厚生する日が来るのか?
「ドイツの銀行。」と聞かれて、誰もが最初に思い浮かべるのは、ドイツ銀行。日本の皆さんが想像するのは、何故かいいイメージだ。ドイツでは(欧米では)その名声は地に落ちており、”Skandal Bank”(スキャンダル銀行)が、代名詞になっている。
地に落ちているのは、名声だけではない。2014年から毎年、赤字を出しており、株価は毎年、最安値を更新。大株主がこれを黙ってみているわけもなく、株主側からの圧力で、人事異動を余儀なくされた。
この記事の目次
ドイツ銀行に課された過去最高額の罰金
2007/8年の金融危機の引き金になった、サプライム危機を引き起こしたという訴状を受けたドイツ銀行。長らく米国の検察と交渉をしてきたが、2016年、外国の銀行としては歴史に残る過去最高額の罰金額、140億ドルの罰金を米国で課された。しかしあまりの高額の罰金で、ドイツ銀行が支払い不能になると噂が発生した。すると株価はかっての120ユーロ(2007年)から、8ユーロまで下落した。
ドイツ銀行が加担して引き起こされた金融危機の際、銀行がバタバタと倒産していた。この銀行の頭取は当時、”Ich schäme mich, eine Staashilfe zu beantragen.”(国の財政支援を要請するなど恥を知れ。)と豪語、他の銀行をあざ笑った。
10年後、そのドイツ銀行がこの財政支援を真面目に考慮する羽目になった。ドイツ銀行は金融危機から5回目になる株式の増資でこの危機を乗り切ったが、この罰金で銀行が厚生するかと思ったら大きな勘違い。
8000件を超える訴訟
未だに数多くの罰金を払い続けており、いくら稼いでも罰金の支払いに追いつかないのが現状だ。一度、”Deutsche Bank Strafe”で検索してもらいたい。数10ページに渡ってドイツ銀行に課された罰金が出てくる。その数は8000件を超える。こんなに罰金の多い銀行と言えば、中国(英国に本店を置く)のスキャンダル銀行HSBCくらいだ。
ドイツ銀行の信用をがた落ちさせたのは、この銀行を信用してやってきた客に、「この証券を買えば儲かりますよ。」と銀行が発行する証券を買わせると、この証券が紙屑になるように銀行の総力を挙げて賭けたこと。証券とは早い話が、賭け。客が勝ったのでは銀行は損をする。そこで客がお金をなくすように、その逆に賭けるという方法を平気で使用した。それも全支店で。これでは信用をなくして客を失うものも無理はない。
2018年 新たな危機
2018年、ドイツ銀行は新たな危機に見舞われた。その発端は2017年の総決算で、3年連続で赤字を計上したことにある。同銀行は7億ユーロもの赤字を出しておきながら、銀行で勤めるマネージャーには22億ユーロのボーナスを払う決定をした。そして銀行の本当の持ち主である株主には、11セントという雀の涙の配当金で我慢してもらおうとした。
これがドイツ銀行の株主、とりわけ大株主を憤慨させた。株主に払う配当金がないのかわかるが、だったら何故、高額のボーナスを赤字を出したマネージャーに払うのか。この大株主が銀行の上層部に抗議したのも無理はない。又、3年間赤字を出しているのに、22億ユーロものボーナスは何処から捻出するのか。
銀行はその資産を売却することで払えると主張したが、アナリストはこれを信用せず、同銀行の株を売却するように進めた。こうしてドイツ銀行の将来の雲行きがまたしても怪しくなり、ドイツ銀行の株価がまたしても崩れ始めた。2017年に17ユーロを突破した株価が、30%も下落、13ユーロを割ってしまった。
ドイツ銀行役員会議
間に悪いことに、ドイツ銀行はフランクフルトの郊外にあるタウヌスの高級ホテルで役員会議を開いていた。この会議で役員の意見がぶつかり合いデジタル部門の役員が、「こんなにひどい会社で働いたこととはない。」と叫ぶと、「じゃ、何でまだここに居るんだ。」と大声で怒鳴りあった。
参照元 : Spiegel Online
これが外部に漏れると、ドイツ銀行の株はさらに落下、今度は12ユーロを割ってしまった。ここで間の悪いことに、「ドイツ銀行は新しい頭取を探している。」と新聞社がスッパ抜いた。米国の投資銀行、Goldmansacksのマネージャーにドイツ銀行の頭取の椅子を差し出したが、断られたという。これが株価をさらに下げ、11ユーロを割り込んだ。去年の最高時から、実に40%も下落したことになる。
