ドイツのコロナウイルス対策 は、日本の対策と根本から異なります。ドイツでは過去の経験から、ウイルスの蔓延に対するマスタープランが出来上がっています。事態が発生するとこれを発動する準備万端型。
日本は良く言えば、状況に応じて対応型。悪く言えば、出たとこ勝負。予想外の事態に直面しても、「沽券にかかわるので、今更、後にはひけん。」と、両目を閉じるのが日本式。結果、災害に巻き込まれた地方では甚大な被害が発生するものの、日本人の多くは「災害だから仕方がない。」と考えている様子。
日本に住んでいる方にはニュース元が日本語しかないので、政府の行動がいいのか、でたらめなのか、判断できないと思います。そこでドイツの災害対策と比較していきたいと思います。
この記事の目次
ドイツのコロナウイルス対策 – 武漢からの帰国者の隔離
日本政府の行動パターンの典型的な例が、武漢からの帰国者の隔離です。ドイツ政府は空軍機でドイツ人を帰国させる前に、隔離施設を確保して(潜在的)感染者の受け入れ準備を整えます。その上で帰国便を派遣しますが、「帰国後の隔離に同意する者だけが乗れる。」と、周知させます。
日本はちゃんとした隔離施設を準備せずに帰国便を飛ばすと、民間のホテルに「お願いします。」と頼み込む策のなさ。挙句に帰国者をツインルームに収容。これでは隔離の意味がない。
あまつさえ帰国者が、「隔離されるなんて嫌。」と言い帰宅すると、「強制することができない。」と言い訳。これが日本政府の特許である「出たとこ勝負」の欠点。マスタープランがなく出たとこ勝負なので、細かい部分まで考えておらず、対策が後手に回る。
国民の怒りが「なんでちゃんと受け入れ準備を整えてから、帰国させない?」と国の施策の甘さに向かわず、「なんで政府の隔離要請に応じないんだ。」と帰国者に向かうは、と~っても日本的。
軍の施設を隔離に使う利点
ドイツのように軍の施設を隔離に利用することの利点は明らかで、
- 出入りが厳重に監視されているので、軍の施設外へ感染者が出る危険はない。
- 軍隊は自給自足の集団なので、食事、衛生面の設備が整っている。
- 軍隊には化学兵器部隊があり、感染症対策にも万全の備えがある。
- 軍には空いている建物が多く、駐屯地が広いので、感染者を収容するにはうってつけの環境。
が揃っている。政府からの要請があれば宿舎に壁を作り、感染者を収容できる個室を1週間もかからないで用意できる。自衛隊の能力を利用しようとしないで、民間のホテルに頼む日本の政府の政策決定は、理解しがたい。
国が危機的な状況にあるのに、国を守る筈の自衛隊は朝から銃剣突撃の練習に励んでいる。これでいんだろうか?
