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EU 議会選挙 – 大敗を喫したドイツの二大政党

投稿日:2019年6月1日 更新日:

EU 議会選挙 が2019年5月末に行われた。この選挙は、4億人の有権者が投票して751の議員を選出する世界で最大の民主選挙だ。幾つかの予想外の投票結果はあったものの、大雑把に言えば、ほぼ予想した通りの結果になった。選挙後、ドイツの二大政党、”CDU”と”SPD”の党首が、それぞれ異なる理由で避難の的になっている。

EU 議会選挙 - 大敗を喫したドイツの二大政党

とりわけ去年、CDU の党首に就任したカレンバオアー女史は、ドイツ全土で”Shitstoom”(日本語では炎上)を巻き起こしている。選挙結果よりもそちらの方が面白いので、党首になるほどの豊かな政治経験を持つ政治家が何をしでかしたのか、紹介してみたい。でもまずはその前に、、。

EU 議会選挙

まずは EU 議会選挙 の結果を見てみよう。センセーショナルな報道が好きな日本のメデイアは、「右翼政党が圧勝!EU崩壊の危機!」とやった。実際に”Brexit”で揉める英国では、地滑り的にポプリストが勝利した。阿部首相のような大企業優先の経済政策を進めていたフランスのマコン首相、国民から大反対を受けて、右翼が最大の得票数を確保した。

ヒトラーよりも10年先にムッソリーニ、そしてファシズムを生んだ情熱の国イタリア。ここでもイタリア人は欧州政府の難民政策に堪忍袋の緒を切らして、右翼政党が躍進した。

それでも右翼が獲得した議席数は、日本の報道機関が予言していたEU議会の1/3には程遠かった。

参照元 : RP Online

しかるに日本の報道機関の手にかかると、「右翼の大躍進!」となる。日本のメデイアがどれだけいい加減な報道をしているか、これを象徴する事例だ。同じ調子で韓国、中国の(非難)報道をしているので、良識ある日本人はどうか惑わされないでほしい。

誤解を招かないように言っておくと、右翼が勝利したのは間違いない。しかし右翼政党以上に得票率を伸ばした党もある。それは緑の党”Grüne”だ。しかしこれを報道してもセンセーションに欠けるので、報道されない。

他にリベラル派の党 “ALDE”も大きく得票率を伸ばして、第三の勢力に躍進した。右翼よりも得票率、議席数は多い。日本の報道機関の手法を用いれば、「リベラル派の地滑り勝利!EU結束力の証明!」となるだろう。

大敗を喫したドイツの二大政党

逆に選挙で得票率を多く落としたのは最大派閥の保守派”EVP”、それに社会民主党”S&D”だった。とりわけ社会民主党は散々な負け戦で、ドイツ国内ではなんと緑の党に追い越されてしまった!

参照元 : Merkur.de

かって卓越した首相を輩出してきた社会民主党が、いよいよ緑の党に追い越されるまで支持率を落としたことは、ドイツでは大きなテーマになった。そもそも緑の党は社会民主党内の小さな派閥、環境保護派だった。この派閥が党から分離してできたのが緑の党。この小さな派閥が母体の社会民主党を歴史上、初めて追い越したことの意義は大きい。

SPD 党首ナーレス女史 – 奇襲攻撃

2年前、SPD 党首だったシュミット氏は首相候補に立候補、歴史に残る決定的な敗北を喫した。その後、何度も前言を翻したことで党内の反発をくらい、「100日天下」で党首の座から転げ落ちた。「棚から牡丹餅」で党首になったのが、ナーレス女史だった。

参照元 : ドイツの最新事情

しかし党内左派の女史は、党をひとつにまとめるこができなかった。SPD 支持率低下の原因は、誰の目にも明らか。SPDの(元)シュレーダー首相が導入した社会保障改革、とりわけ年金カットと”Hart4″が非難の的に。党の若手組合長が”Hart4″からの離脱を要求するも、女史は、「路線変更はあり得ない!」と党の路線を保護。

ところが地方選挙でも大敗北。すると、「”Hart4″は見直す時期に来ている。」と、態度をころっと変えた。ナーレス女史は左に方向転換をして、社会保障改革で失った支持者を取り戻したいと考えた。ところが連立政権である以上、これを正式な政策/法令にするには、CDU/CSU の承認がいる。産業(雇用者)を支持者に持つ CDU/CSU がそんな改革を認めるわけがなかった。

こうして SPD の左派路線も行き詰った。そして今回のEU議会選挙での大敗北。党首の責任問題、「ナーレス党首は適任なのか?」が浮上するのは時間の問題だった。これを察知した党首は自ら、「特別会合を開いて党に信任を問う。」と奇襲に打って出た。

