ドイツの国会議員の不祥事 – ケジメの付け方
この記事の目次
建前社会と本音社会の違い
日本は建前社会。
知事が公用車を私用で使用しただけで、
「辞任しろ。」
と言われている。
本音社会のドイツでは、
「私用で使用しました。」
と報告して、お金(使用料)を払えば終わり。報告を忘れると問題になるが、誤りを指摘されてから、
「忘れてました。」
と事後報告を出せば、おしまい。それ以上は追求されない。
「知事、議員たる者、いかなる間違いも犯してはならない。」
というありもしない理想像ではなく、
「国会議員も人間で間違いをする。」
という実際的な考え方をしているからだ。日本のような聖人規格を採用していたら、知事や議員がいなくなる。ドイツではそんな些細な点では問題にならない。
ドイツの国会議員の不祥事 – 法務大臣が酒気帯び運転
わかりやすように、実例を出してみよう。
ドイツではちょくちょく夜間に検問を行い、飲酒運転、薬物の影響下での運転を取り締まっている。よりよって法務大臣が酒気帯び運転で捕まったことがある。
参照 : Sueddeutsche.de
大臣は500ユーロの罰金を払い、
「もう二度としません。」
とコメントして終わり。
日本なら
「大臣として失格だ。辞任しろ。」
などと言う言葉が出てくる。ドイツでは誰も言わなかった。
「大臣だって人間なので、誤りをすることはある。」
という当たり前の考え方だ。
ドイツの国会議員の不祥事 – 国会議員が麻薬所持
あるときは検問で国会議員が麻薬所持で検挙されたことがある。
参照 : stern
ドイツでも大きなニュースになった。もっともその後、責任を取って政務から辞任するとおしまい。あとは罰金を払うだけ。
日本のように少量の麻薬所持で逮捕、書類送検、裁判になることはない。裁判所はもっと大事な懸案を抱えているので、微量の麻薬所持に時間を割いている暇がない。
このように自分のミスを認めて、素早く職務から辞任すると、
「その勇気に感服した。」
などとお世辞までもらえてしまう。誰だって、人生の中で一度や二度は威張ることのできない誤りをした筈だ。
その誤りだけで人間、政治家の資質を判断するのはあまりにも表面的すぎる、ところが過失ではなく、故意の嘘は結構厳しく扱われる。
国会議員 学歴を詐称、バレたら雲隠れ!
Petra Hinz 女史は履歴書に大学で法律を専攻、国家試験に合格したと書いてSPDから国会議員に立候補、2005年に当選した。
以来、今日まで代議員として活躍してきた。出所は不明だが、2016年7月になって彼女の履歴書は”gelogen”(でっちあげ)だったと判明した。
参照 : welt
女史はこの嘘がばれると、その箇所を自身のホームページの経歴から削除させて、姿をくらませた。恥を感じる羞恥心は、まだ残っていたようだ。
次に女史が党に報告した内容では、
「転んで入院中。」
だった。姿をくらませる前に、
「SPD エッセン支部の役職から辞任します。」
と意思を表明したが、国会議員の席は確保したいようで、議席については一切触れていなかった。
早くこの件を”Ad acta”(処理済み)にしたいSPDにとって、彼女がSPD選出の国会議員で、のうのうと毎月13600ユーロの議員手当てをもらっているのは、とってもマズい。
最後通牒も無視
この件が処理できない限りSPDは笑い者になり、支持率が下がっていく。
案の定、エッセンのSPD支部はヒンツ女史がキャリアで嘘をつていることがわかっていたのに、何も処置をとらなかったことをスッパ抜かれると、最初のSPD党員が党員証を党に送り返してきた。
当初、
「彼女は入院しているから。」
とまだ「武士の情け」を見せていた党首のガブリエル氏だが、来年は下院選挙がある。
首相候補に立候補したいガブリエル氏は、最初の党員離脱を見ると堪忍袋の緒が切れた。
「48時間以内に国家議員の議席を返せ。」
と最後通牒をつきつけた。ところがヒンツ女史は最後通牒を無視、何もしなかった。
再度、笑い者になったガブリエル氏は地団駄をふんだが、辞任を強制させる手段がなく、女史のまだ残っている良心に訴えるしか方法がなかった。
しかし嘘が公になった今、国会議員の議席を辞任して、一体、どんな得があるだろう。来年選挙があり、彼女が再選されることはないが、辞任しなければ毎月の議員手当てが入ってくる。
こうしてヒンツ女史は姿をくらましたまま、議員手当てを受け取っている。
なんとかしてヒンツ女史を公の場所に引き釣り出して圧力をかけ、国会が再開される前に辞任に追い込みたいSPDは、履歴書の粉飾を、職務偽証で訴えることができないか調査中だ。
ドイツ人の履歴書
ちなみにドイツ人は、履歴書に関する限り平気で嘘をつく。
「サヨナラ。」、「アリガトウ」、それに「ピカチュウ」だけで、「日本語ができます。」と平気で言う。
本人は嘘を言っている自覚がなく、本当に日本語ができると思っている。だからドイツ人の言葉には注意が必要だ。
雇用者から依頼されて就職希望者の履歴書を調査している探偵事務所によると、候補者の1/3は履歴書に嘘が含まれているか、真実を隠しているという。
嘘をつくのは国会議員候補から社長候補、大学の講師、さらにはお掃除の仕事まで、どの職でも同じという。
ただし男性のほうが頻繁に嘘をつき、25歳から34歳までの年齢層が好んで履歴書を粉飾するそうだ。男性でも女性でも。次回、社員募集をされる際はご注意あれ。