5Gのインフラからファーウェイを排除 【ドイツ】
将来のインターネット網 5G。
その5Gの電波 FR2 はこれまでの4Gと異なり、電波の到達距離が短い。にもかかわらず10GBまでの情報伝達を可能にするには、これまでの倍近い数の中継センターが必要になる。
早い話、その中継センターを構築する会社、スウエーデンのエリクソン、ノルウエーのノキア、それに中国のファーウェイにとって、大きく儲ける絶好のチャンス。
この三社の中でもとりわけいい商売を期待していたのが、中国のファーウェイだった。技術は北欧の二社に勝るとも劣らず一流で、格安。
当然、これまで多くの受注を受けていた。その受注の規模は5G導入により、飛躍的に上昇する筈だった、、。
この記事の目次
5G 周波数オークション
5G 導入に先んじて、2019年、ドイツではまず周波数のオークションが行われた。
詳しい解説は省略するが、この5G 周波数オークションは1か月以上も続き、最後には携帯会社は併せて650億ユーロ(8000億円)もの大金を払った。
参照 : heise online
あまりの高額なオークションだったため、
「中継センターを構築する金が足らない。」
と、携帯各社は文句を言った。そんな携帯会社が中継センターを構築で期待していたのが、中国のファーウェイだった。
その理由は改めて述べる間でもなかろう。
親中派の通産大臣 アルトマイヤー
ところがちょうどこの頃からトランプ政権による、
「ファーウェイ叩き」
が始まった。ドイツ政府が米国の圧力に負け、
「ファーウェイは5Gのインフラから削除すべし。」
と言った際は、すでに構築した中継センターのシステムを、北欧製のシステムに入れ替えなくてはならない。
そんな事になった日には、5Gの導入さえも遅れる。
携帯メーカーは
「周波数に650億ユーロも払ったんだから、国もその辺を考慮してもいいだろう。」
とロビイ活動をかけた。親中派の通産大臣 アルトマイヤー氏はこの陳情に大きな理解を示して、
「5Gのインフラから中国のファーウエイを排除するのは間違いだ。」
と、中国政府が顔をあからめるほどのラブコールを送った。
メルケル首相も親中派で、中国におけるドイツ製品の販売を阻害することはどうしても避けたかった。そこでドイツだけは、米国や英国と違う道を選ぶかのように見えた。
中国政府 チェコを制裁で脅す
メルケル首相は中国政府によるウイグル人の抑圧を、ドイツ製品販売のためなら、見ていないフリをするだけの「愛国心」があった。
中国がオーストラリア首相の当たり前の要求、
「コロナウイルスの出所を調査すべきだ。」
に怒り、オーストリア産の牛肉の輸入を凍結、オーストラリアへ圧力をかけても、
「地球の裏の話」
と、見ていないフリをするだけの「愛国心」があった。
ところがである、中国の外務大臣がドイツを訪問中、ドイツの隣国チェコを、
「高い代償を払う事になる。」
と脅した。
参照 : spiegel
この脅しは、チェコの官僚が台湾を訪問したのに対して発せられたものだが、これはまずかった。
ドイツ政府は中国の支配地域、あるいは地球の裏で起きる小さな紛争には、ドイツ製品を売るためには目をつむる。
しかしそれにも限度がある。EU加盟国であるドイツの隣国を脅す中国の高圧的な態度は、ベルリンの態度を硬化させた。
これまではドイツ製品を買ってくれる友好国だったが、中国はEUを脅す存在へと変わった。
そんな国の企業の製品を、ドイツの死活的な5Gインフラに使用すると、将来、情報を抜き取るどころが、日本の東証のようにシャットダウンされるやもしれない。
中国批判の旗手 ドイツ外務省
中国のチェコ脅しに最初に声を上げたのが、外務省だった。
マース氏は中国の外務大臣との面会で、
「(我々が尊重する価値観)への脅しは受け入れられない。」
と、はっきりと明言した。
参照 : Tagesspiegel