ドイツのコロナウイルス対策 – 隔離施設内でのグループ分け
又、ドイツでは隔離者の中から感染者が出ることを想定している。これに備えて隔離者は、幾つかのグループに分けられる。グループ内で感染者が出ると、そのグループだけは隔離日数はゼロになり、初めからやり直す。
他のグループは隔離中に誰も発症しなければ、14日間で解放される。
このように隔離者を分ける事で、隔離者の間での感染を防ぎ、本当の意味での隔離が可能になる。これの正反対が、ダイヤモンド プリンセス 号だった。
浮かぶ監獄 ダイヤモンド プリンセス 号
日本政府の危機対応能力の欠如を世界に知らしめたのが、ダイヤモンド プリンセス 号の隔離措置だった。日本政府は感染の専門家を呼ばずに政治家が夜会して、「乗客を船に留めよう。」と決定を下した。
世界広しと言えど、感染医学の専門家を呼ばず、政治家の胸三寸で感染措置を決めるのは北朝鮮と日本くらいだ。
これが大きな間違いだった事は、日々増加する感染者数で明らかになった。しかし日本政府は誤断を白状するよりは、感染してない乗客や乗員を危険な船内に留めて、コロナウイルスに感染、場合によっては感染症で死亡するほうがマシだと考えた。
この事態を見たイギリスの報道機関は、ダイヤモンド プリンセス 号を洋上のウイルス培養器と形容した。ドイツの新聞はそれほどひどくはなかったが、「浮かぶ監獄」と呼んで、日本政府の無能さを指摘した。
参照 : welt.de
そしてまだ感染していなかった乗客も、ダイヤモンド プリンセス 号でコロナウイルスに感染していった。日本政府は隔離後の船内感染を否定しているが、陰性の診断を受けて船を降りた乗客が陽性となった乗客で簡単に証明できる。
日本政府は面子を守るために、乗客の生命を脅かす危険な船内隔離を断行してしまった。
福島原発事故との共通点
この政府の行動には、担当する政権は違っても、福島原発事故と共通点がある。当時、手に負えない原子炉溶解事故で、政府は火災作業員の動員を決めた。が、原子炉が溶解して高度に汚染された現場での作業は、神風特攻隊のようなもの。
そこで政府は作業員が癌になって死んでも言い訳できるように、被ばく量の限度を50ミリシーベルトから、200ミリシーベルトに変えた。作業員が癌になり死亡しても、政府は現行の法律内で決定をしたので、作業員を過度の危険にさらしたわけではない。
これが日本政府が危機の際に決まって用いる政策の特徴だ。そして政府は面子を保つためなら、ダイヤモンド プリンセス 号の乗客であれ、福島原発の作業員であれ、犠牲にすることを厭わない。
コロナウイルス基本方針
日本政府の施策には、理解できない(意味のない)ものが多い。そのひとつが、わざわざ予告をした後に肝煎りで発表した、コロナウイルス基本方針だ。
参照 : 厚生労働省
この基本方針によれば、「37.5°C以上の発熱が4日以上続いているときは、帰国者・接触者相談センター」に相談しろという。そう、まずは熱が出ても医者にもいかず、4日以上待ってから、保健所に電話しろという。
わが子が発熱しているのに、4日以上も自宅で待てる母はいない(事を祈ります)。子供に限らず、発熱があれば誰だって、早く検査して欲しい。ましてや4日待って連絡しても、「重症でない方の検査はできません。」と断られる。
感染拡大から1か月以上経っているのに、未だに限られた検査能力を改善しないのには、どんな理由があるのだろう?
ましてや症状の原因がコロナウイルスではなく、インフルエンザの場合は48時間以内に薬の接種が必要とされている。4日後の診療では手遅れだ。コロナウイルスを恐れるあまり、インフルエンザで死んだらどうする?
この日本政府の基本方針は、すでに臨界点の瀬戸際にある日本の医療現場を崩壊させないために考えられたもので、国民の健康を守るためのプランではない。
日本と違う!ドイツのコロナウイルス対策
ではドイツのコロナウイルス対策は、どのようになっているのだろう。ウイルスの感染拡大を止めるには、「37.5°C以上の発熱が4日以上続いているときは、帰国者・接触者相談センタ」に相談しろ。」ではなく、素早くテストをすることが必要だ。
感染者を早く見つけて隔離すれば、さらなる感染を防げる。この目的の為、ドイツを含む西欧ではコロナウイルス 即席テスト キットがすでに装備されている。検体を取って、数時間後には結果がでる。
何よりも日本との一番大きな違いは、ドイツでは保健所の許可なくしても、民間の病院でテストを受けることができること。勿論、健康保険が効きます(症状があれば)。
日本では官僚がこのテストを民間に開放する事に(5つの病院を除き)抵抗しているので、1日あたり900件の検査で能力の限界に達している。政府の「1日3800件」という数字は、検査装置のマス目の数の話で、実際の検査数ではない。
PCR テストの上限なし – ロバートコッホ研究所
「患者数が急増したら、テストの数が足らなくなるのでは?」という記者からの問いに、ドイツのコロナウイルス対策の陣頭指揮を執っているロバートコッホ研究所は、「PCR テストは比較的簡単なテストなので、テストセットは上限なしに増やすことができ、どこの病院でも検査できる。」と、回答した。
では、何故、日本ではテストの数が増えないのか?「民間に任せると、テスト結果の信用性に欠ける。」というのが、厚生省がこれまでに明らかにした表向きの理由。実際には国立感染研究所が権限を失いたくないために、テストを増やすこと拒否している。
勘ぐれば、PCR テストキットはドイツの医療品メーカー”Qiagen”が製造している。日本政府はこれを買い付ける形だ。お陰で”Qiagen”の株価は、世界中で株価が下がっているのに、上昇中。日本政府は日本の医療品メーカーがこのテスト キットを開発するを待っているのではないか?
