MK556 ドイツ軍の新しい標準突撃銃決定!
2015年、ドイツ軍の標準装備の突撃銃 G36 が、
「的に当たらない。」
という疑惑が持ち上がった。当時の国防大臣は事態を大真面目に取り調査員会を設置。
1年以上の時間をかけてこの噂の真偽を調査した。結果、高温の気候下での使用、あるいは連射した後では命中率が下がることが確認された。
と聞けば大事に聞こえるかもしれないが、火薬を大量に消費すれば熱が発生して鉄が膨張、命中率が下がるのは自然の理。命中率が下がらない銃などは存在していない。
肝心なのは高温下での使用により、どの程度命中率が下がるのか、程度の問題だ。これが「許容範囲」を超えていた。
この事実を踏まえた上、国防大臣に就任したばかりの、フォン デア ライン女史は軍に事情徴収をした結果、新しい標準突撃銃を調達する決断を下した。
参照 : ドイツ軍標準突撃銃 G36 – 暑いと当たらない問題
この記事の目次
新しい標準突撃銃を探せ!
規定に乗っ取り、ドイツ国防省は標準突撃銃を欧州全域に公募した。
ドイツ一の軍需産業、ラインメタル社も応募したが、審査過程が長引くと、応募をひっこめた。
Sig Sauer 社はスイス軍に納入している超モダンな高性能突撃銃装備 MCX-Sturmgewehr
参照 :sig sauer.de
で応募したが、社内テストに必要なドイツ軍ご用達の弾倉が、約束とは裏腹に届けられなかった。
銃の性能は使う火薬によって大きく左右される。だからSig Sauer 社はドイツ軍で使用される弾倉を使い、最高の性能が出るように調整をしたかった。
が、国防軍は同社の応募を妨害、Sig Sauer 社は腹を立てて応募を取り消した。
最終審査に残ったのは、ドイツの2社だけ。
これまで標準突撃銃を納めてきた宮廷供給先、ヘックラー & コッホ、それに日本では馴染みのないヘーネルの二社だけ。
2019年には公募の結果が出る筈だっが、1年以上も遅れた。軍の標準装備である突撃銃に不具合があるというのに、のんびりしたものだ。
MK556 ドイツ軍の新しい標準突撃銃決定!
コロナ禍が一段落した2020年9月、国防省は公募の結果を発表した。
その結果は予想外、ヘーネルのMK556が次期標準突撃銃は決まったと発表された。
参照 : spiegel
ヘーネル MK556 突撃銃スペック
皆さん、お待ちかねのヘーネル MK556 突撃銃のスペックだが、銃弾はNato標準弾の5,56mm x45mm。
銃の長さは、用途に合わせて銃床(肩当ての部分です。)を変えられるので、3つの異なる銃身がある。
一番長いモデルで838mmと、結構、短い。短いモデルでは696mm。
自衛隊の20式小銃は854mmなので、小さい日本人の体格向けの小銃よりも短い。
日本人の体形ならちょうどいいが、ドイツ人の体格ではちと短い気がする。銃身が短いと命中率が下がるので、何故、ここまで銃身を短くしたのだろう。
それは今後の突撃銃の使用現場を想定した上での、特徴のようだ。
過去、ドイツ軍が派遣されたのは、アフリカとアフガンの荒野を除けば市街地での任務だった。
建物内でのテロリスト掃討作戦では、銃身が長いと不利になる。さらには銃口に消音機を装着すると、さらに銃身が長くなる。これを想定して、銃身を短くしたのかもしれない。
重いの?
