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VW 排ガス操作 は違法なり!【ドイツ最高裁判決】

投稿日:2020年6月12日 更新日:

VW 排ガス操作 は違法なり!【ドイツ最高裁判決】

長くかかりましたが、ドイツの最高裁が VW 排ガス操作 を違法と判決しました。

参照 : tagesschau.de

VW が米国で排ガスの洗浄機能を操作している事を白状したのが、2015年9月。最高裁の判決が出たのが、2020年6月。

どうしてこんなに長く時間がかかったのか?

ここに至るまでの経過に加え、この機会に VW の新たなスキャンダル & 問題についてご紹介したいと思います。

なんで5年もかかったのか?

最高裁での判決が出るまで5年もかったのは、

「VW は何一つ誤った事はしてない。」

とこれまで主張してきたからです。えっつ、認めたのじゃなかったの?そう、

「米国では違法かもしれないが、ドイツでは合法だ。」

というのが VW の基本姿勢です。BMW やメルセデス、最近では三菱自動車に至るまで、検察の社宅強制調査を受けていますが、一社としてこれを認めていません。

そもそも、

「いや、バレたら仕方ない。すまんっす。」

とあっさり観念するようなら、最初から消費者を騙そうなんて考えはおこしません。大企業の嘘を暴くには、著名弁護士を大勢抱えた大企業を相手に、一人で最高裁まで戦う財力と気概が必要です。

被害に遭った何十万という消費者の中に、果たして何人、そんな人がいるでしょう。

最高裁の判決を出させない VW の戦略 – 示談

最高裁の判決に5年もかかったのは、それだけではありません。

VW は高裁まで裁判が持ち込まれると、これまでの主張を

「コロリ」

と変えて、

「訴状を取り下げるなら、あなたの条件をすべて飲みます。」

と示談を持ち掛けてきます。VW にとっての至上課題は最高裁で

「VW は客を意図的に騙した。」

との判決を妨げること。これは会社のさらなるイメージダウンになります。この判決が出なければ、

「VW は違法なことは何もしていない。」

と堂々と主張できます。ですからまずは意図的な詐欺行為を徹底否定して、

「状況不利」

とみると、示談を申しかけてきたんです。というのも多くの原告は裁判で買っても、

「使用した分の減価償却」

を覚悟しなくてはなりません。示談に応じれば購入価格が払い戻されるので、原告にとっても都合がいいわけです。

最高裁の判決を出させない VW の戦略 – 減価償却

最高裁の判決が出る前から、

「原告側には使用分の減価償却が迫まられる。」

ことが明確になってきました。何しろ排ガスの洗浄機能の操作を VW が米国で白状したのは2015年。

あれから5年間、買った車を返せない消費者は車を使用せざるを得なかった。お陰で判決が遅れれば遅れるほど、車は古くなり減価償却が大きくなります。

言い換えれば、判決が遅れば遅れるほど VW が払うであろう費用が少なくなります。だからあらゆる手段を使って、最高裁での判決が出るのを阻止してきたわけです。

VW を詐欺で訴えた消費者だって、裁判に勝ってもも2万ユーロしか戻ってこないよりも、示談で3万ユーロ払い戻される事を優先。

ところがドイツ人には結構な石頭が多い。利益なんぞ考えず、

「VW に正義の鉄槌を加える。」

と決心した定年退職者が最高裁まで VW を訴えました。こうして5年も経って、初めて最高裁での判決が出ることになった。

VW 排ガス操作 は違法なり!【ドイツ最高裁判決】

最高裁はコブレンツの高裁が出していた判決を認め、

  • VW は原告が購入した車を引き取る
  • 減価償却分を差し引いた2万5000ユーロ+利子を払い戻す

ように命じた。

原告が車を購入したのは2014年で、3万1500ユーロ払ったという。減価償却は差し引かれたが、VW の違法な操作なくしても、6年物の車は2万5000ユーロでは到底売れない。そう考えれば、原告も納得できる判決と言える。

又、判決の理由として、

「VW の行為はモラルに反する行動で、通産省から車の認可をだまし取った。これは会社の上部が、この決断に加わっていた事を示唆するものである。」

と、VW のこれまでの態度をひとつ残らず論破した。

排ガス洗浄装置

VW 排ガス操作 見本訴訟

ドイツではこれまで大企業を集団訴訟から守るため、違法な行為を働いた大企業を集団で訴えることを禁止していた。これがやっと改定されたのが2018年。

もっとも米国のような集団訴訟とは大きく異なります。名前も見本訴訟 / Musterklage といい、未だに大企業は守られている。

それでも被害にあった原告が、集団で企業を訴えることが可能になったことの意義は大きい。そして最初の見本訴訟が、このVW 排ガス違法操作 の集団訴訟となった。

26万人の原告 vs. VW

この見本訴訟に名乗りを上げたのは、ドイツ国内の26万人の VW の顧客だった。

裁判官は審理の間、VW に対して「判決を出すと、負けますよ。」と受け取れる発言を何度かしており、判決が出ればVWの詐欺行為が裁判所公認の事実となることは明らかだった。

