいの?」
と問いたくなる。
しかし最高裁判事は
「無差別に交通を撮影をするのは今後も違法」
とした。
「じゃ、事故の時は証拠として使えるの?」
と聞きたくなるが判事は、
「事故により状況が異なるので、個々に判断する必要がある。」
と付け加えた。
これは
「個人の権利が侵害される恐れがある場合は、証拠として使えない場合もあるよ。」
という最高裁判事の賢い通達である。
言い換えれば、
しかし警察に見つかれば罰金刑になる危険もある。
このようなドイツの特殊な法律に合わせて、
- 事故がなければ撮影した動画を消して、新しく撮影を開始するドライブレコーダー
- 唐突なブレーキや衝撃を感知すると撮影を開始するドライブレコーダー
が販売されている。
ドイツにお住まいの方は、”Dashcam”でぐぐってください。
ドイツの事情に合わせたドライブレコーダーが出てきます。
家の前の監視カメラ
ドライブレコーダーと同じ理由で、
合法なのはカメラが公共の場ではなく、あなたの所有する敷地内を撮影する場合。
だからといって、自宅に入ってくるアマゾンや郵便の配達人を(勝手に)撮影するのは違法です。
そこでカメラを設置している場合は、入口に
「防犯カメラで撮影中!」
の注意書きが必要です。
そんなことは露知らず、自宅前の道路まで防犯カメラで撮影していると、
“Unterlassungsklage”
をいただきます。
これは
「違法な慣行は直ちに是正すべし。」
という訴えです。
裁判で負けたら罰金額は最高15万ユーロです。
困った隣人
逆に中には被害妄想に陥ってアパートの窓際に
「これみよがしに」
監視カメラを設置して、あなたの行動を監視する困った隣人も居ます。
勿論、違法です。
私の経験から言って、
警察、あるいは
“Ordnungsamt”(風紀局)
に相談しましょう。
中には電源の入っていない監視カメラ、あるいは
「監視カメラもどき」
を、これみよがしに設置する困った隣人も居ます。
が、裁判所は
「監視カメラもどきの設置も違法。」
との判決を下しています。
( BGH-Urteil, Rn. 13)
警察の警告も効き目がないようだったら弁護士に相談して、
“Unterlassungsklage”
をするのが一番です。
警察によるナンバープレート撮影は合法?
個人の権利を重視する欧米人と、これを軽視するアジア人。
この違いを象徴する例がある。
欧州では国が陸続きなので、犯罪者がドイツまで出張に来る。
移動に使われるのは高速道路だ。
警察は
「犯罪者を高速道路で発見、捕獲できないか?」
と考えた挙句に、
「スピード違反カメラ」
を利用する案を考案した。
高速を走る車のナンバープレートを無差別に撮影して、警察本部に自動送信する。
本部ではコンピューターがナンバープレートを自動で識別、ドイツはおろか、欧州全域で指名手配されている車のナンバープレートと瞬時に比較する。
指名手配されているナンバーが見つかると警告が表示され、そのナンバープレート、指名手配の中身が表示される。
あとは
“Martinshorn”(サイレン)
を鳴らして、車を追跡する。
一般道と違い、高速では逃げ道(わき道)が少なく、実に捕まえやすい。
警察はこの方法で犯罪者を捕獲、大きな成果を上げていた。
しかしそれもある一般市民のドイツ人が、警察の行動に不審を抱くまで。
「何も悪いことをしていないのに、警察が自分の車を撮影するのは個人の権利の侵害だ!」
と市民がと訴えた。
最高裁判決
警察は
「市民の生活を守るためにやっていることで、撮影したデータは消去されるので、何も隠すことがない市民に弊害はなく合法である。」
と、まるで日本の警察のように論拠した。
この一件は最高裁判所で争われることになり、2019年の2月に判決が出た。
最高裁の判事は、
「ナンバープレートの自動認識が犯罪者の捕獲に繋がる、繋がらないに関係なく、無差別にナンバープレートを撮影するのは、基本権の侵害にあたる。」
と判決を下した。
ただし!
すべての捜査が違法というものではなく、例えばテロリストが車で逃走中である場合など、具体的な事例がある場合は、ナンバープレートの自動認識を合法とした。