ドイツ銀行 4年連続赤字で頭取 更迭される
ドイツ銀行を大掃除する役目をおおせつかって頭取に2年前に就任していたクレイン氏は、自分の知らないところで銀行の会長が後任者を探していることに憤慨したに違いない。同氏は銀行員に向けて、「私はドイツ銀行の厚生に今後も全力を尽くす。」と声明を出し、このまま黙ってひきさがる用意がない事を示した。
ドイツ銀行は5月に株主総会を控えている。この会議までに新しい頭取を見つけて、大株主からの支援を取り付けようとした会長だったが、クレイン氏を”abservieren”(首にする)すべく後継者を探しめると、今度は別の大株主がクレイン氏の続投を要求してきた。
会長は自分の会長の椅子だけでも救うべく、双方の大株主が満足する後継者を探し始めた。複数の大手銀行のマネージャーの名前がニュースで後継者としてあがったが、ドイツ銀行の頭取になりたいというマネージャーは居なかった。仮にそんな奇特な人がいても、大株主の賛同を得られなかった。
新頭取就任
「クレイン氏の続投か。」と思われた3月8日、ドイツ銀行は緊急の取締役員会議を招集した。ここでクレイン氏の運命が決まることは外部の人間にもわかったが、一体、誰が後継者として扱われているのか、これは不明だった。この会議はかなり難航した。メデイアの報道では、会長は投資銀行部門の責任者をドイツ銀行の頭取に推したが、株主の合意を得られなかった。
無理押しすると5月の株主総会で信認をもらえない可能性があるので、会長は妥協した。もう一人の候補は、ドイツ銀行で20数年前に見習いを始め、個人客部門で頭角を発揮、副頭取まで出世していたSewing氏だった。この候補に株主が了解したので、ゼーウィング氏がその場でドイツ銀行の頭取に就任した。
ドイツ銀行の頭取は過去16年、常に投資部門出身の銀行員が就任していたので、同氏の頭取就任を予期していた人は少なく、周囲を驚かせた。株式市場はこのドイツ銀行の16年ぶりの方向転換を歓迎、月曜日の午前中には同銀行の株価は4%上昇した。(その後、下落して上昇枠は1%に留まった。)
毒を盛った杯
新しい頭取が就任、株価は下落を止めたが、アナリストは同氏がドイツ銀行を厚生できる可能性は低いと否定的な見方をしている。工事現場が多過ぎる上、客の信用を失い売り上げが低迷している。ドイツ銀行の看板である投資部門は伝統的にドイツ銀行の稼ぎ主だったが、今では赤字の源泉と化している。しかし、これを縮小するには銀行内で大きな抵抗がある。
新頭取が大きな改革を実行するには、取締役会、株主、そして従業員の賛成が欠かせないが、取締役会は内部紛争にあけくれて、株主は3年連続の赤字に不満、従業員は同銀行のイメージダウンに大いに不満で士気が地に落ちている。あるアナリストはゼーウィング氏は、”vergiftete Kelch”(毒を盛った杯)を受け継いだと描写していたが、これ以上にぴったり状況を描写する言葉が見当たらない。
ドイツ銀行は3年連続で赤字を出して、背水の陣。これ以上退却できない。新頭取がドイツ銀行の厚生に失敗すると、ドイツ銀行は解体されて売却されることになるかもしれない。そうそう、首になったクレイン頭取だが、示談金として9百万ユーロが支払われるので、この金で豪華な余生を送れるので心配は不要だ。
編集後記
新頭取のゼーヴィング氏は頭取に就任後、直ちに改革を始めた。手始めにニューヨークの国債取引部門を縮小した。人員だけではなく、金のかかる事務所を閉鎖、家賃の安い場所に移した。株主総会では米国支店を大幅に縮小、欧州内の業務に重点を移すと方針転換を発表した。同時にコストを下げるため、7000人を解雇すると声明を上げると、ドイツ銀行の株は上昇しないで落下を始めた。
それほどまでに投資家の信用を失っているのだ。しまいには米国の銀行監査機関が同銀行を「倒産の危険がある銀行」のリストに載せたと報道されると、株価は落下を加速。いよいよ9ユーロまで落下した。アナリストは「ドイツ銀行の独自の厚生は不可能で、解体されるか、他の銀行と合併するしか道はない。」と主張している。