日本で語られる「ドイツ伝説」のひとつが、「この治療は、ドイツでは国民健康保険治療で認められている。」というもの。善意に解釈すると単なる誤謬。ひどい場合には、自身で施す治療法の宣伝効果上げるため、「ドイツでは。」と主張しているケース。
日本で商品を売る際に、「ドイツ製」と書いて、品物の高い値段を正当化するのと同じ方法です。「ドイツでは。」と書かれている記事、主張にはご注意ください。ほとんどの場合で、根拠のない主張です。
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ドイツの健康保険料
さらには「ドイツでは(保険料を払っていると)診療費が無料なんです!」とまるで医療天国のように語られるが、一体、どのくらい保険料を払っているのかご存知だろうか。安い国民健康皆保険でも毎月390ユーロ、今の為替レートでも実に5万円の保険料だ。
会社勤務の場合は、会社が半額(近く)払ってくれるが、3万円+は被雇用者の負担。自営業者の場合は、全額自腹だ。そんなに高い保険料を払っていれば、診察費は被保険者にとって、多くの場合では無料だ。しかしこれは医学的な根拠が証明されている治療法に限られる。
医学的な根拠のない治療法、例えばホメオパテイーなどは、保険の対象にはならない。さらには医学的根拠があっても保険が効かない」分野がある。それが歯科治療だ。
【ドイツ医療事情】歯科医治療は高いっ!
歯科治療で国民健康皆保険で無料治療ができるのは虫歯治療くらい。虫歯を削った穴を埋める資材でさえも、一番安いアマルガンのみ健康保険が治療費を持ってくれる。オリジナルの歯の色に合わせてその他資材を使っての治療は、自腹で払う。小さな穴をプラスチックで埋めるだけで50ユーロから80ユーロもかかる。
大きな穴、裂け目をセラミックで埋めると安くても360ユーロ(4万7千円)は覚悟しておく必要がある。穴が大きすぎて、「インレイでは無理」となると、”Krone”(日本語でクラウン、すなわち王冠)が必要になる。これはまだ残っている歯を削って(神経を抜き取り)、ここにまるで王冠にようにすっぽりかぶせ物をする治療法だ。
「見栄えなんかどうでもいいです。」と言う場合は、金属製のかぶせ物になる。これであれば健康保険が治療費を持ってくれる(筈)。見栄えを考えて表面を細工(”Verblendung”)してもらうと、100ユーロほどが自腹になる。金属の感触が嫌でセラミック製のかぶせ物にすると、安い場合でも800ユーロもかかる。たかが一本で。
保険はたったの40%しかもってくれないので、480ユーロは自腹となる。このクラウン治療が無理な場合は、インプラントが必要になり、安い場合でも1500ユーロは必要で、900ユーロは自腹となる。
歯科治療は個人保険
すなわち歯科医での治療は、内科などの治療とは大きく異なり、基本的に”Privateversicherungspatient”(個人保険患者)扱いになる。わかりやすく言えば、医師が治療費を自由に決めることができるということだ。だから診療所によって値段が大きく異なる。間違っても、最初の診療所で言われた値段で治療を決定しては駄目。
必ず別の医師に見てもらい、「他の診療所ではこれだけかかると言われた。」と説明して、比較見積もりを取ろう。医師も商売なので、最初の診療所よりは安い値段を出してきます。最も効果的な方法は、医師からもらった見積もりをインターネットに上げて、他の歯科医から安い料金を募る方法だ。
業界最大手のプラットフォームでは、歯科医が日々、仕事を求めて患者からの見積もりを探しているので競争が激しく、当初の診療所で言われた値段の半額以下で済む場合もある。
セカンド オピニオン
別の医師の見積もりを取る利点は、値段の他にもある。日本で歯科医に行くと、「これはどうですか。あるいはこちらは。」とまるでデパートのように次々と治療を売りつけてくるが、これはドイツも同じ。ドイツにも悪徳医師が居て、必要もないのに歯を抜いて、インプラントを入れようとする輩もいる。
ネット上ではこうした悪徳医師にかかり、必要もないのに健康な歯を抜き取られ、役に立たないインプラント手術をされて人生を破壊された患者が助言を求めている。実際、ドイツの消費者団体が健康な歯を持つ大学生を幾つかの診療所に送って、診断させてみた。するとここはインレイが必要だとか、まるでバナナの叩き売りのように、必要のない治療を売りつけてくる歯科医で一杯だった。