一番重いモデルでも3.6kg。私が自衛隊で担いでいた銃より1Kgも軽い。
「なんだ、たかが1Kg。」
と思うかもしれませんが、40kg担いで40Km も歩いていると、大きな差です。
おまけに5,56mm は弾倉も軽い。
その弾倉には30発入る。自衛隊の20式は45発入るらしいが、射撃訓練で撃たせてもらえるのはせいぜい9発。45発の弾倉なんか、スペースの無駄に終わるだろう。
ヘーネル社のホームページには、
「あやゆる気候の下で証明された。」
と書かれており、ヘックラー & コッホのG36のあてつけのようだ。
参照 : MK556
肝心要の銃口初速は未公開。
ヘーネル / Haenel ってどんな会社
ヘーネル / Haenel 社は1840年、当時のプロイセン王国でヘーネル氏が開いた自転車 & 兵器商に端を発する。
その後、プロイセン軍に拳銃を製造、第一次大戦中は、他社が設計したドイツ軍の標準小銃をパテント生産した。
同社の名前が歴史に残ることになったのは、第二次大戦中、世界で最初の突撃銃 / Sturmgewehr 44 を開発、ドイツ軍に正式採用されたことに端を発する。
戦後はヘーネルは東ドイツで細々と空気銃、それに狩猟用の銃を製造していた。
転機が訪れたのはドイツ再統合。
国防省のご用達兵器商のヘックラー & コッホ社を差し置いて、同社の製造した狙撃銃 RS9 はドイツ軍の狙撃銃として採用された。
2018年にはMK556 の前身モデルのCR223 がハンブルク警察に納入されている。
参照 : haenel cr223
そして今回初めてドイツ軍の標準突撃銃として採用されたMK556 、実はすでにザクセン州の警察に採用されている。
下着泥棒や痴漢魔と戦う日本の警察と違い、ドイツの警察はテロリストと戦うので、特殊部隊 / SEK は、軍と同じ装備を擁している。
ここでの実績が、今回のドイツ軍標準突撃銃の公募に役立ったのは間違いない。
Sig Sauer 社が苦言を呈したように、ヘーネル社はすでにドイツ軍の標準弾薬で十分な経験を積むことができた。
そして今回はドイツ軍の標準突撃銃12万丁、2億5000万ユーロ(2億円)の受注となった。
ヘックラー & コッホの反撃
戦後、ドイツ軍に標準装備の突撃銃を納めてきたヘックラー & コッホが
「負けますた。」
と、潔く負けを認めると思ったら、大間違い。同社は、
「選抜の仕組みが不透明」
という選抜方法に関する苦情から、
「12万丁もの突撃銃を期限内に収められる能力を持つのは、ヘックラー & コッホだけ。」
と、商売敵の製造能力を疑問視すると、
「ヘーネル社は中東のUAEが親会社であり、外国の会社に軍の装備を注文するのはいかがなものか。」
と、会社の信用性まで論拠として持ち出してきた。
もっともヘックラー & コッホの大株主はフランスの投資家で、事実上、同社も外国の会社であることには、触れなかった。
同社は長年育ててきた政界へのパイプ、ロビイストを使って、国防省の決定を覆すべく、工作を開始している。
公募で負けた会社は、
「異議あり!」
をする権利も認められており、ひょっとしたらまだひと悶着あるかもしれない。
国防省 ヘーネル / Haenel へのオーダーをキャンセル!
ドイツ国防省は10月9日、
「パテント侵害の恐れがあるため、ヘーネル社へのオーダーをキャンセルする。」
と発表した。
参照 : Süddeutsche Zeitung
パテント云々は、ただの言い訳。日本の政治家がコロナ禍でいつも使う、
「総合的見地から判断する。」
と同じです。
予想していた通り、ヘックラー & コッホ社の抗議が功を奏した形だ。
数か月後には、ヘックラー & コッホ社の突撃銃がドイツ軍の正式突撃銃に選ばれることだろう。
ヘックラー & コッホ 突撃銃のオーダーをゲット!
2021年3月2日、ヘックラー & コッホ社がドイツ軍の標準装備の突撃銃のオーダーをゲットしたと報道された。
参照 : tagesschau.de
形の上では、
「パテント侵害の恐れが明確になったため」
という理由になっている。本当の所は、国防省の調達部の官僚のみぞ知るだ。
オーダーのキャンセルを受けたヘーネル / Haenel 社は、法的な措置に訴えると声明を出しており、突撃銃のオーダー問題はさらに数年は続きそうだ。
これまでもドイツ軍の装備の注文では、不透明な部分が多かった。この装備品導入の不透明さを無くすと公言して、国防大臣に就いたカレンバオアー女史だ。
しかし注文額の知れている小銃の導入でさえ、揉めに揉めた。これが駆逐艦や次期新戦闘機の導入になれば、もう目も当てられない。