ルフトハンザの独占を崩せるか?
去年倒産したドイツ第二の航空会社、エア ベルリンの余波が未だに収まっていない。エア ベルリンが会社更生法の申請をすると、「待ってました。」とばかりにドイツ政府は、エアベルリンに1億5千万ユーロのクレジットを与えた。
しかし国が多額の税金を私企業に投入するには、まずは会計会社に会社の査定を依頼することが手順になっている。その鑑定で補助金を返せる財産がある、クレジットにより速やかに会社が厚生されるなどの効果が期待できる場合、政府はそのような支援を許可する。
当時のドイツ政府はこのマニュアル通りに会計会社に査定を依頼したのが、その鑑定結果が出る3日前に政府がクレジットを与える決定したことがばれてしまった。
参照元 : rbb 24
すなわちドイツ政府は、鑑定される前に決定した財政支援を正当化するために、鑑定の依頼を出したわけだ。それでも払った1億5千万ユーロが回収できたならよいが、大半は回収できない不良債権と化した。ドイツ政府は大きな非難にさらされているが、当時の経済大臣がもう入れ替わっているため、辞職を要求することができない。
この記事の目次
永遠のライバル ライアン エアー vs. ルフトハンザ
エア ベルリンの解体、買収に興味をあるそぶりを見せていたが、「最初からルフトハンザに売却されることが(裏で)決まっているのに、買取オファーを出すだけ無駄。」とドイツ政府とライバルのルフトハンザを非難した。そして最後にはライアンエアーの社長、オレイリー氏の言うとおり、エアベルリンの大部分はルフトハンザに買収された。
そのライアン エアーだが、ドイツの空の玄関口、フランクフルト空港は使用してない。空港の使用料が高いためだ。ところがこの航空会社の予約をすると”Frankfurt-Hahn”という空港が出くる。この空港はフランクフルト空港から西に125Kmも離れた場所にあるかっての米空軍の飛行場だ。不便な場所にあるので利用客が少ない万年赤字空港だ。
フランクフルト ハーン空港
フランクフルトとは関係ないが、有名なフランクフルトの名前を借りて、「フランクフルト ハーン空港」と呼んでいる。この空港を運営しているのが、空港のある”Rheinland-Pfalz”州。離発着する便を増やすべく、この空港に飛んでくれる航空会社には空港使用料をデイスカウントしている。これが理由で、ライアンエアーはここから飛行機を飛ばしていた。
とは言っても、フランクフルト空港を使用したのは本音。しかしここから飛ぶと空港使用料が高くて、儲からない。ところがである。フランクフルト空港も私企業だ。ケルン空港、デユッセルドルフ空港、そしてハーン空港など、周囲のライバル空港は格安航空会社を受け入れて、乗客を増やしている。このまま正規料金一本のみでは、客を他の空港に取られてしまうことを恐れた。
ちょうどこの場面でライアン エアーの社長、オレイリー氏がフランクフルト空港を割引価格で利用できないかと交渉を持ちかけてきた。フランクフルト空港にとっては濡れ手に粟、フランクフルト空港の端っこに、格安航空会社専用のターミナルを設けて、割引価格で空港を利用できる契約を結んでしまった。
ルフトハンザの反抗
これに怒ったのがルフトハンザ。お膝元にライバルのライアン エアーを離発着させる、それも割引価格でなど許されるものではない。ルフトハンザは、「ルフトハンザの空港使用料金も同様に割り引きせよ。」とフランクフルト空港に要求。最後はフランクフルト空港がルフトハンザに当初は3年間に限って、割り引きを提供することで同意に達した。
参照元 : NTV
これにより、本来ならフランクフルトに離発着する便のチケットは安くなる筈だが、値段は変わらなかった。安くなった分、ルフトハンザはチケット代金を上昇させたからだ。
ドイツは欧州で最大の航空市場。ここにスロット(離発着権)を確保することは、航空会社の至上課題。そこでエア ベルリンの倒産時には、同社の唯一の財産であるこのスロットを買収すべく、各社がオファーを出した。これを許すとルフトハンザの独占が脅かされるので、ルフトハンザはあらゆる手段を用いてこれに対抗。政府を味方につけると、エア ベルリンのスロットを独占買収した。
ニキ
もっともオーストリアのチャーター航空会社、ニキだけはうまくいかなかった。寡占局がこれをルフトハンザに売却することに難色を示したので、ルフトハンザは儲けを出していた同社を倒産させた。倒産したニキを買収したのが、同社の創設者のニキ ラウダ氏だった。
ラウダ氏は買収した航空会社を”Laudamotion”と改名、2018年3月からオペレーションを開始した。ところがわずか数日後、ルフトハンザの永遠のライバルであるライアンエアーがラウダモーション航空の株式、25%を買収したと発表した。
参照元 : Spiegel Online
それだけではない。EU寡占局が許可を出せば、ライアンエアーがラウダモーションの株、75%を買収して事実上、ライアンエアーの子会社にするとオレイリー氏は誇らかに発表した。だったら数ヶ月前、ニキの買収の際に買収オファーを出せばよかったのだが、オレイリー氏は競合で勝てる見込みが低いと冷静に判断。
さらにはライアンエアーがオファーを出すと、競売になり値段が上昇する。そこで買収のオファーを出さず、ラウダ氏に買収させておいてから、ラウダ氏から航空会社を買い取るという妙案を思いついた。
当然、「ラウダはライアンエアーの操り人形(Strohmann)じゃないのか?」という非難もあがった。ラウダ氏がニキを買収する前からオレイリー氏と組んでいたのか、これを立証することは不可能なので、両氏は満面に笑みをうかべてこれを否定した。
ルフトハンザがドイツ政府の1億5000ユーロのクレジットを利用して、ただ同然でエアベルリンのスロットを買収したことを考えれば、仮にそのような話し合いがあったにせよ、納税者には被害がないので文句をつける理由はない。
この記者会見でオレイリー氏は、「オーストリア航空はルフトハンザが100%株式を所有する子会社だが、ラウダモーションは唯一のオーストリアの航空会社だ。」とルフトハンザへの攻撃も忘れなかった。ルフトハンザは苦々しい思いで、この記者会見を眺めていたに違いない。
ラウダモーションは今後、ドイツへの航空便を増やすそうだ。これにより(例えば)デユッセルドルフーウィーンーアジアへのドル箱路線への参入が可能になる。ライアンエアーの参入によりルフトハンザの寡占が崩れてチケットが安くなれば、消費者にとってこれ以上に嬉しいことはない。
編集後記
2017年7月、EU委員会はライアンエアーがラウダモーションの75%を買収することを許可した。ドイツ、スイス、オーストトリアの空はルフトハンザの独占市場だっただけに、この判断は予想されたいた。
参照元 : Handelsblatt
予想していなかったのは、 ラウダモーションの管理体制。ラウダ氏が同社の燃料価格上昇を抑えるための対策、ドル高騰に備えての為替対策もしてない事を買収してから発覚。ライアンエアーは大金を払ってこの対策を迫られた。