ドイツ生活に「欠かせない」のが、警告通知 / Mahnung 。
ドイツで生活していたら、絶対に貰います。
問題はここから。
日本人は警告通知をもらっても、
「”Mahung”って何?」
と、その意味がわかっていません。
「どうせ詐欺でしょ。」
と、無視する人も多いです。
これが一番マズイ対処方法です。
ダチョウのように危機が迫って頭を草の中に突っ込んでも、危機は消えず、悪化するばかり。
警告通知は無視すれば解決できるものではなく、直ちに行動を起こす必要があります。
今回はドイツでの生活に必要な警告通知 / Mahnung への対応についてご紹介いたします。
この記事の目次
警告通知 / Mahnung – 請求書の未払い
多くの方が一番最初に経験する警告通知 / Mahnung は、請求書の未払いによるものです。
私もちょくちょくもらったのが、電気代の支払い。
以前は電力会社と契約すると、
「以下の日に〇〇ユーロ、下記の口座に払い込みされたし。」
という手紙が届いた。
そこには1年分の支払い日が、びっちり書き込まれている。
たまにこれを忘れると、忘れていませんか?/”Erinnerung”という表題で手紙が届く。
そこには毎月の電気料金に加えてしっかり、
「警告手数料」
として5ユーロが加算されていた。
ところがである。
民法では
「最初の警告で警告手数料を上乗せてはならない。」
となっている。誰でも支払いをうっかり忘れることがある。
なのに初回から警告手数料を要求するのは、消費者を過度に不利な立場におとしいれるので、不可!とされている。
ところがまったくチャラというわけではない。
未払いとは?
請求書の未払いに警告手数料を課すのが正しいか、否かを議論する前に、
「そもそも請求書はいつまでに払うものなのか。」
を規定する必要がある。
「そんなの簡単。請求書にいつまで支払えって書いてあるよ!」
と思われる方もいるかもしれない。
ところが民法には、
「債権者が請求書に書いている支払日は、あくまでも目標日であり、これを理由に警告することは許されず。」
とあるんである。
債務者(消費者)が守らないといけない支払い期限は、(ドイツ民法では)、「請求書の発行日から30日以内。」となっている。
わかりやすく言えば、支払い期限が明記されている、されていないに限らず、支払い期限は請求書の発行日から30日です。
だからドイツでは請求書には必ず、発行日が明記されています。
すなわち!
請求書の発行日から30日以内の警告通知 / Mahnung は違法なので、無効です。
例外
「例外があるからといって、規則の有効性が失われるものではない。」
とはドイツの諺。
このケースでも例外がある。
それはまさに冒頭で述べた、あらかじめ支払日がわかっている電気代の支払いの場合。
この場合は債権者は、30日間待つことなく、警告手数料を課すことができる。
同じ範疇に入るのが、携帯電話、フィットネス スタジオの会員費、家賃などなどです。
警告通知 / Mahnung 手数料の額
電力会社が警告手数料を課すのは合法だが、5EURの請求額は合法なのだろうか?
まず第一の原則は、警告手数料は請求額を超えてはならないとなっている。
もし5ユーロ未満の額面を払い忘れたのに、5ユーロの警告手数料を課すのは違法ということだ。
次のルールでは最初の警告通知では、その書類の郵送にかかった実費だけ請求していいことになっている。
早い話が郵便料金、封筒代、紙代、インク代などである。
このため、正規の警告手数料は2~3ユーロとなる。
この警告手数料に関する判例が幾つかある。
某電力会社が電気代の月々の支払を忘れたとして、客に5ユーロの警告手数料を請求した(これがドイツの典型的な例)。
消費者はこれを不服として高等裁判所まで訴えたから、余程怒ったのか、暇があったに違いない。
高等裁判所は5ユーロの警告手数料を違法として、1.20ユーロの手数料を合法とした。
参照 : (Az. 29 U 634/11)
すなわち皆さんが請求書の払い忘れでもらう警告手数料の多くは、違法ということになる。
そんな警告通知 / Mahnung が届いたら、封筒に貼られている切手料金を見て、
「判例 Az.29 U 634/11 により適正な警告手数料〇〇ユーロを払います。」
と債務者に伝えればよい。
訴えられないの?
わずか数ユーロで訴える会社はありません。
ちなみに私はこれまで一回目の警告通知 / Mahnung を貰ったら、警告手数料を無視して、本来払うべき額だけ払ってました。
これまで一度として不足分の5ユーロを要求されたことはありません。
あくまでも、「これまでは。」ですけどね。
警告手数料詐欺に要注意!