日本の官僚はコロナウイルス対策でドイツのメーカーが「大儲け」するのを防ぐために、PCR テストの数を制限していると、疑いたくなる。それとも東京オリンピック開催がキャンセルされないように、感染者数を少なく見せようと、政治の圧力でテストの数を制限しているのではないのか?
うがい、手洗い、マスク
ドイツと日本の新型コロナウイルス対策の違いは、日常の対策にも表れています。まず手洗いですが、「消毒液は要らない。2秒以上洗えば、大方のウイルスは落ちる。」として、必要もないのに消毒液を購入しないように呼び掛けています。
次にマスクですが、「自身が感染している場合は、これを広げないという点で効果があるが、感染予防の効果は限定的。」としています。それどころか、「マスクが必要な医療機関の従事者に十分な数のマスクが提供できるように、購入を避けるように。」と呼び掛けています。
最後のうがいに至っては、言及さえされていません。うがいを勧めるのは、日本だけのウイルス対策の用のようです。
学校の閉鎖
日本では学校が一斉閉鎖になりました。ここでもドイツのコロナウイルス対策は、日本のそれと大きく異なっています。厚労省は、「学校、幼稚園等の一斉閉鎖はしない。」としています。学校などを一斉閉鎖すると病院、警察、交通機関、役所等で働いている人が勤務にいけず、行政機能がマヒするからです。
そもそも教育機関の運営を決めるのは、州政府の権限です。勿論、非常事態宣言を出して国が権限を掌握、学校の一斉閉鎖を命令することもできますが、そのような処置は取られていません。
そこで学校等の閉鎖に関しては、「州が必要な措置を取る。」としています。結果、集中感染が発生した街では学校や幼稚園が閉鎖されることはありましたが、そのような措置は限定的です。
コロナウイルス 新型テスト – Real-Time-PCR
スイスの薬品会社 Roche はコロナウイルスの新しいテスト /”Real-Time-PCR”を開発、米国の薬品等の認可局 FDA から認可が下りました。このシステムでは3時間半で結果が出るので、必要な施設を備えている研究所であれば、1日に4000もの検体の検査が可能なるとのこと。
参照 : aerzteblatt.de
同社のテストは、CE認証(日本の JIS マークのようなもの)を導入している市場では、入手可能との事。すなわちEU内であれば、入手可能。
ドイツのコロナウイルス対策 – 危機対策本部 /”Krisenstab”
ドイツではウイルスの封じ込めに成功して、感染者の数が2週間ほど増えていなかった。感染していた患者は1名を除き、すべて病院から退院できた。しかし2月25日になると、コロナウイルス感染者の数が急増した。欧州での伝統行事、カーニバルがその原因だ。
イタリアのカーニバルに参加したドイツ人が感染して、家族、同僚、さらには医師にまで、感染が広がった。1日で10名の感染が明きらかになると、ドイツ政府は27日、危機対策本部 /”Krisenstab”を設置した。
参照 : tagesschau.de
これも冒頭で述べたドイツのマスタープランで、危機が発生すると危機対策本部 /”Krisenstab”が発足する決まりになっている。この危機対策本部はドイツ軍参謀本部を見本に導入された仕組みで、参謀総長のように一番上に立つのは厚生大臣と内務大臣だ。