そこでVW は裁判所の勧めに従って、和解の協議を始めた。原告側が和解案を提示、VW も背に腹は代えられぬと、これを認めた。ところがである。後はサインするだけとう時点になって、

「原告の要求は非常識だ。」

として VW は和解案を蹴った。これが大きなニュースになり、地に落ちたVWのイメージがさらに悪くなった。政界からも、「VW は騙した顧客に誠意を見せるべきだ。」と、この世論に乗った。

証拠はないが、VW の社長がこの和解案を認めなかったと言われている。社長は見本訴訟の大きな欠点を熟知しており、見本訴訟で負けても、裁判所には罰金や賠償金の支払いを課す権利がない。

原告が損害賠償を求めるなら、個別にVW を訴える必要がある。ならば諦める原告も多いだろうし、減価償却もあり、VW が払う金額がもっと安くなるかもしれない。だから和解を蹴った。

ところが6月になると最高裁の判決が出る。これまでの審議から

「負け戦。」

になる可能性が高い。最高裁の判決で高額な支払い命令が出れば、原告が勇気づけられて個別に訴えてくる可能性がる。そう考えた結果、VW は一度蹴った和解案にサインする決定を下した。

VW 排ガス操作 見本訴訟の和解案

この和解案では原告に1350ユーロから、最大で6257ユーロまでの和解金が支払われる。

参照 : verbraucherzentrale.de

正直、大した額ではない。でも自分で弁護士を探して、最高裁まで訴えるなら、何年かかるかわかったものではない。ましてや6月の最高裁の判決がどうでるか、まだわかったものではない。こうして26万人の原告のうち、23万5000人が和解案に同意した。

残りの原告は最高裁で有利な裁判が出て、これを根拠に個別にVWを訴える事を望んだ。そしてその望みは、叶えられることになりそうだ。今、まだ6万件を超える訴訟が起こされており、今回の最高裁の判決が大きく左右しそうだ。

新型 ゴルフ 問題

第二次世界大戦前、ポルシェ博士によって開発された車がカブトムシ(独 :Käfer)だ。

この車は当初、KDF-Wagen と名付けられた。この車を生産するために作られた会社がフルクスヴァーゲン社だ。

カブトムシは戦前のデザインなのに、カブトムシがやっと50年代に販売されると世界中で大ヒットした。フルクスヴァーゲン社はこのブームが永遠に続くわけない事を知っており、後続車として開発したのがゴルフだった。

これが同社の命運を救った。70年代にカブトムシの売り上げが一気に落ちたが、ゴルフはその落ち込んだ売り上げをカバーして、VW 社の救世主となった。

以来、子会社のポルシェ、アウデイ、ブガッテイ、ランボルギーニなどを除けば、VW 本家の主力車両はゴルフだ。2020年5月にその8代目の車の販売が、巨大な販売キャンペーンと共に開始された。

が、わすか数日後には販売を中止しなくてはならなかった。

ソフトウエア問題

メルセデスの新社長は、

「今後、車(会社)の将来を決めるのはソフト ウエアだ。」

と言っている。VW のデイース社長に至っては車の将来を、

「4つのタイヤがついている携帯電話」

と描写、ソフトウエアの重要性を強調している。

これまでは車に搭載されていたソフトウエアと言えば、”Steuergeräte”と呼ばれるチップだけで、エンジンやさまざまなセンサーの動作を操作していた。

今後は車に搭載されたソフトが、エンジン操作から走行データの表示、さらに携帯電話のようなさまざまな機能を一括して操作する。この機能の拡充、アップデートを有料化する事により、車メーカーには新しい収入源が出来上がる。

が、この分野で最先端を行っているのは、テスラとグーグルで、グーグルはすでに車の用のソフトの提供を始めている。ドイツのメーカーはその遅れを取り戻そうと、大きな投資を行っている。

その中でも壮大な構想を掲げたのがVW のデイース社長 で、

「将来の車のスタンダードになるソフトを作り上げる。」

と大風呂敷を広げた。その見本となるのが新型ゴルフだった。が、まさにそのソフトが、かってのウインドウズのように突然機能しなくなることが判明、同社は販売のストップ、すでに販売した車のリコールを迫られた。

参照 : welt.de

どうして VW のソフトウエアは機能しないの?