中には警告通知が弁護士事務所 /Inkassobüro から届くケースもある。
弁護士事務所が出てくると、請求額はうなぎのぼりです。
そんなときの対処法は二通り。
- 請求自体は正当な場合
上述の通り最初の警告書では、手紙の郵送にかかった実費だけ請求できるので、これは違法です。
違法ですから、警告手数料は払う必要がありません。
支払い要求が正当なものであれば請求額+2ユーロだけ払い、
「請求額+法定警告手数料の2ユーロをお支払いしました。」
と相手に伝えておこう。
- 請求自体に身に覚えのない場合
使った覚えのない会社から請求書が届いた場合、詐欺の可能性が高いです。
稀に携帯会社がお金の回収に弁護士事務所 /Inkassobüro を使うケースもある。」
早合点する前にどんなサービスに対しての請求なのか、まずはチェック。
身に覚えのないサービスの請求だと確認したら、無視しては駄目!
ドイツでは不当な請求でも、放っておくと、裁判所から手紙が届き、正当な要求に早変わりします。
身に覚えのない手紙が届いたらお住まいの街にある消費者センターで助けてもらうか、弁護士保険に加入されている方は、そちらで相談しましょう。
警告通知 / Mahnung を無視するとどうなる?
ところが冒頭で述べたように、最初の警告通知 / Mahnung で行動を取らない人が結構多い。とりわけ外国人に。警告に反応しない場合はどうなるんだろう?
その場合は債権者は”Verzugszinsen”と呼ばれる未払い利息を上乗せする権利がある。が、ここでも民法で未払い利息が規定されており、「二度目以降の警告通知の利息は5%を超えてはならない。」となっている。厳密に言えば、2020年では4.14%。
すなわち1000ユーロの家賃を払い忘れて警告通知 / Mahnung が届いたら、利息は最大限で4.14ユーロまで許されていることになる。
問題はここから。ドイツ大手の電話会社、ドイツ テレコムなどはすでに二度目の警告書で弁護士事務所 / Inkassobüro を使用する。すると未払い利息に加えて、弁護士事務所の手数料が60ユーロ以上も加算されている。
これは払わなければならないのだろうか?
二度目以降の警告通知 / Mahnung
二度目の警告通知が届き、そこに本来の請求額を上回る警告手数料が載っていた場合、原則、これを払う義務があります。原則というのは、その警告手数料が常識の範囲内であることが条件です。すなわち本来の請求額が70ユーロなのに、いきなり700ユーロもの警告手数料を乗せるのは、常識の範囲を超えます。
しかし電話代金の未払いで60ユーロ程度の警告手数料は「常識の範囲内」ですので、払う義務があります。
通常では(ドイツ テレコムでなければ)二度目の警告通知では、20~30ユーロの手数料が課され、三度目の警告通知では、40~50ユーロの手数料が課されます。それでも支払いがない場合は、この件は弁護士事務所 / Inkassobüro の扱いなり、ここからの警告手数料は高いっ!安い場合でも三桁です。
警告通知は回数が増えるにつれ高くなるので、最初の警告通知 / Mahnung が届くと、見てみないフリをするのではなく、直ちに行動を取る必要があります。
どうしてドイツ テレコムはすぐに弁護士事務所を使うの?
では何故、ドイツを代表する企業、ドイツ テレコムはすぐに弁護士事務所 / Inkassobüro を使用するのでしょう?理由は簡単。2ユーロの支払い催促状を送っても、儲からないから。でも数万の顧客に60ユーロの警告通知を送れば、数十万の客を持つ会社の利益は数百万ユーロ。
電話会社なんぞしているよりも、はるかに収益率が高いです。ですからドイツ テレコムはすぐに弁護士事務所を使います。ドイツ テレコムで契約している方は、要注意。
手紙が届いていなかったら?
ごく稀に債権者からの警告通知が届かない場合があります。債権者が住所を間違って手紙を送り続け、入金がないので最後は弁護士事務所 / Inkassobüro が登場。弁護士事務所はちゃんと市役所で登録された住所を調べ、正しい住所に送付。
すると債務者はこれまで一度も警告通知をもらっていないのに、いきなり高額の弁護士費用の支払いを要求されるわけです。
このような場合では、債務者には弁護士費用の支払い義務はなく、弁護士費用は債権者の自腹になります。するとこれを利用して、「”Mahnung”なんて届いてません。」とシラを切る人も。果たしてそんな言い訳が通じるんでしょうか?
証明義務
「手紙が届いていないよ!」と言い張る人は、それが本当であれ、嘘であれ、これを証明する義務を負います。そう、本当に手紙が届いていないと証明しなくてはなりません。
どうすればいいの?
一番スマートな方法は先方が送ったという支払い催促状のコピーをメールなどで送ってもらうこと。そこにはあなたの住所が載っています。これが間違っていれば、「ほら!間違ってるでしょ!」と証明になるので、この書類は大切に保管しておきましょう。
住所は正確なのに、本当に届いていない場合は?