参照元 : Tagesschau

かって大日本帝国は、フランスがドイツに敗北したのを見ると、「進軍しない。」という約束を破ってベトナムに軍を進めて占領してしまった。約束を破った日本に対してアメリカは石油の輸出禁止を発令。日本は「まだ十分な石油の備蓄があるうちに打って出る!」と、開戦を決めた。

女史のこの決定は、日本軍並みの、「一か八か」の戦術だ。しかしナーレス女史の党内での支持率は、日本の石油の備蓄量と一緒で、日々、減退している。

しかし何もせず今年10月の定例会合まで待っていると、政敵に準備をする十分な時間を与えてしまう!そこで奇襲攻撃を慣行、6月4日を作戦決行日とした。

急を突かれたナーレス反対派は、誰も対立候補に出る準備ができておらず、今の時点でも一人として名乗りを上げていない。果たしてナーレス党首のこの奇襲攻撃は、うまくいくのだろうか?

CDU 党首 カレンバオアー女史 – アナログ世代の痛恨のエラー

CDU党首、カレンバオアー女史、党首として初の選挙で大敗を喫してしまった。これまで選挙で滅多に負けたことがない女史は、「私が悪いわけがない。」と確信しており、そこで敗北の責任を他人のせいにしてしまった!

というのもEU議会選挙の1週間ほど前に人気のユーチューバーが、”Die Zerstörung der CDU”(CDUを壊滅させる)と題したビデヲをアップロードした。

よくある事実をかけ離れた主張ではなく、大学生のように主張の元になるデータ “Quelle” を準備しており、これを武器にCDUをこき下ろした。全部が真実ではないが、真実を多く含んでるので信用性があった。何よりも若者向けの言葉で発信しているので、政治的なメッセージであるのに大ヒット。100万人をこえるドイツ人がビデヲを見た。

カレンバオアー女史はEU議会選挙の数日後に記者会見を開くと、「選挙の数日前にこのようなビデヲを使い世論を操作するのが正しいのか、議論されるべきだ。私の党はこの議論を先頭にたって進めたい。」とやった。

参照元 : Handelsblatt

日本では自民党議員を筆頭に、メデイアで非難されると堂々と苦情を入れる。メデイアに圧力をかけて、今後の報道を有利な内容にさせるのが狙いだ。日本では当たり前だが、ドイツでこれをやるのは自殺行為に等しい。意見の自由な発言はドイツの基本法第五章に謡われており、いかなる政権でも変更することができない「永久条項」だ。

その憲法で認められている基本権を制限しようとするカレンバオアー党首の意見は、ドイツ全土で”Shitstoom”(日本では炎上)を巻き起こした。攻撃していたのに、メデイアからの総攻撃を受けて防御に移った女史は、「意見の自由を規制するつもりはない。」と遅ればせに弁護したが、種はまかれた後だった。

Youチューバーの反攻

人気のYouチューバーが結束して、CDU/CSU、 とばっちりを食ったSPD、そして右翼の AfD へ投票しないように、呼びかけている。すると引くことを知らないカレンバオアー党首、「イビッツアで2~3日休んできないさい。」と反撃した。

参照元 : stern

これはオーストリアで政権退陣を招いたやらせビデヲ、「イビッツア ビデヲ」に皮肉ったものだ。お陰で事態は収拾するどころかエスカレート、普段は政治に興味ない若者まで一致団結して、CDU に抗議している。

かってトルコの大統領の批判番組が、ドイツのテレビで報道された。トルコの大統領がこれに激怒すると、メルケル首相は(トルコ政府に)「番組が放映されたのを遺憾に思う。」とやった。その後、「首相は意見の自由な発言を、トルコの独裁者のご機嫌を取るために犠牲にした。」と報道され、炎上しかけたことがある。しかしそこは老練なメルケル首相、「あの発言は誤りだった。」と発言することにより、被害を最小限度に留めたことがある。

いずれはカレンバオアー党首も誤りに気付き、「そんなつもりではなかった。」とやるだろう。問題はいつまでこの泥沼戦を続けるかだ。Youチューバーにとって、今回のネタは天の恵み。クリック数が増えるので、次から次にビデヲをアップロードしている。一方、CDU は「ビデヲにはビデヲで対抗する。」と宣言したものの、宣言だけに終わってまたしても非難の対象に。

Youチューバーと言えど、そこは大衆を引き付ける技を知り尽くしたプロ。一方、カレンバオアー党首はアナログ世代。敵が知り尽くした土地で戦闘を行うのは、今も昔も、賢い戦術ではない。

編集後記

この記事を書いた3日後の6月2日、SPD 党首のナーレス女史は党首から辞任すると表明した。

参照元 : Handelsblatt

言わんこっちゃない、奇襲攻撃は今度も成功しなかった。

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執筆者:

nishi

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