時代の流れか、ドイツでもおかしな名前の法律が次々に誕生している。(*1)
今回成立した法律の名前は、”Baulandmobilisierungsgesetz“。
日本語に直すと、建設用地総動員法。
政府はこの法律で、
「慢性的なアパート不足による家賃の高騰を抑制する。」
と、頼もしい事を言っている。(*2)
建設用地総動員法の評価には数年待たなければないないので、今回はこの法律の骨子について紹介してみよう。
この記事の目次
建設用地総動員法
ドイツ政府がよりによって今、建設用地総動員法を大急ぎで国会を通過させたのには理由がある。
今年は総選挙があります。
大都市では収入の1/3が家賃に消えるほど、家賃が高騰しています。
それでもアパートが見つかればいいが、
「空き物件」
には20~30人も見学に来るので、そもそもアパートを契約するのが無理。
これが改善されない限り、政府与党が都市部で票を失うのは確実です。
そこで
「せめて努力している姿を国民に見せたい。」
と政府は
「建設省」
を創設、建設大臣は内務大臣が兼任することとした。
その建設大臣が4年の年月をかけて作成したのが(*3)、建設用地総動員法(案)だった。
総選挙まで半年もないこの時期、国会での議論も申し訳程度で、政府与党の賛成多数で可決された。
その建設用地総動員法は、4つの大きな柱で構成されている。
順番に紹介していこう。
住宅建設許可の迅速化
ベルリンでは住宅建設地が、何もなれまいまま、数年間も放置されている。
“Bauamt”/建設局に住宅建設計画を提出するも、これが許可されるまで平均でも3年かかるからだ。
3年間も工事を始めることができない間、土地の所有者は税金を払うだけ。
結果として建設費用が増大する。
さらには建設許可が下りても、
「アパートの高さが、予定よりも10cm高くなった。」
場合、役所はアパートを取り壊して、当初の計画通りの再建設を要求する。
後からの計画変更申請は不可なのである。
こうした冗談のような「不具合」を解消すべく、住宅建設計画は迅速に許可が下り、すでに許可が下りた建設計画の変更も可能になる(筈)。
自治体の優先権の拡大
町中の貴重な建設用地が、私企業に売却されることが少なくない。
私企業が約束通り住宅を建設してくれればいいが、数年間もほったらかしになることも、少なくない。(*4)
仮に住宅建設が始まっても、投資目的の高級物件を建設されたのでは、アパート不足、家賃の高騰の解消にはならない。
そこでアパート事情が切迫している都市部では、自治体がこの空き地を優先的に買うことができるようにする。
これにより速やかに住宅建設を始めることができ、自治体は社会的弱者のための住宅(*5)を建設することで、高騰する家賃を抑えることができる。
住宅建設命令の頻繁な使用
住宅事情が厳しい地域では自治体が空き地の所有者に、
「住宅の建設命令 / Baugebot」
を出せると、法律に書き込むこととなった。
この命令により、住宅建設が加速されるという期待だ。
区分分け 建設計画案
自治体は今後、区分分けした建設計画案を立案。
この計画案の中で、住宅建設計画を優先して推し進める。(*6)
賃貸住宅の分譲住宅への転換阻止
建設用地総動員法の最大の柱がコレ、賃貸住宅の分譲住宅への転換阻止だ。
ドイツでも住宅の建設計画の際に賃貸住宅を建てるか、分譲住宅にするか、決めてから建築申請を上げる。
ドイツではその後、出来上がった賃貸住宅を、分譲住宅にするのは(基本)不可能だ。
だからアパートに住んでみて気に入ったから、
「買いたい。」
と言っても、できないことが多い。
例外はアパートを賃貸住宅として買った大家が自分で、あるいは家族がそのアパートに住む場合。
”Eigenbedarf”(自身の必要性)を理由にすれば、大家は存在している賃貸契約を解約して、自分がそこに住むことができる。
”Eigenbedarf”の悪用
「賃貸住宅を建てます。」
といい建築許可をゲット。
その後、賃貸住宅が分譲住宅に転換されると、賃貸住宅の数が減る。
住宅の数が減れば、家賃が上昇する。
これを避けるための分譲住宅への転換制限だが、法律を悪用する大家が跡を絶たない。
不動産業者が賃貸アパートを丸ごと買い取り、
「”Eigenbedarf”」
を理由に、賃貸契約を解約。
その後、改装工事を施すと、高級分譲アパートとして販売され、投資対象になっている。
転換は許可制に
そのような事を今後も許せば、まずます賃貸住宅の数が減り、家賃が上昇する。
そこで建設用地総動員法により、賃貸住宅の分譲住宅への転換には、
「自治体の許可がいる。」
とすることにした。
もっともドイツ全土でこの許可制が導入されるわけではない。
住宅状況が切迫している地域を自治体が、
「許可制区域」
と、指定した場合のみ。
おまけにこの許可制自体が、2025年12月31日に時効となる。
これでアパート不足解消?
ドイツ政府はこれまで度々、効果のない法律を作ってきた。
果たして建設用地総動員法は、効くのだろうか?
確実なことは2025年まで待って、それから判断する必要がある。
しかし現在のドイツの建設許可の状況を見ると、希望的な観測は禁物だ。
電気自動車メーカーのテスラが、ベルリン新空港の南に
「ギガ ファクトリーを建設する。」
といい、ブランデンブルク州自治は相好を崩した。
あのテスラがよりによって、仕事が少なく、失業率の高い東ドイツに工場を建てて、数千人の雇用を創設するのだから、無理もない。
ところがである。
テスラの工場の正式な建設許可は、未だに下りていない。
「2021年7月から生産をスタートする。」
と謳っていたのに。(*7)

同じ場所に建設されたベルリン新空港、完成が9年も遅れた事を忘れてはならない。
一大プロジェクトでも遅れるのに、住宅の建設申請が速やかに行くことは(法律を作っても)ない。
大事なのはコンクリート頭と呼ばれる役人の入れ替え、あるいは再教育だ。(*8)
注釈 – 建設用地総動員法
*1
“Gute-Kita-Gesetz”という、おかしな名前の法律もある。
日本にも、「一億総活躍」というおかしな名前の法令、機関が設けられています。同じです。
*2
日本政府の、「勝負の2週間」、「(コロナ感染を)リバウンドさせない。」、「1日100万人接種」の部類の政策目標です。
*3
内務大臣と兼任だったので、建設大臣は名目だけ。何もしてこなかったので、4年もかかった。
*4
土地の値上がりを狙って放置するケース、土地を買った外国の所有者から音沙汰が途切れて、自治体は土地を取り上げることもできず、放置されるケースなど、さまざま
*5
*6
区分分けした建設計画案で、何故、住宅の建設が促進されるのか、部外者には謎。
*7
テスラの工場建設の許可が未だに下りていない理由の半分は、テスラ自身にある。テスラは建設計画を出した後でも、最初の知識、経験を建築計画に取り込むので、修正に次ぐ修正。
挙句の果てには、電気自動車の組み立て工場に加えて、バッテリー製造工場も一緒に建てる計画を提出。許可が遅れるのも無理はない。
*8
ここ名古屋でも、「ワクチン接種券を持っている人がないから。」と、貴重なコロナワクチンを14人分、廃棄した。私に電話してくれれば、タクシーで直行したのに!
役人というのは、ドイツでも日本でも、考えることができない機械です。プログラムされたことしかできません。