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EU 内燃エンジン車の2035年廃止を決定!

投稿日:2023年4月26日 更新日:

EU 内燃エンジン車の2035年廃止を決定!

2023年4月、EU議会で内燃エンジン車の2035年廃止が決まった。

すると日本のメデイアはこぞって、

「EUは内燃エンジン車の存続を決定した!」

と、わけのわからない報道。

お陰で誤解をしている方も多いだろうから、今回はこの内燃エンジン車の2035年廃止について取り上げます。

そもそもなんで内燃エンジン廃止?

なんでそもそも廃止するん?

日本人はからっきし環境問題に感心がない。

だから

「そもそもなんで内燃エンジン廃止するの?」

と思われたに違いない。

欧州では地球温暖化は人類の存続にかかわる大きな問題として、子供から大人まで大きな関心を持っている。

地球温暖化を少しでも遅らせるため、化石エネルギーを消費する移動手段は廃止しなければならない!

そう

“must”

です。

しかし1990年と比較して、二酸化炭素の排出量が全く減っていない。

 

日本車追放対策?

これを聞いた日本人は、

「ハイブリットがあるじゃん!あれで十分!」

「EUの内燃エンジン追放は、日本車追放対策に過ぎない!」

と叫んでいる。

これがひどい被害妄想。

こちらにハイブリッド車の二酸化炭素排出量の表があります。

そこにある通り、ハイブリッド車では日本人が思っているほど、二酸化炭素排出量の削減にはならない。

そんな車の販売を続けると、EUが目標に掲げた二酸化炭素削減値を達成できない。

だから内燃エンジン車の廃止という措置が必要になったわけです。

大体、内燃エンジン車を廃止することにより一番大きなダメージをくらうのは、日本車ではなくドイツの車メーカーです。

なのにこれを

「日本車対策だ!」

と考えるのは、視野が極度に狭い産業右翼思想です。

ドイツの翻意

内燃エンジン車の廃止が決まっても、車産業の(少)ない国にはそれほど大きな影響はない。

問題はドイツ。

日本同様に車産業はドイツの基幹産業。

もう10年前から電気自動車へのシフトが始まっているが、雇用の大部分は(まだ)内燃エンジン車に依存している。

これがすべて電気自動車になると、電気自動車は圧倒的に部品の数が少なくて済むので、人員の解雇は避けられない。

だからドイツ政府は

  1. できるだけ内燃エンジン車の廃止時期を遅らせ
  2. その間に定年退職により自然に人員を削減

して、産業構造の転換を図りたい。

その一方で、大きな車産業を持たない国は、一刻も早く内燃エンジンを廃止したい。

そこでEUレベルで長く交渉を続けてきて出た妥協案が、

「2035年の内燃エンジン車の廃止」

だった。

調整がやっと終わったので、

「EU議会で議決して法律にしましょう。」

という段階になってドイツの交通大臣が、

「賛成できない。」

と言い出した。

“E-Fuels” とは?

では何故、ドイツの交通大臣は長年に渡る交渉の積み重ねによる合意を破棄しようとするのだろう。

それは”E-Fuel”(合成燃料)にあった。

合成燃料は水素に二酸化炭素を加えて製造する。

その際、

「原料」

となる水素は風力発電などで得た電気を用いて、水を分解して取得する。

これに大気に存在する二酸化炭素を加えるので、燃焼の際に発生する二酸化炭素は生成の際に空気から抽出した分量だけ。

だから

「合成燃料を燃焼する内燃エンジン車は環境にやさしいので、これを廃止するのはおかしい。」

と交通大臣は主張した。

これには日本の産業界も大賛成している。

まやかしの主張

が、この主張は

「まやかしの主張」

である。

風力発電で得た電気をそのまま電気自動車に使用すると、80%以上のエネルギーが駆動力として利用できる。

エネルギー効率がこれ以上にいい駆動方法はない。

その一方で、風力発電で得た電気でわざわざ水を分解して合成燃料を生成、これを燃焼させる方法では動力になるまでの過程で熱などの

「不要なエネルギー」

が発生する。

結果、エネルギー効率は20%にも満たない。

エネルギー効率が悪すぎる。

天然ガスをそのまま車の駆動に利用すればいいのに、わざわざ大量の二酸化炭素を放出して天然ガスから水素を抽出して水素自動車の燃料に利用、

「水素は環境に優しい!」

と主張する日本の環境対策と同じく、無意味。

加えて価格上の問題もある。

現時点では研究室で精製しているので、精製コストがリッター当たり4~5ユーロもする。

税抜き価格です。

将来、大量生産が可能になり、合成燃料の製造費用が1ユーロ/リットルまで落とせたとしよう。

しかしまさか

「儲けは要りません!」

というわけにはいかない。

合成燃料を生成する企業、これを販売する小売店の利益、さらに税金が加わると、結局、3ユーロ/リットルになってしまう。

リットル450円では誰も給油しない。

もっと大きな問題がある。

それは供給量。

そもそも

「グリーンな水素」

が十分に存在していない。

水素は今後、産業の脱二酸化炭素、そして暖房の脱二酸化炭素で大量に必要になる。

その分の水素でさえ十分にないのに、合成燃料に回せる水素がない。

だからドイツを代表する研究所である

“Frauenhofer-Institut”

の学者が

「合成燃料はガソリンの代わりにはなり得ない。」

と研究結果を出している。

低迷するFDP

という事実があるのに、交通大臣が土壇場で

「ごねている」

には別の理由がある。

それは低迷する世論調査の支持率。

地方選挙では相次いで

「5%の壁」

を突破できず、地方議会から消えている。

この窮地でFDPがいつも使う手段が、

「法案に反対して注目を浴びる。」

という古典的な方法だ。

車産業で働いており

「電気自動車が主流になったら解雇される(かも)。」

という不安におびえる市民の票を獲得しようとしている。

実に身勝手な選挙戦略であり、これが原因で支持率を落としているのが、党首脳部にはわかってない。

EU 内燃エンジン車の2035年廃止を決定!

とは言え、EUは

「全員一致の原則」

を取り入れているので、ドイツなしでは内燃エンジン車の廃止を決議できない。

そこで

「合成燃料を検知する装置を備えた内燃エンジン車は除外する。」

という妥協案で、2035年の内燃エンジン車廃止で合意した。

「どのみち合成燃料(車)は普及しない。」

と皆わかっているから、この妥協が可能だった。

すると日本のメデイアは一斉に、

「EUは内燃エンジン車の2035年以降の販売容認に方向転換した!」

と偏った報道。

大手の報道機関がこの手の報道をするのだから、

「残りは推して知るべし」

である。

ハイブリッド車が禁止されたのが、そんなに悔しかったの?

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執筆者:

nishi

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