その場合は「万事休す」です。どんなに正しくても、これを証明できる手立てがなくては、正義は得られません。効果は疑わしいですが、郵便を配達する郵便局に「手紙が届いていない。」と苦情をあげ、その陳情書を「証拠」として提出することもできますが、効果は不明。
Abmahnung って何? 【ドイツ生活の常識】
“Mahnung”は個人生活での出来事ですが、仕事をしていても、雇用主/会社から警告書もらうことがあります。これを”Abmahung”と言います。もらっても、「”Abmahnung” って何よ?」って呑気な日本人も少なくないです。
“Abmahnung”は、会社が従業員をクビするための常套手段です。表向きの意味(理由)は、社員の勤務態度が悪いで、これを公正するように促す(警告する)ものです。例えばこちらで書いているように、
病欠するのにちゃんと上司に連絡しなかった場合。ちゃんと連絡せずに自宅で療養、病気が治って会社に行くと”Abmahnung”が待っています。
この警告にも関わらず勤務態度が改善されない場合、会社は二度、三度と”Abmahnung”を出すまでもなく、二度目でクビにできます。ですから最初に”Abmahnung”をもらったら、すぐに対処が必要です。
社員を解雇できないっ!
欧州には労働者が劣悪な労働環境と長く戦って、労働者の権利を奪取してきた長い闘争の歴史があります。このため一度社員を雇用すると、なかなか首にできないという状況にあります。社員をクビにできるのは、不況で会社の屋台骨が傾いた場合くらいです。
参照 : wikipedia
そこで会社は扱い難い社員を他の手段を使って、厄介払いしようとします。その手段として使用されるのが”Abmahnung”という処置です。ひどい場合は、スーパーで盗難があると特定の社員に濡れ義務を着せて、”Abmahnung”を出します。
あとはその従業員が何かミスをするのを待つだけ。遅刻だったり、仕事上のミスを犯すと、「待ってました!」と二度目の”Abmahnung”& 解雇が下されます。
勿論、正当なケースもあります。会社の社長を公然と、”Arschloch!”なんて非難すると、すぐ翌日に”Abmahnung”がもらえます。このような正当なケースはまあ仕方ないですが、身に覚えのない場合、どうすればいいのでしょう?
Abmahnung 対処法
“Abmahnung”をもらったら、きっと腹が立つと思いますが、まずはじっと我慢しましょう。会社側はあなたのリアクションを解雇の理由にすべく期待している場合もあるので、何も言わないのが身のためです。
会社側の非難がでっち上げである場合は、証人になってくれる人/同僚を探しましょう。そして証人は一人だけよりも、複数いたほうが有利です。
それから会社に労働組合がある場合は、ここにすぐに相談しましょう。あなたのために会社と交渉してくれます。労働組合がない場合は弁護士保険を使って、弁護士に相談しましょう。弁護士保険に入っていない場合は、解雇される危険があるので、すぐに加入しましょう。
警告書の撤回
警告書の始末が悪いのは、交通違反のように「2年行儀よくしたら違反点数が消える。」というわけでなく、永遠に残る事。1年前の”Abmahnung”が理由で、仕事中に携帯電話を見たことを理由に、首になる事だってあります。
最初の警告から2~3年以上経っていれば、おそらく解雇される危険はなし。もしそれでも解雇されたら、不当解雇で訴えればいいです。「3年間も非難されずに真面目に勤務していたのに、一回だけの誤りで解雇は行き過ぎだ。」と主張すれば、裁判は勝てる見込みが大。
もっとも3年間もミスも遅刻もしないで仕事ができる人は居ません。ですから、最初の警告書の撤回を求めて訴える人も多いです。というのも”Abmahnung”には、「勤務態度が悪い。」などのような抽象的な理由ではなく、具体的な内容が書かれているべきなんです。
弁護士が警告書を見れば、「正しい」警告書なのか、「誤った」警告書であるか、簡単にわかります。誤っていればこれを不服として撤回を求めれば、まず負けることはありません。
又、仮に正しい警告書であっても、日本の会社は裁判所で争うのを極度に嫌がります。裁判になれば会社側も折れて、「警告書を撤回するから、訴えも取り下げてくれ。」という形で和解に終わることが多いです。
大事なのは、あなたがこのような事態に対して、抵抗する固い意思がある事を見せること。断固とした態度を見せれば、ドイツの法律に詳しくない日本の会社はまず先に折れてきます。
Abmahnung 関連判例
ある技師が通勤後、会社で仕事着に着替えてから、仕事に就いていました。その際、着替えの時間も仕事時間に入れていたんです。会社は「着替え時間は仕事時間ではない。」と警告書を出しました。技師はこれを不服として警告書の撤回を求めて労働裁判所に訴えました。
判決
労働裁判所は、「すでに自宅で身に着けて、その姿で通勤しなさい。」という主張は、過度の請求 / unzumubar だとして、会社側に警告書の撤回、及び、着替え時間を労働時間として認めるように判決を下しました。