ドイツの政治 ドイツの最新情報 社会問題 タブー

政府 Wohngemeinnützigkeit 再導入を閣議決定!

投稿日:

Wohngemeinnützigkeit 再導入を閣議決定!何ソレ?

信号政権が掲げた新住宅建造計画。

これが全く

「お話にならない。」

成果で、大阪万博が大成功に見える程。

そこでドイツ政府は来年の総選挙を見据えて、

”Wohngemeinnützigkeit”

の再導入を閣議決定した。

「さっぱりわからない!」

という貴兄の為に、詳しく説明いたします。

切迫する住宅事情

そもそも私が

「まだ」

日本に住んでいるのは、

「ドイツ飯は不味い。」

からではなく、ドイツに帰っても住む場所がないから。

まだ2年前は、

「あんなに高い家賃なんて、絶対に払わない!」

だったが、今ではそもそも空き部屋がない。

こちらはベルリンの空き部屋の掲載に押し寄せた、人の波。

こんな殺風景な部屋に250人も押し寄せた。

今、ドイツの都市部には部屋(アパート)が全く空いていないのだ。

2年前に帰っておけば良かった、、。

信号政権のアパート増築計画

日本と違いドイツでは憲法にて

“Jeder Mensch hat das Recht auf angemessenen Wohnraum.”

と謳っている。

原文に忠実に翻訳すると、

「国民は適切な居住空間を得る権利を有する。」

となる。

すなわち!

「住む権利」

は国民の

「基本権利」

なのである。

これが足らないなら、増やすのは政府の義務である。

そこで政府は

「毎年、40万戸を新たに建設する。」

と指針を発表した。

 

そのドイツ政府の発表によると、2023年に新設されたのは24万戸。

 

ざっと目標の半分。

これでは日本維新の会がごり押しした

「大阪万博」

が大成功に見えてしまう程、情けない成果だ。

信号政権のアパート増築計画が失敗した理由

では何故、信号政権のアパート増築計画は華々しく失敗したのだろう?

その原因は主に

  • インフレによる建築資材の高騰
  • 金利の上昇
  • 多すぎる規則
  • ドイツ特有の官僚の仕事の遅さ

の4つ。

上の2つはわざわざ解説しなくても誰でもわかるので、説明は割愛。

解説が必要なのは下の2つ。

これをわかりやすく説明しよう。

ちょうどこれにぴったりの例がある。

日本と米国でTSCMの工場の建設がほぼ同じ時期に始まった。

正確を期すなら、米国の建設開始が数か月早やかった。

熊本では今年の2月、建設工事が完成した。

米国では未だに建設中。

いつも

「日本は凄い!」

というテーマを探しているテレビ局だが、こういう点を全く報道しない。

日本の建設工事の速さは世界一。

人手不足にも拘わらず。

ドイツの建設事情

これがドイツなら、建築許可が下りるのに平均で1年半もかかる。

許可が下りるまで2年なんてザラ。

その間、建築工事用に買収した土地は、雑草が生え放題。

何もできない。

アパートを建設する会社にとって、完成が1年も遅れると大赤字だ。

その原因は建設許可に必要な書類(規則)の多さ。

もしベルリンで建設許可が下りたアパートを、道路を隔てたお隣のブランデンブルク州に建てるには申請をやり直し。

そして官僚は仕事が遅い。

簡単な送金(返金)に1ヶ月かかる。

学校で成績が悪くて勤め先がなかった人材を、役所が吸収しているとしか思えない。

だからドイツでは遅遅として建設が始まらず、アパートの完成まで4年もかかる。

その

“Paradebeispiel”(絶好の見本)

が、シュトットガルト中央駅の地下移設工事。

2010年に工事が始まったが、14年経ってもまだ終わってない。

毎年、完成予定時期が変更されて、今日の時点では2026年を完成目標にしている。

実に16年の工事期間だ。

たかが駅をひとつ作るのに。

これがドイツの建設現状だ。

選挙対策の必要性

やっと建築許可が下りたアパートの建築工事も、建築資材の高騰で止まった。

2024年度も新築アパートの建設数が政府の目標に届かないのは、誰かに指定されるまでもなかった。

しかしドイツでは

「住む権利」

は国民の基本権。

「できませんでした。」

では済まない。

おまけに2025年は総選挙。

ただでもけちょんけちょんの世論の信号政権が、来る総選挙で大敗を喫するのは

「火を見るよりも明らか」

だった。

そこで信号政権は総選挙1年前になって

「選挙対策」

を実施することにした。

政府 Wohngemeinnützigkeit 再導入を閣議決定!

今回、政府が導入することにしたのは、

“Wohngemeinnützigkeit”

である。

無理して日本語に直すと

「アパート非営利(制度)」

となる。

わかりやすく言うと、

「アパートを建てるデベロッパーには税を優遇します。」

というのもの。

政府案ではシングル用のアパートで年間1000ユーロ、家族用のアパートで年間2000ユーロの優遇措置を受けれるという。

早い話が、

「政府が課す固定資産税などをチャラにするから、アパートを建てて頂戴。」

という政策だ。

このアパート非営利(制度)を使って建てたアパートを借りられるのは

“Otto-Normal-Verbraucher”(一般消費者)

だけ。

お金持ちはその権利がない。

具体的に言うと

「収入が生活保護額の5倍までの人」

だという。

今の生活保護額で言えば、手取りが2815ユーロ/月までの人。

国民の60%がこれに相当するので、この制度で

「住宅難は解決される(と思う)。」

と政府。

Wohngemeinnützigkeit 再導入?

ここまで読んで、

「再導入って?」

と思われた方。

実はこの案は産業革命期の19世紀に誕生しました。

当時は、

「産めよ、増やせよ!」

の時代だったので、住む場所がたらなかったんです。

1920年代、50年代、70年代にもこの政策が復活して成果を上げてきました。

でも東ドイツを吸収後、この政策は廃止されます。

メルケル政権下、左翼政党が

「住む場所が全く足りていない。アパート非営利(制度)を再導入せよ!」

と要求しますが、メルケル首相は拒否。

皆まで言えば当時、大連合を組んでいた社会民主党もメルケル首相と一緒にこれを却下した。

こうしてアパート不足が毎年深刻化、遂に

「都市部でアパートが全く足りない。」

という危機的な状況に。

現行の信号政権もすでに2021年に

「アパート非営利(制度)を再導入する。」

と合意していたのに3年間、指をくわえてみていた。

その挙句、人気低下で

「尻に火が付いた」

社会民主党政権がアパート非営利(制度)の復活を決定、

「国民の皆さんに嬉しいニュースがある。」

と社会民主党の建設大臣が言うのだから、政治家は厚顔無恥の二枚舌。

Wohngemeinnützigkeit いつから?

過去、実績がある政策ですがあくまでも閣議決定だけ。

法案のたたき台は出来上がっているので、2024年中に国会で議決されたとしよう。

問題はここから。

上述の通りドイツの官僚は仕事が亀よりも遅い。

アパート非営利(制度)で建てられた最初のアパートが出来るのは、2027年。

まだ3年も先の話である。

もし政府が

「今、建設中のアパートにも適応できる。」

とすれば話は別。

この制度がうまく機能したと仮定しても、都市部の部屋不足が解消されるのはいずれにしても5年後。

これでは当分、ドイツに帰れそうにない。

-ドイツの政治, ドイツの最新情報, 社会問題 タブー

執筆者:

nishi

comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

アーカイブ