「治療の必要なし。」と正しく診断した医師は、わずか1名だけ。この現状見る限り、そのような良心的な歯科医に当たる確立はかなり低い。しかし患者には、なかなか真実がわからない。そこで高価な治療を進められたら、「考えてます。」とまずはその場で決めず、必ず第二の医師の判断を仰ぐようにしよう。どんなに信用している医師でも、盲目的に信用するととってこ痛い目に遭う確立が(ドイツでは)とても高い。
歯科医治療 追加保険
運よく、良心的な値段で治療をしてくれる歯科医が見つかっても、数百ユーロ、運が悪いと数千ユーロの自己負担は避けられない。そこで万が一の場合に備えて、”Zahnzusatzversicherung”(歯科追加保険)に入ることもできる。この保険は、インレイ、クラウン、インプラントなどの高価な治療が必要になった際、費用の一部をもってくれる保険だ。
保険料は言うまでもなく、保険内容によって著しく異なる。保険料と保険内容を比較しようにも、同一の保険内容を提供している保険会社がないので比較がとても難しい。そこでまずは虫歯の予防措置(Zahnprophylaxe ツァーン プロフィラクセと読む。)も保険でカバーしてもらうか、それとも「大事になった場合」、すなわちクラウンなどが必要になった場合だけに使える保険にするか、決めよう。
Zahn-Prophylaxe 参照 : Wikipedia
簡単な歯石を取るだけなら国民健康保険がカバーしてくれるが、高度な歯石除去などは保険の対象外になる。歯科医は好んでそのような予防措置に100ユーロ、あるいはもっと高い治療費を要求しているので、これも保険に含めるとこの予防措置だけで、10ユーロ/月も保険料が上昇する。しかし毎月、予防措置に10ユーロ以上も保険料を払うなら、歯石除去を自費で行うのと変わらない。
だからこの予防措置保険は、保険会社にはおいしいが、非保険者にはあまり価値がない。そこで中には、「予防措置も保険に入ると、メガネを更新した際に補助金も出ます。」などと、歯科治療に関係のない保障を提供している場合もある。「それは嬉しい。」と思うかもしれないが、保険内容は膨らむに比例して、保険料が上昇することも忘れないように。日本では眼鏡が破格の安い値段で買える今、そのような余計な保障は必要ない。
追加保険保険料
そこで高価な歯科治療費だけに絞って歯科追加保険を比較してみると、10ユーロ/月程度から50ユーロ/月と結構な差がある。言うまでも無く、保険料が高いほど、「いざ、鎌倉!」となった際の、自己負担率が低い。10ユーロ程度の保険では30%の治療費を持ってくれる。健康保険が50%持ってくれるので、追加保険が30%持ってくれば、自腹の支払は20%で済む。
これならお財布はそれほど傷まない。そこで30%程度保険が持ってくれるという条件の保険を探し、契約内容を読んでみると、”70 % der Gesamtkosten inkl. GKV-Vorleistung”などと書かれており、まるで暗号だ。”GKV-Vorleistung”など、一体、どれだけの外国人が理解できるだろう。
“GKV-Vorleistung”は、「健康保険が持ってくれる率」と言う意味で、合計70%なので、この保険は30%だけ支払うという意味だ。もっともその後に、「最初の1年は180ユーロまでしか保障されない。」とある。2年目で360ユーロまで。4年後でやっと上限は720ユーロまでとある。最初の2年の保障金額が低く、この期間中にクラウンが必要になったらあまり役に立たない。
保険料も低いので仕方ないか?もう少し保障金額が高い保険だと、保障金額の上限は最初の1年で400ユーロ、2年目で800ユーロまで。これだけあればクラウンが必要になっても、上限を心配しなくて済みそうだ。ただし保険料は10ユーロでは済ます、16ユーロ。
歯科加保険加入
ドイツ滞在年数の短い方は往々にして、「歯が痛くなってから、歯科追加保険に入ればいいや。」と考える。これは大きな間違い。保険屋は保険料を払ったものの、保険を使用しない人の保険料で会社を運営している。保険を使うことがわかっている人に15ユーロの保険料で、1500ユーロの治療を提供したのでは、全くの赤字になってしまう。
これを避けるため、歯科追加保険はまだ歯に問題なく、かつ、欠けている歯がない人だけ加入できます。「オンラインだから、黙って加入すればわからない。」と思ったら、甘い。保険加入後、翌月にクラウンを入れようものなら、保険屋の調査が入り、往々にして保険料の支払いを拒否される。
あるいは最初の3ヶ月は待機期間として、保険に加入しても保険が使えない保険もあります。ドイツに長く住む方は、一番安い保険でいいから、早めに歯科追加保険に加入しておきましょう。まだ30代なら保険料はさらに安く7ユーロ/月で済みます。