面子を重んじるアジア人にとって、訪問先でカメラの前で非難されるのは、かなり応えたに違いない。
さらに外務大臣はウイグル自治区の国連による調査も要求した。メルケル首相の心境は穏やかではなかったろう。
中国製品の導入を警告する ドイツ諜報局
ドイツ外務省と同じ警告を発しているのが、ドイツの諜報局 / BND だ。
諜報局の長官は国会で、
「当局は中国製の製品を大事な5Gインフラに使用することは、安全性に欠けるという結論に達した。」
と報告した。長官はさらに、
「5Gのインフラをサボタージュに使われる危険性がある。」
とまではっきりと警告した。
この明確な示唆にもかかわらず、メルケル首相と通産大臣のアルトマイヤー氏は、中国のファーウェイを除外することには反対した。
IT 安全法 / IT-Sicherheitsgesetz
日本だったらそれでも首相の一存で決まっていただろう。
ドイツが日本と違うのは、決断は関係省庁に任せられている事。
政府は5Gのインフラの安全性をチェックするためにIT 安全法 / IT-Sicherheitsgesetz にて5Gインフラで使用される部品、システムの規範を設定することにした。
そのIT 安全法の最終調整が行われ、法案が出来上がった。
そこには中国のファーウェイは排除するとは書かれておらず、5Gインフラに使用される機器は BSI-認証 / Zertifizierung という安全規格を取得していることが条件となっていた。
5Gのインフラからファーウェイを排除
この法案を見せられた通産大臣のアルトマイヤーは、大いに怒った。
まず通産大臣の氏が、IT 安全法の最終調整に招かれず、反中派の外務省と諜報局が法案を策定してしまった。
政府の発表によれば、
「官僚の手違いで通産省への招待状が届いていなかった。」
というが、これを信じるほどおめでたい人は居ないだろう。邪魔者扱いにされたのに腹が立つが、もっと腹が立つのはBSI-認証だった。
BSI-認証とは?
IT-安全法案によると、5Gのインフラに使用される機器はあらかじめ、当該機関に使用する機器の認可申請を出す必要がある。
お役所が求めるさまざまなデータ、書類を時間とお金をかけて準備して申請して、
「問題なし。」
と判断された場合は、BSI-認証が下りて、この機器を使用することができる。
もっとはっきり言えば、中国のファーウェイ製の機器の使用申請を出しても、BSI-認証 が下りる可能性は高くない。
そんな通るかどうかわからない認証申請に、長い時間と金を使って中国のファーウェイ製の機器の申請をする携帯メーカーはいない。
その一方で英国のように、
「中国のファーウェイ製の機器は排除する。」
と書いていないので、中国政府は文句をつけるきっかけがない。勿論、それでも中国政府は文句を言うだろうが、ドイツ政府は、
「どの会社の製品も公平に審査されます。」
と、言い返すことができる。
ドイツの対応は、中国を(あまり)怒らせることなくして、上品に中国のファーウェイ製品を排除する見事な方法を考え出した。
お見事と言わざるを得ない。
NEC のチャンス – 5Gのインフラからファーウェイを排除
聞けば、日本のNEC も5Gのコンポーネントを提供しているという。
ファーウェイ製品の締め出しの隙に乗じて、NECは早くも英国政府と5Gのコンポーネントを納入する事で合意した。日本勢にしては珍しく、気を見るに敏な行動で驚いた。」
これまではNetzausrüster / ネットインフラの分野では、
- ファーウェイ
- ノキア
- エリクソン
- シスコ
- ZTE
- サムスン
が主力。NECはあまりにも史上占有率が低くて、統計にも出てこない。しかし、それはこれまでの話。
これからフランスでもドイツでも同じような商売のチャンスが待っているので、ほとんど商売のなかったNECにも是非、頑張ってもらいたい。