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髪が本当に生える薬 Finasterid – 重大な副作用

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髪は生えたが、、。

ドイツでも脱毛”Haarausfall”は、男性の大きな悩みだ。脱毛が治るという文句のシャンプー、塗り薬、飲み薬まで、その種類はさまざま。これら脱毛対策は、日本で大金を投じて宣伝されているすっぽん、ニンニク、しじみなどの健康食品と同じで、ほとんど効き目がない。

しかし脱毛で悩んでいる消費者は一途の望みを託して、この高い商品を買う。そして数か月から1年試した後に、「やっぱり効かない。」と腹立ちと「騙された!」というがっかりした気分で使用をやめる。

商品の販売元はそんなことは百も承知。日本のテレビ宣伝では、「〇〇な感じがする。」という曖昧な表現を使用している。あくまでも個人の「感じ」であって、効き目があると謳っているわけでない。

ドイツでは消費者から「効かない。」と訴えられても裁判で勝てるように、発毛剤には巧妙に製品の効果を謳っている。パッケージには、「髪の発育を刺激する。」と書かれている。ややっこしいが、「髪の発育を刺激する。」と「髪が生える。」とは別物なのだ。

そんな怪しげな発育薬が多い中、臨床試験でも認められた髪が本当に生える薬品が登場した。

髪が本当に生える薬 Finasterid

その薬は、Propecia、 Finapil、あるいは Finasterid-ratiopharm という名前で、複数の製薬会社が販売している。ドイツでは処方箋が必要な薬品だ。肝心の髪の発育を促す成分は、フィナステリード / “Finasterid”で、一種の合成ホルモンだ。

この薬は男性の機能障害、夜間の頻尿、痛みを伴う放尿などの症状で処方されてきた。ところがこの薬を飲んだ男性から、「髪が生えてきた!」という報告があり、製薬会社は発毛剤として薬品の販売許可を申請した。

ドイツでは新薬の販売を検査する国の機関、”BfArM”/ Bundesinstitut für Arzneimittel und Medizinprodukte がある。この機関が、「確かに髪が生えてくる!」とその効き目を認定した。まさにお墨付きの発毛剤だ!

お陰でこの薬はよく売れた。中には偽物まで出てくるほどのヒット商品となったが、わざわざ偽物をネットで買う必要はない。皮膚科、泌尿器科の診療所に行き、「フィナステリードを処方してくれ。」と言えば、処方箋収入になる医師は喜んでこの薬を処方する。国が発毛薬品として認可している薬だ。何処に処方を断る理由があるだろう。

重大な副作用 – どっちが大事?

ところがこの薬を服用した男性が、勃起障害、うつ病、体重増加、集中力の欠落などの重度の副作用を訴え始めた。医薬品の販売元は、「そのような副作用は確認されていない。仮に副作用が出ても、服用を止めれば副作用も消える。」と、これを頭から否定した。

しかし200日以上この薬を服用した男性は、髪は生えたが、勃起障害、うつ病、集中力の欠落に悩まされ、薬の服用をやめても一向に副作用が消えなかった。服用期間が短い場合は、服用を止めれば数か月後に副作用が消えた例も報告されたが、半年以上も服用していると一生障害に悩まされる危険がある。そしてやっと髪が生えてきた男性は、なかなか薬の服用をやめれず、往々にして副作用が残ることになった。

ドイツで薬品を購入すると、”Beipacktzettel”(薬の服用説明書)が必ずついてくる。ここには薬の成分、服用の量、頻度に加えて、副作用も明記する義務がある。ところがフィナステリードの服用説明書には、勃起障害、うつ病、体重増加、集中力の欠落などの副作用の記述が欠けていた。

後遺症に悩まされる男性は弁護士事務に相談、ドイツ全土で薬の販売元に対して損害賠償訴訟が始まった。

参照元 : WDR

その後、国の薬品認可機関”BfArM”は臨床実験でこの副作用を確認、販売元にこれを通告した。

2018年になると”BfArM”は高い危険性を示す「赤紙」を出して、この薬の副作用を警告する事態にまで発展した。

参照元 : Spiegel

弁護士事務所大忙し!

ドイツでも弁護士は安くないが、日本に比べれば、費用は半分以下。おまけに、「勝訴したときの慰謝料の3割でいい。負けたらただ。」と実に話がわかる。そこで副作用に悩む男性が次々に弁護士事務所を訪問すると、弁護士事務所の間で一種の、「黄金フィーバー」が起こった。日本の過払い金訴訟みたいなものだ。

薬の販売元は、副作用を薬の服用説明書に書いていなかった。そして薬品認可機関”BfArM”が臨床実験で副作用を実証済みとなれば、余程間抜けな訴訟手続きを取らない限り、訴訟は勝ったも同然だ。普段なら薬の副作用を証明するために、時間と金のかかる”Gutachten”(鑑定書)を作成する必要があるが、国がすでにこれをやっているのでその必要もない。

弁護士事務所はそのホームページで、「フィナステリード訴訟お受けします。」と掲載、被害に遭っている患者を探している。

参照元 : Kanzlei Heynemann

もし薬を服用している方がいれば、直ちに服用を辞めよう。例え髪が生えてきても、肝心要の機能が役に立たなければ、意味がない。重大な副作用を一生抱え込むほどの価値はない。もし服用している場合は、どのくらいの期間薬を服用していたか書き留めておこう。薬の領収書があれば、購入(服用)を証明できるのでさらに良し。

副作用が消えないようであれば、医学分野専門の弁護士事務所か、お近くの消費者センターに相談に行ってください。被害者が多いと、最近導入された見本裁判制度が採用されることになるかもしれません。

参照元 : ドイツの達人になる

ピルを保険で処方して欲しい

ドイツに留学される方から、「ピルを保険で処方して欲しい。」というお問い合わせをいただきます。留学保険は渡航先での事故、病気を保証するものです。ピルは病気の薬ではないので、保険は効きません。

すると、「ピルは避妊薬以外の目的で服用します。」とのこと。一部の女性が、「ピルを飲むとお肌がつるつる。」と無責任なコメントをしたのがきっかけで、美肌効果を期待してピルを飲む女性まで。その場合でも、美肌効果は病気ではないので、保険は効きません。

さらには美肌効果を謳われた避妊薬を飲んだ若い女性が死亡して、相次いで訴訟に発展しています。薬は必要もないのに、そもそもの目的と違うのに、飲むもんじゃありません。

参照元 : Spiegel

-ドイツの達人になる, 医療、保険

執筆者:

nishi

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