対策本部のメンバーは、ロバートコッホ研究所、それぞれの州の厚生省の連絡員、そして内務省と軍のメンバーからなる。メンバーはドイツ全土から上がってくる戦況を一括して把握、これを厚生大臣と内務大臣に報告して、本部長は必要な対策を決める。
すると今度はこれが命令系統に従って、末端の機関である県庁や市議会にまで伝えられる。軍隊の命令系統のように、実に効率がいい。
感染病対策計画
危機対策本部は即日、仕事を始めると命令第一号を発令、州政府に対して感染拡大に備えるべく、感染病対策計画を(必要に応じて)活性化させるように命じた。そう、日本と異なり欧米では感染病の蔓延に対しての感染対策計画がすでに出来上がっている。
そしていざ感染が蔓延の兆候を見せると、対策本部が設置されて感染対策計画の活性化を下達する。計画が活性化されると、州は隔離施設を準備、拡充、必要とあれば学校を閉鎖したり、コンサートや集会の開催を中止することができる。
そして西ドイツの幾つかの州で、この計画が活性化された。これにより州の各機関は、集会、会合などを即日キャンセルした。
メルケル首相は、「すべての催し物をキャンセルしなくてもいいんじゃないか。」と危機対策本部の決定に抵抗したが、聞き入れてもらえなかった。それどころが感染者が増えると、「催し物の挙行は現場の担当省庁が、感染の危険がないと判断すれば、挙行は可能。」とさらに厳しい条件を課した。
どの担当省庁でも、「この会場では感染は起きない。」と保障できないから、これは事実上の催し物 & 集会等の禁止に相当する措置だ。結果、大きな見本市がキャンセルになるなど、日本同様の措置が取られている。果たしてドイツは中国やイタリアのような感染の蔓延を防げるだろうか。
感染病対策の目標 – 時間を稼ぐ
ドイツでも感染者の数が1000人を超えた。メルケル首相、厚生大臣、ロバートコッホ研究所の所長、それにベルリンのシャリテーの病院長が会見を開き、直接、国民に落ち着いた行動を取るように呼びかけた。というのもドイツでもスーパーで買い占めが起きているからだ。
まずメルケル首相は、「ドイツにおける新型コロナウイルスの蔓延は避けられない。」とのロバートコッホ研究所の所長の言葉を繰り返した。さらには国民の一人一人が理解できるように、「今後、国民の60~70%が感染すると予想される。」と、今後の事態について明言した。
この事態に対応するには、時間を稼ぐこと。時間を稼げば、ワクチンを開発することができる。これを可能にするため、「感染の速度を下げるあらゆる努力をしなければならない。」と語った。
厚生大臣はコンサートの中止や、サッカーの無観客試合への非難に触れ、「感染病の蔓延が避けれれない今、優先順位をつけなければならない。今、最優先で確保しなければならないのは、医療機能の保持。」と明言した。
感染者が一気に増えると医療機関に患者が詰めかけ、中国やイタリアで見たように、医療機関がその機能の限界に達して死者数が増加する。これを避けるためには集団感染を防ぎ、感染者の穏やかな安定した増加を実現する必要がある。それにはコンサートの中止やサッカーの無観客試合が欠かせない。
そして現時点では、これがうまくいっているようだ。ここ数日は感染者数の増加は200人/日に留まっており、感染者はすべて病院に収容されて、必要な医療措置が施されている。お陰で感染者が1000人を大きく上回っているのに、死者は2人。感染国の中でも死亡率は最も低くなっている。