テスラは車のさまざまなセンサーを操るソフトウエアを先に開発。そのソフトの機能に合わせて車を開発、製造した。

VW の車はまずは部品メーカーからさまざまな部品を買い、この部品を操るチップを車に搭載している。そのチップの数は60にも上る。そして車を始動させる際、まさしくコンピューターのように、この60のチップが同時に起動しなくてはならない。

が、何度やっても複数のチップが同時に立ち上がらない。結果、システムダウン。

一方、テスラは先にソフトを開発したので、チップ(メインコンピューター)はひとつだけ。だからシステム障害がおきない。

人種差別問題

人種差別問題が米国だけの問題だと思ったら、大間違い。

日本にもあるし、ドイツにもある。ただ日本人、ドイツ人は差別をする側なので、

「差別なんかない。」

と言い張るが、実際には存在している。もっとも(ドイツでは)米国ほどひどくはない。

日本では微妙。警察が逮捕状もないのにベトナム人を6日間もホテルに監禁したり、移民申請をしている女性の身柄を執行命令もないのに、数か月も拘束するなど違法な状態が野放し。

日本人は差別をする側なのでこれに全く気付いていないが、ドイツに行くと差別される側に変わる。するとえらく立腹するのだが、そういう経験をしたら日本国内での差別にも目を向けて欲しい。

まさにそのドイツ人が

「これは差別じゃない。」

と思って作成したのが、新型ゴルフの宣伝スポット。

日本人が見ても、

「何処が差別なの?」

と思うだろう。しかし差別問題に敏感なドイツではネットで大炎上した。そしてその対応もまずかった。

「あのスポットの何処が人種差別なんだ?」

と抵抗。結局は社会の圧力に負けて、お詫びのコメントを出す事を迫られた。

由々しき id.3 問題

VW の将来は電気自動車にある。

少なくともこの先10年は、電気自動車が車業界の行方を決める。VW 社長のデイース氏は会社の命運をかけたゴルフの電気自動車版 id.3 の販売を2020年の夏から開始すると、一大キャンペーンを張った。

参照 : volkswagen.de

これではなかったざまざまな機能が搭載されており、まさに「タイヤのついた携帯電話」になる筈だった。ところがである、上述のようにソフトウエアの問題が発生。約束した機能を全て載せると、車がシャットダウンすることが判明。

VW はまたしても車の販売延期を余儀なくされた。その挙句に約束して機能を削り、車がシャットダウンしない機能だけで売ることにした。2020年9月が正式な販売開始となるが、当初約束された機能はついてない。

二酸化炭素排出量違反 45億ユーロ罰金問題

2021年からEU では、車が排出してもいい二酸化炭素の排出量が規制される。

個々の車の二酸化炭素排出規制に加えて、メーカー全体で算出した二酸化炭素平均排出量も規制される。この規制をクリアするために VW は電気自動車を導入したのだが、販売開始が遅れた。

結果、VW はEU の排ガス規制値を満たさないことが明確になった。その罰金額は45億ユーロ。この額は VW が見本裁判の和解で原告に払う額よりも、7倍+も大きい高額な罰金だ。

VW 社長 降格させられる

立て続きに起きた VW スキャンダルは、社長のデイース氏の降格へと発展した。

VW の社長であるデイース氏は、叩き上げの人物。古い日本語では言えば猛烈社長。わかりやすい言葉で言えば、ワンマン(わがまま)社長。異なる意見には、耳を貸さない

これが VW の特徴(欠点)で、この欠点が排ガス スキャンダルへと発展した。社長が決めたことは絶対で、必要とあれば違法な手段を用いても実行しなければ、会社での出世はない。日本の会社にそっくり。

デイース氏は米国の電気自動車メーカー、テスラへの遅れを取り戻すため、

「電気自動車攻勢」

をかけた。

それはいいのだが、

  • 内燃エンジン車の製造開発
  • 自動運転の研究・投資
  • 電気自動車攻勢
  • ソフトウエアの構築

を同時で進めるように命令した。これはドイツが戦争で二度も負けた二正面戦争に等しく、4方位で戦えるだけの戦力がなかった。ソフトウエアの開発に十分な時間が与えられず、十分な試験をせずに販売、今回のリコールになった。

労働組合長 vs. 社長

そのワンマン社長ととりわけ折り合いが悪いのが、労働組合長のオスターロー氏だ。

まあ、どこの会社でも労働組合と会社の社長は仲が悪いものだが、VW の場合は特別。というのもドイツでは労働組合長が、取り締まり役員に就任するシステムなのだ。

そしてVW 労働組合長のオスターロー氏は、言うなればドイツの労働組合長の代表的な存在。日本では考えられないが、労働組合長が何度もテレビに出演して、社内はおろかドイツにおける労働組合の窮状を訴えている。

でも労働組合が左翼の人間だと思ったら、大間違い。氏は現場で働く労働者から改善の提案を取り集めると、役員会議で提案。この提案にて会社が数十億ユーロの金を節約、世界一の車メーカーになる事に貢献した立役者でもある。

だから労働組合の代表なのに、他の役員メンバーからの信頼も厚い。そのオスターロー氏が、社長の4方位攻撃を非難すると、他のメンバーもこれに同調した。

結果、社長のデイース氏は VW グループの社長には留まったが、本家 VW の責務から解かれ、別の取締役員メンバーが社長に就任した。

実は社長のデイース氏、この解任劇の前、社長の任期を2025年まで延長するように要求していた。しかし取締役員の中には、

「こんな社長が2025年まで居たのではたまらん。」

と、これを認めなかった。そして今回の解任だ。

あの怒りっぽいデイース氏にとって、二度の敗北は氏に対する謀反も同然。きっと腸が煮えくり返っているだろう。

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執筆者:

nishi

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